第8話・お兄ちゃんがカッコいい


「五年前、俺が親父に連れて行かれてから、何の連絡もできなくてごめんな。みんな、心配してくれてたんだろ? 本当に、悪かった!」


 ごはんを食べ終えたちい兄は、そう言うと、ぺこりと頭を下げた。


「ずっと連絡したかったんだけど、西園寺のジジイに止められててさ、できなかったんだ。金持ちのくせに、携帯も持たせてくれないし、自由に使える小遣いもくれねえの。俺の動きを制限したかったみたいでさ……」


 引き取られた西園寺家で、ちい兄はとても不自由な生活を送っていたようだった。

 思わずまた涙目になってしまった私を見て、ちい兄はそんな顔をするなって言ったけど、小さな男の子がそんな目に遭っているのは、やはりひどいとしか思えなかった。


「でもな、ある日、西園寺のジジイが、言ったんだよ。通っている学校で、学年一位になることができたら、小花やみんなに会わせてやるって。それだけでなく、成績が上位三位までに入れば、できる限りの自由を認めてやるって。もうどうする事もできねえからさ、めちゃくちゃ勉強したんだよ。結局、会いに来られるまで、五年かかっちまったけど」


「え? 五年?」


「おう、五年もかかっちまった」


「いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけど……」


「なんだよ」


「ちい兄が今、私たちに会いに来てくれているっていう事は、もしかしてちい兄って、学年一位なの?」


 私がそう尋ねると、ちい兄は、ニヤリと笑い頷いた。


「おう、そういう事だなぁ。五年もかかっちまったけど、正々堂々と勝ち取ってやったぜ」


「うわ、すごい、すごいね、ちい兄!」


「おう! 驚いただろ、小花!」


「うん! すっごく驚いた! だって、ちい兄って、小学生の時、全然勉強しなかったのに!」


「おい!」


 ちい兄は小学生の時、全く勉強をしないわんぱく小僧だった。

 そんな子供が、家族に会うために、五年かけて必死に勉強をして、学年一位になったって、本当にすごいと思う。

 しかも、ちい兄が通っている学校は、周央学園のはずだ。どれだけの大変だった事だろう。


「ちい兄、頑張ったんだねぇ」


 ちい兄の努力を考えると、また目頭が熱くなってきた。

 私が目を潤ませた事に気づいたのだろう、ちい兄は腕を伸ばすと、私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。


「まぁ、頑張ったおかげで、俺もいい男になったよなぁって思ってるんだけど……どうだ、小花。俺、カッコ良くなったと思わないか?」


 ちい兄は私の頭をくしゃくしゃにした後、軽く整えてくれた。

 確かに、こういう気遣いができるようになった事も含め、カッコ良くなったと思う。

 ここは素直に、それを伝えてあげてもいいかな。


「うん、確かにカッコいいかも! ちい兄は私の自慢のお兄ちゃんだね!」


 私がそう言うと、ちい兄は驚いたみたいだったけれど、その後、本当に嬉しそうに笑った。

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