第2話

「アンタは一体何者なの?」




こちらを訝しむ様に問いかけてきた。が、弘樹からすると彼女の方がなんなのかわからない。小柄というより手のひらサイズより少し大きいサイズ、背中には羽が生えており、浮かんでいる。綺麗な金色の髪をシニヨンに纏めており、やや釣り目がちな緑色の瞳は気の強そうな印象を与える。




「これは失礼、僕は加瀬弘樹。多分こことは違う世界から来た感じだと思う。黒髪の白瀬麻衣って女の子を探しているんだ。君の名前は?」




「アンタ“迷い人”だったのね。あの子と同じか。その割にアンタは人を殺すことに躊躇いがなさすぎると思うけど…まぁ良いわ、アタシは妖精族のティセリア。ティセって呼んで。多分アンタの探している子がコイツらに捕まって襲われそうになってたのよ。逃がしたは良いけどアタシは攻撃手段が少なかったから危なかったわ。助けてくれありがとね。」




ティセは弘樹の肩に腰かけた。助けたとはいえ気を許しすぎでは無いだろうか。彼女からは花のようないい香りがした。




「どういたしまして。悪いんだけどティセ、その子の所に案内してくれないか?後は出来ればこの世界の事を教えてほしい。“迷い人”ってのはニュアンスでわかるんだけど。」




「良いわよ!一先ず、あの子の所まで行きましょうか。アタシの魔法効果がある間はまず誰にも見つからないと思うけど。こっちよ。」




弘樹はティセの案内で少し進んだ先にある洞穴に到着する。そして警戒する様に外を見ていた幼馴染みの顔を見つけた。




「ヒロくんっ!!」




麻衣は余程不安だったのだろう、涙目になりながらこちらへ駆け寄り抱き着いてきた。




「麻衣、良かった無事だったんだね。」




「気付いたらこの森にいて、怖い男の人達に襲われそうになったの。その時に彼女が助けてくれて…改めて助けてくれてありがとうございます。」




弘樹は麻衣の無事に安堵し、落ち着きを取り戻した麻衣はティセに向かって礼を言う。




「お礼なんて良いわよ別に、それにアイツらを仕留めたのはそこの弘樹だしね。でも良かったわね、すぐ近くで会うことが出来て。そうそう、アタシはティセリア、ティセって呼んでね。」




「私は白瀬麻衣って言います。ティセさん、よろしくお願いしますね。それで、あの人たちをヒロくんが仕留めたって言うのはまさか…」




麻衣の顔が徐々に青ざめていく。




「殺されそうになったからね、だから殺したよ。この世界は地球じゃない。日本での倫理感なんて通用しないんだよ、麻衣。襲われそうになったら自衛する、必要なら命のやり取りも当たり前になると思った方がいい。」




弘樹は淡々とした口調で事実を語る。




「でも…」




麻衣は納得出来ない様子だったが言葉が続かなかった。これが一般的な反応だという事は弘樹も理解しているため、無理強いは出来ない。




「麻衣、そのままという訳にはいかないが徐々にでいい。最低限自衛手段は身に付けよう。日本に帰る手段を見つけるまではこの世界で生きていかなきゃならないんだから。」




少なくともこの世界では自分の身は自分で守れなきゃ話にならなそうだ。




(日本に帰れるのかは謎だが…それでも麻衣だけは守らないと…)




「まぁ、弘樹の言っていることに間違いはないわね。ここで出会ったのも何かの縁!アタシも出来る限りは協力するから頑張りましょ?」




ティセが空気を変えるように二人に語りかけた。




「さて、これからアナタ達にはこの世界の基本的な話をするわね。まず、“迷い人”ってのはアナタ達みたいな異世界からこちらの世界【レブファニール】にやって来た人達の総称ね。似たような事が時々あるのよ。この大陸にはオルドール王国、シャルヴァンヒ帝国、サクルディア皇国、コラジアル共和国、4つの大国があって、後は複数の小国が管理しているわけ。必ずしも属国というわけではないわ。ちなみにこの森はオルドール王国にあるわ、多分4大国の中では一番なじみやすいはずよ。後は種族かしらね。この世界には人族、鬼人族、妖精族、獣人族、森人族、土人族、魔人族、この7種属が存在しているわね。」




「なるほど、人種もファンタジーの世界なんだな。そういえばさっき言ってた魔法って?」




「そうね、魔法は素質を持った一部の人がつかえるもの、誰でも使えるようになるもの、この二種類があるの。魔法の特性を大きく分類すると、自分や他者へ干渉しサポートや妨害するもの、技術や技に影響するもの、攻撃に使用するタイプのもの、3つのタイプがあるわ。それとは別の存在で刻印というものが存在していると言われていて、この刻印は選ばれた人しか宿せないと言う伝説上の代物ね。刻印ごとに絶大な力と引き換えに多大な代償と数奇な運命に巻き込まれるって言い伝えがあるわ。まぁ一般人には関係ない話よ。」




(あの不思議な石碑のあった空間は何だったのだろう。多分ティセは知らなそうだし、刻印と関係あるのかな。)




こうして弘樹達はティセからこの世界の基本的な知識を教えて貰った。今後のことを考えなければならない。




「ティセはこれからどうするんだ?」




「アタシは冒険者ギルドへ今回の件を報告しに行くつもりよ。」




「なら僕達も一緒に連れて行ってくれないか?お金を稼ぐには冒険者になるのが手っ取り早いだろうし。僕達には知識が足りない、ティセがいてくれると心強いんだが。」




弘樹の提案にティセは快諾する。




「良いわよ、アタシは魔法しか使えないからいい加減誰かと組む必要があったしパーティー組みましょ!」




「お言葉に甘えさせて貰うよ、ありがとうティセ。」




「よろしくお願いします、ティセさん。」




弘樹達はティセの案内で街へ向かうことにした。森を抜けて数十分、大きな壁に囲まれた門が見えた。




「あれがコメンサールの街よ。門番にはアタシが説明するから、付いてきて。」




門に近付くと鎧を着た兵士に声をかけられた。




「ティセじゃないか、お帰り。そっちの二人は?」




「この子達は弘樹と麻衣って言って、二人ともさっき出会った“迷い人”なの。まだ身分証が無いから冒険者ギルドへ登録に行こうと思ってるのよ。」




「アンタら“迷い人”か、知らない世界は大変だろうが頑張れよ!」




一緒に確認していたもう一人の兵士に声をかけられた。やはり平和な国で育った“迷い人”には異世界は大変なのだろう。すぐにティセに出会えたことは幸運だったようだ。




「ありがとうございます。」




二人は礼を言うと街の中へと通された。コメンサールの街はしっかりと栄えている印象だった。大通りには商売人の声が活気づいており、時々馬車が通る。




「結構大きい街なんだね、ヨーロッパみたいだな。」




「ここは王国の中でもかなり栄えてる街の部類だからね、比較的治安も良いわよ。それでもやっぱり危ないところはあるから、裏通りの方へ行っては駄目よ?あの辺りはスラム街になってるから、特に麻衣。」




「わかりました、気を付けますね。」




やはりどこの世界にも貧困問題はあるわけだ。ティセに街の案内を受けながら目的地である冒険者ギルドへ向かった。


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悪戯と欺瞞の楽園 @yutarou-natane

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