第2話・いらない娘じゃないんですか?



 私の名前は、西園寺小花、と言う。

 父親の名前は、西園寺勝利。西園寺グループという大企業の社長らしい。

 だから私は、本来なら西園寺グループの社長のお嬢様なのだけれど、何故かはわからないが、兄妹の中で私だけが、母方の実家である真中家に預けられ、祖父母と叔父夫婦によって育てられたのだ。

 いや、正確に言うと、真中家に預けられていたのは私だけでなく、二つ年上の千隼という兄も一緒に預けられていたのだけれど、千隼お兄ちゃん……ちい兄は、私が十歳でちい兄が十二歳の時に、父親に引き取られていったのだ。


 何故、ちい兄だけが父親が居る西園寺の家に引き取られ、自分は引き取られないのだろうーーこの事については子供の頃にとても傷ついたし、とても悩んだ。

 そして、傷つき悩み抜いた末に私が出した結論は、私が父親に嫌われているという事と、西園寺家にとって必要ない人間だという事だった。

 そう考えた頃は本当に悲しかったし、何度も泣いた。

 だって、嫌われて必要ない人間だと思われている理由にも、心当たりがあったのだ。

 その理由は、お母さんが私を生んですぐに亡くなってしまったという事――父親はきっと、私のせいでお母さんが死んでしまったのだと思ったのだ。

 実際、そうかもしれなかった。

 だから私は父親に嫌われて必要のない人間だと思われているから、一人だけお母さんの実家へ預けられているのだ。


 だけど、今は開き直っている。

 私は祖父母――おじいちゃんとおばあちゃんにとても大事に育ててもらったし、叔父さん夫婦にも、とても優しくしてもらったから。

 私のお母さんは、おじいちゃんとおばあちゃんにとっては娘で、叔父さんにとってはお姉ちゃんだから、私のせいでお母さんが死んだのだとしたら、みんなは私を憎んでもいいはずなのに。

 叔父さん夫婦の子供の翔太とは姉弟のように育ってきたし、だから、西園寺家は私の家ではないけれど、この真中家が私の家で、ここに居る人たちが私の家族だと思っていたのだ。

 それなのにーー。


「あの、はげ親父―!」


 どうして今まで放っておいたくせに、突然、まるでそれが当然のように、人の進路に口出しをしてくるのか!

 しかも、これはすでにあの父親の中では決定事項らしく、周央学園の一般入試を受けて合格し、入学しろというのだ。

 家から自転車で十分の脇坂高校に進路を決めていた私は、ぶち切れた。

 今さら志望校を変えるなんて、嫌だったからだ。

 だけどーー。


「こらこら、小花。勝利さんは、はげじゃないですよ」


「おばあちゃん……」


「勝利さんは、おばあちゃんでさえ惚れ惚れするようなイケメンですよ、小花」


「う、うん、そうかも、ね」


 おばあちゃんの言葉に、私は苦笑した。おばあちゃんは、かなりのイケメン好きだ。

 そしてあのはげ……ではない父親は、確かにまぁイケメンだ。


「はい、小花。ちょっと甘いものでも食べて休憩しなさい」


「うん、ありがと」


 おばあちゃんが渡してくれたチョコレートを受け取り、私は頷いた。

 定食屋まなかは、一階が定食屋の店舗、二階と三階が住居スペースになっている。

 私は今、店の手伝いを止めて、二階の住居スペースのダイニングのテーブルで、必死に受験勉強をしていた。

 大変不本意ながらも、父親の意向を担任に伝えたところ、脇坂高校は合格圏内で大丈夫だろうと言われていたのだが、周央学園の合格は少し難しいと言われてしまったからだ。

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