第7話・涙



 特別授業の後は、ちい兄が家まで送ってくれた。

 帰る家が違うからいつもは別々なのに、どうしたのかと聞くと、今日の特別授業の様子から、私の事が少し心配になったらしい。

 私はちい兄にお礼を言って、素直に甘える事にした。


「ねぇ、ちい兄……」


「なんだ?」


「特別授業さぁ、やっぱりいろいろとわからない事だらけなんだけど……私は亘先生の言葉を信じて、強くなったらいいって事なんだよねぇ?」


 今日の授業は、守るべきものがおじいちゃんたちっていうあたりから、もう頭が混乱して、わけがわからなくなってた。


「とりあえず、おじいちゃんたちは守られているから大丈夫。自分にできる事をすればいい……これでいいんだよね?」


 そう聞くと、ちい兄は苦笑しながら、あぁ、と頷いた。


「俺もさ、守るべきものがじいちゃんたちって知った時は、マジでびっくりした。でも、今のお前と同じで、何としても守らなくっちゃって思った。だってさ、俺やお前にとったら、じいちゃんとばあちゃんが、父ちゃんと母ちゃんみたいなもんじゃん。実の父親は、クソ野郎だしさ」


「クソ野郎って……」


「クソなんだよ、あの親父は」


 ちい兄は吐き捨てるように言った。

 きっと、まだ私が知らないあの人の事を、たくさん知っているんだろうと思う。

 私がそれを知った時、私もちい兄と同じように、クソ野郎とか言うのかな。

 まぁ、はげてはいないけど、はげ親父、って言ってたけどね。


「ただいまー」


 私はいつも、裏口ではなく店から出て、店に戻っている。

 だから、かなりの確率で帰ってきた時にはお客さんが居て、


「よ、おかえり、看板娘!」


 なんて声をかけてもらっているんだけど、今日は一人もお客さんはいなかった。

 厨房でおじいちゃんと下ごしらえをしていた叔父さんが、


「おかえり、小花。あぁ、今日は千隼も一緒なんだね」


 と声をかけてくれて、くい、と首を傾げる。

 どうしたのかとこちらも首を傾げると、叔父さんは苦笑し、言った。


「小花、何かあったか?」


「え? なんで?」


「なんでって……元気ないみたいだから」


「なんでわかるの?」


「そりゃ、僕は小花が生まれた時から、一緒に居るからねぇ」


「小花? どうしたんじゃ?」


 叔父さんは下ごしらえをしていた手を止め、近寄ってきた。

 そして、私の顔を覗き込み、


「小花、どうしたの?」


 と聞いてくる。

 私は、叔父さんと、まだ厨房に居るおじいちゃんを交互に見て、泣いてしまった。

 私の大好きな家族が、守られているとはいえ、怪しげなものに狙われているっていう事実に、不安になってしまったのだ。


「小花、どうした? どこか痛いのか? ん?」


 私が泣きだした事に気づいたおじいちゃんが、厨房の奥から飛び出してきて、私を椅子に座らせる。

 おじいちゃんに優しく頭を撫でられて、堪らなくなった私は、おじいちゃんにしがみついて、小さな子供みたいにわんわん泣いてしまった。


「小花? どうした? 学校で友達とケンカでもしたのか?」


「あのさ、今日、特別授業で妖滅の授業があって……いろいろとショックを受けたみたいでさ……」


 私が泣いている理由を、ちい兄が言ってくれた。

 そんな説明でおじいちゃんたちがわかるのかと思ったけれど、おじいちゃんたちは、


「あぁ、そんな事か。小花は心配性じゃなぁ」


「そうだね、でも、やっぱり小花は可愛いねぇ」


 なんて言って、楽しそうに声を上げて笑うのだ。

 私はおじいちゃんにしがみつきながら、どうしておじいちゃんたちが笑うのか、理解できなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る