第3話・受験勉強のやる気スイッチ


「おばあちゃん、でもね、私、あの人のいう事を聞くの、嫌だ。あの人、今まで放っておいたくせに、なんで口出ししてくるかな」


 愚痴った私を優しく見つめ、おばあちゃんは首を横に振った。


「小花、まず、いろいろと思うところはあるとは思うけど、勝利さんは小花のお父さんです。あの人だなんて、呼んじゃ駄目」


「はぁい」


 不本意ながら、頷いた。おばあちゃんは優しいけれど、礼儀には厳しいのだ。

 あの人に……父親らしい事を、してもらった事はないんだけどね。


「今回の事は本当に突然だったし、おじいちゃんもおばあちゃんも驚いたけど、でもね、勝利さんが、やっと小花に向き合ってくれたから、おじいちゃんもおばあちゃんも、嬉しいの。」


「でも……突然過ぎない?」


「確かにね。でもね、小花。いい学校に入るチャンスなんだから、頑張りなさいな。おじいちゃんとおばあちゃんじゃあ、小花を周央学園に通わせてあげられないけれど、お父さんがお金を出してくれるって言っているんだから、ラッキーでしょ。あとは、小花が頑張るだけ」


 おばあちゃんは、今まで娘に向き合えなかった父親が、娘に向き合うようになったという、なんとなくいい話に、現実的な話をプラスした。

 おばあちゃんはイケメン好きで、礼儀に厳しく、そして現実的でちゃっかりした一面も持っているのだ。

 まぁ、いい学校に入るチャンスではあるし、確かにラッキーでもあるんだけど。

 ただ……それにはかなり頑張らないといけない。


「それに、周央学園に行ったら、きっと千隼にも会えるんじゃないかな」


「うん。会えたら、嬉しい」


 ちい兄には、私が十歳でちい兄が十二歳の時に別れてから、会っていない。

 別れてから何の連絡もないから、もう私の事なんか忘れてしまったのかなって、思い悩んだ事もあったけれど、今はやっぱりそんなはずないって思っている。

 だって、私たちは、とても仲が良い兄と妹だったから。

 おじいちゃんとおばあちゃん、そして叔父さん夫婦に囲まれて、私たちは一緒に育ってきた。

 楽しい思い出だっていっぱいある。

 それに、ちい兄はお父さんのところに連れて行かれるとき、私の事を絶対に忘れないって言っていた。

 だから、連絡がないのは何か理由があるんだって、私は思っているんだけど……じゃあ、その理由っていうのは、一体何なんだろう?

 今回、私が周央学園を受験する事になったのと、何か関係があるのだろうか。


「私が周央学園に受かったら、本当にちい兄に会えるかなぁ……。会えたとして、ちい兄は喜んでくれると思う?」


「きっと会えるわよ。千隼は、小花の事が大好きだったもの。あっちのお家に行ってからは連絡をくれないけれど、今もきっと、あの子は小花の事が大好きよ」


 欲しい言葉を貰って、私は頷いた。よし、受験勉強を頑張ろうって思う。


「やる気出た?」


「うん」


「でも、これからはもっとやる気が出るわねぇ」


「そうだね」


 へへへ、と私は笑った。顔がにやけてしまう。

 だって、私には心強い味方がついているのだ。


「おーい、小花、勉強を教えてくれる先生が、来てくれたぞぉ」


 一階からおじいちゃんの声がして、二階の住居スペースに誰かが上がって来る足音が聞こえた。

 おばあちゃんが階段に続く扉を開けると、大樹さんと賢さん。

 二人は私が周央学園を受験する事になったのを知ると、家庭教師を買って出てくれたのだ。

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