第5話・守るべき者




「どうして? 真中って、え? どういう事? 周央じゃないの?」


 私がそう言うと、亘先生は深く頷いた。


「そう、守るべきは、周央ではなく、真中。もっと正確に言うと、君が育った家の事だよ」


「どうして? うちは、お金持ちじゃないよ? ただの定食屋なのに、どうして?」


「それは関係ないんだよ。周央は、真中の影。真中を守るための一族なんだ。昔から、ずっと大切に守ってる。小花の事も、生まれた時から知っていたよ。こっそり成長を見守ってた」


「そんな……」


 私は混乱した。守ってもらっていたとか、全く知らなかったし気づかなかった。


「今、俺たちがお守りしなければならないのは、現ご当主の昌幸様、次期ご当主の圭様、そして、圭様のご子息である、昌央様。千隼や小花も真中の血を引く子ではあるけど、今は西園寺側としてカウントして話を続けるね」


「あ、あの……」


 私は手を上げ、亘先生を見つめた。

 亘先生は優しい目で私を見つめ、何? と、首を傾げる。


「あ、あの、守らなきゃいけないのが、おじいちゃんたちって事は、おじいちゃんたちに、何か危険な事があるっていう事?」


 怖くて、がたがたと体が震えた。声も震えた。

 怖くて怖くて、もう何も聞きたくなかった。

 ここから逃げ出してしまいたかった。

 でも、聞きたくないけれど、聞かなきゃいけなかった。


「おじいちゃんたちが、何かに襲われちゃうっていう事なの?」


「小花っ! 落ち着けっ!」


 後ろの方に居たちい兄が駆け寄ってきて、震える体をぎゅっと抱きしめてくれた。

 私は体に回されたちい兄の腕をぎゅっと握り、亘先生を見上げる。


「そうだね……簡単に言うと、真中様は妖魔に狙われている。妖魔は真中の一族の者を、食べちゃいたいって思っているんだ」


 そう言った亘先生は、長い腕を伸ばし、私の頭に手を置いた。

 そしてくしゃくしゃと髪の毛が乱れるくらい、かき回すように撫でる。


「でもね、小花。不安になる事はないんだよ。真中様の事はみんなで守っているし、この特別授業は妖滅……つまり、妖魔と戦い倒すための力を得る事を目的とした授業だ。さて、ここで小花に質問です。小花はこれから、どうしたい?」


 どうしたい? そう聞かれて、私が思った事は、ただ一つだった。

 そして多分、その答えは亘先生だけでなく、ここに居る全員が望んでいるもの。


「私は、おじいちゃんたちを守るために、妖滅の事をたくさん勉強したいです!」


 もう一度手を上げてそう言うと、うん、そうだね、と亘先生は頷いた。


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