春雷駆けるアゴニ―
@Fondy
第0章 枯れた冬が飽和する
「ごめんなさい……私なんかと会わせてしまって」
この言葉でさえカルテには載らない。カルテなんてもの、単調で窮屈な言葉を並べて彼女を欺く屑だ。番号を振られ綺麗に並べられた欺瞞ばかりの紙の束を投げ飛ばす。
「――最低だ……なんて最低なんだ」
君がくれたあれだけの人生を、僕はただ番号として残すことしかできない。窮屈な診療室の蛍光灯はチカチカと不安定に点滅する。嗚呼、と嗚咽交じりの声だけが出せるだけで、あとは乾いた風が吹き込むだけだった。
「救えなかった……一番救いたかった人を、救えないなんて」
どうして僕はカウンセラーになんてなったのだろうか、と言おうとして口を噤む。違う。何から何まで違ったんだ。僕は誰かを救いたくてカウンセラーになろうとしたんじゃない。ただ楽だと思ったから、ただ悩みを聞いてそれっぽいことを言えばお金を稼げる、きっとそういう楽に稼げる職業に就きたかっただけなんだ。バラバラに散らばったカルテの一枚一枚が罪となって、免罪符ではもうどうにもならないことを暗示する。闇に呑まれる無間地獄の中でただ懺悔をするように咆吼する。もはやそれすら罪である様に、ただ心の内が苦しみ悶えている……
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