第9話・周央学園受験の理由
そろそろ帰る、とちい兄が言い出したのは、六時を少し回った時だった。
私もおじいちゃんもおばあちゃんも、ちい兄に泊まっていけばいいのに、と言ったんだけど、ちい兄は首を横に振った。泊まったら帰りづらくなるらしい。
ちい兄はここまで電車とバスで来たらしく、私はバス停まで見送る事にした。
「そういや俺、お前にまだおめでとうって言ってなかったな。小花、周央学園合格、おめでとうな」
「ありがとう、ちい兄!」
「賢ちゃんからお前の事を聞いた時は、びっくりしたぜ。おい千隼、妹可愛いな、から始まったからな」
「え? そうなの? もう、賢さんったらっ」
賢さんはいつも私を可愛いって言ってくれるけれど、ちい兄にまで言っているなんて、さすがに照れてしまう。
「小花が周央学園を受験する事になったって聞いて、驚いた。しかも、賢ちゃんと大樹が家庭教師してるって聞いて、本当に驚いた。俺が教えてやりたかったんだけどなぁ」
「賢さんも大樹さんも、上手に教えてくれたよ。おかげで、ちゃんと周央学園に合格できたし」
「あぁ、そうだな。あいつらには俺からも、礼を言っておいたから。あ、もう知ってると思うけど、高等部と大学、大学院は同じ敷地だからな。賢ちゃんや大樹にも会う機会が多いと思うぞ」
「うん、それ、すっごく楽しみなんだぁ。ちい兄にも、いっぱい会えるよね?」
「おう、もちろんだ! 毎日会いに行くぜ!」
周央学園への入学が、とても楽しみだ。
入学式には、おじいちゃんとおばあちゃんが来てくれる事になっていた。
私に周央学園を受験するようにと言った人からは、何の連絡もないからだ。
「あのね、ちい兄……私が周央学園を受験する事になったのって、どうしてなのか知ってる? あの人……お父さんは、何か言ってた?」
私が訪ねると、ちい兄は首を横に振った。
「あぁ、それなんだけどさ、西園寺のジジイからも、親父からも、何も聞いてねぇんだよなぁ。俺がお前の受験を知ったのは、賢ちゃんと大樹からだったし、ジジイと親父が勝手に決めたんだと思う……」
「そう、か……。ちい兄と同じ学校に通える事になるから嬉しいけれど、素直に喜ばない方がいいのかなぁ……」
「いや、素直に喜んでおけよ。俺もお前に会えるようになるのは嬉しいしさ、何かあったら、俺が体張ってなんとかしてやる」
体張って、とか、大げさだなぁと思ったけれど、そう言ったちい兄は真剣な目をしていた。
「大丈夫、お前が嫌だって思うような事にならないように、俺がなんとかしてやるって」
「うん、ありがと」
ちい兄の目が真剣だったから、私は少し怖くなった。まるで、私が周央学園に入学する事で、何か起こるみたいな言い方みたいだ。
そしてその事で、ちい兄の身に何か起こってしまうのではないかと――そんな気さえした。
「次に会うのは、入学式の日になると思う……。制服姿、楽しみにしてるからな」
そう言ったちい兄は、バスに乗り西園寺の家に帰って行った。
「西園寺のおじいさんとお父さんには、何か目的があるのかな……」
ちい兄の乗ったバスを見送りながら、私はぽつりと呟いた。
何か目的があるのなら、それは何なのだろう。
「私の事は、いらない子じゃなかったの?」
何が起こるかわからないけれど、楽しい学園生活にしたいんだけどなぁ。
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