第226話:その後の高鳥家とは

「くっくっくっくっくっ……」


 高鳥家の2階のリビングでは、さやかパパこと修二郎さんが窒息しそうな勢いで笑っていた。


「狭間くん、きみはホントに面白いなぁ! くっくっくっ……。ブライテストたちを抱きこんでシンを負かしちゃうなんて!」


「いやいやいや、ブライテストの人たちとか誰とも会ってませんし! 俺としては旗色の悪い勝負をすることになって顔を赤くしたり、青くしたり大変だったんですから!」


「そっ、そんな……ぶっ……リトっ、リトマス試験紙みたいな……。きみはどこまでも僕たちの予想を超えてくるね!」


 今日の高鳥家は少しだけにぎやかだ。


 いつもの2階のリビングのローテーブルのほうに俺は座っているし、右横にはさやかさんが座っていて、さらに下座にはエルフが座っている。ただ、エルフはカチンコチンだ。


 その理由として、俺の向かいには修二郎さんが座っていて、その横にはさやかママこと清花さんが座っていることがある。清花さんはどこか厳しいイメージがあるみたいで、お行儀良くしようとエルフはカチンコチンになっているのだ。


「エルフ、お前は今回大活躍したんだから、もっと大きな顔していていいんだぞ?」


「しっ、しーっ! お兄ちゃん静かに!」


 俺が話しかけたけど、エルフは正座を崩さない。それどころか、喋ったらダメみたいな雰囲気を醸し出してくる。


 正座したエルフとか、もはや異世界感ゼロだ。


「修二郎さん、その……信一郎さんは……」


「狭間くん、僕のことは『パパ』って呼んでって言ったじゃないか!」


「いえ、そんな……」


 これだけチルドレンに慕われている修二郎さんをそんな風に気軽に呼べないし!


「そう言えば、狭間くんに会いたいって人が来てるんだよ」


 どうしてこう、修二郎さんは話を聞いてくれないのだろうか。


「ど、どなたでしょう?」


(パンパン)「入っておいで!」


 修二郎さんが手を叩くと、一人の女性が入室してきた。


「失礼いたします」


 西ノ宮さんだ。


 テーブルから大きく離れた位置の床に正座してかしこまって座った。しかも、土下座と言っていいほど頭を下げている。


 これだけで修二郎さんと西ノ宮さんの関係がうかがえる。やはり彼女もチルドレンの一人なのだ。


「こちらを……」


 西ノ宮さんは頭を下げたまま、1通の手紙を床の上に置いた。


 その手紙は、清花さんがピックアップして俺の前に持って来てくれた。


 手紙と言っても2つ折りになった紙で、それほど多くのことは書かれていないようだった。俺は、その手紙を受け取ると開いて中の文字を見た。


『チルドレンを頼む 高鳥信一郎』


 たった一言、それしか書かれていなかった。


「これは……?」


 手紙……1枚の紙を修二郎さんに見せた。


「ちょっといいかな?」


 修二郎さんがその紙を受け取った。


「うーん、そうきたかぁ……」


 修二郎さんが顎を触りながらちょっと難しい顔をした。


「西ノ宮ちゃん、これってさぁ……」


「はい。恐れながら、信一郎様は、私以外の全チルドレンの継承権を狭間様に譲渡なさいました」


「やっぱりねぇ……。じゃあ、もしかして……」


「はい。いずれ御前ごぜん会議に召喚されるかと」


「あちゃぁ、狭間くん忙しくなりそうだねぇ」


 内容が分からないまま修二郎さんと西ノ宮さんの会話が進んでいく。多分当人の俺だけ置いてけぼりの気がするんだけど……。


「あの、信一郎さんは……?」


「狭間様に完敗したので修行に出るとおっしゃいまして……」


 俺の質問に西ノ宮さんが答えてくれた。


「大変恐縮ですが、私も信一郎様に同伴してもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


 なぜか俺が西ノ宮さんに許可を求められてしまった。


「……」


「西ノ宮ちゃん、下がっていいってさ。シンを頼むよ」


「かしこまりました」


 俺も西ノ宮さんが信一郎さんに付いて行くことに許可は出したけど、指示が足りなかったみたいで修二郎さんが助けてくれた。


「ありがとうございます」


「いやいや」


 ここで西ノ宮さんが退出した。結局、信一郎さんはどこに行ったのか。西ノ宮さんはそれを追いかけたのだろう。それならば、信一郎さん自身がこの場に顔を出してくれてもよかったのではないだろうか。


「あ、東ヶ崎ちゃん、そろそろ頼むよ♪」


 修二郎さんが東ヶ崎さんに言った。「かしこまりました」と答えると次々キッチンから料理が運ばれてくる。さやかさんも「あ、私も」と言って手伝っていた。そうなると当然エルフも「あ、ボクも!」と料理たちを運んでくる。


 ここで俺も参加したほうがいいような気がするけど、修二郎さんと清花さんの目がそうはさせてくれないみたいだ。自分だけ座っていて、みんなに仕事をさせるのはどうにも居心地が悪い。この辺りは俺の性格だろうか。


「あ、東ヶ崎ちゃん、あれも頼むよ。お祝いだからさ♪」


 修二郎さんが追加で何かを頼むと、東ヶ崎さんが嬉しそうに「はい♪」と答えていた。ホントに東ヶ崎さんは修二郎さんが好きだなぁ。ちょっとジェラシーを感じてしまう。


 沢山の料理がテーブルに並び、さやかさんが横に座ったと思ったら、東ヶ崎さんが俺と修二郎さんに飲み物を持って来てくれた後、俺の横、さやかさんとは反対側に座った。


 あれ? 清花さんがいるから修二郎さんの横に座るのを遠慮したのかな?


「じゃあ、狭間くん。乾杯しようか。狭間くんと言えばこれだと思って準備してもらったんだ」


 俺と言えばこれ? ……まさか。


 目の前のグラスには琥珀色の液体と炭酸の泡からハイボールが準備されていることが分かった。


「修二郎さん。まさか、これって……」


「そ、マッカランのハイボールだよ♪」


 これは以前、さやかさんのドナーが見つかった時のために準備していたお酒。願掛けの意味もあったのか、マッカランでも25年物で250万円とか300万円するようなお酒だったはずだ。


 普通はこんないいお酒でハイボールを作るようなバカはいない。ただ、俺は普通のウイスキーだと思っていたし、酒の飲み方を知らなかったのでハイボールを指定してしまっただけだ。


 快くマッカラン25年でハイボールを作ってくれる修二郎さんの懐の深さを感じさせるエピソードだった。


 でも、ここにきて再びその思い出の味が戻ってきた。


「狭間くん、そんな顔しなくていいじゃない。おいしいと思うよ? ハイボール。実際、僕は割と気に入ってるし」


「……ありがとうございます。でも、人が悪いですよ。修二郎さん」


「まあ、そう言いなさんなって。今日はお祝いなんだ」


「そんなこと言ってましたね。何か良いことあったんですか?」


 既に食卓では清花さんをはじめ、さやかさん、エルフが食事をしている。エルフはお行儀よく食べようとしているから動きがぎこちないのが面白い。


 俺と修二郎さんはマッカランのハイボールで乾杯をした後、話をしていた。


「まずは、東ヶ崎ちゃん!」


「は、はい!」


 急に名前を呼ばれて驚いた東ヶ崎さん。いつぞやとは違って、一緒に食事をとっていたからだ。


「きみはG20入りが決定したよ。これからは呼称がG21になる」


 G20とは、グループ・オブ・20……「金融・世界経済に関する首脳会合」……ではなく、ブライテストと呼ばれるチルドレンの中でも特に優秀で、トップに君臨している様な人たち20人のことを言う。


 たしか、昇格には試験があったり、面接があったりするはずだけど……。


「あの、わたくしは……その、私には……」


 しどろもどろの東ヶ崎さんは珍しい。修二郎さんの命令を断ることなんてしないだろうけど、昇進してしまうと国の仕事をすることになるって言ってたか。


 つまり、さやかさんの下を離れることになる。彼女のことだから、そうならない様にこれまでも試験や面接を辞退して来たのではないだろうか。


「東ヶ崎ちゃんのその反応は理解してるよ。まあ、聞きなよ」


 修二郎さんが少しニヤリとして言った。どうやら、東ヶ崎さんがこんな反応をするのを知ってて言ったらしい。彼なりのイタズラなのだろうか。


「僕にとってさやかは宝物だから当然として、狭間くんはさやかが万が一病気になった時の大切なドナーだし、婚約者だ」


「はい、心得ています」


 別に俺は何もしていないのに持ち上げられて居心地悪いんだけど……。こんな時どんな反応をしたら正解なのか、誰か教えて。


「国のまつりごとも大切だけどさ、実の娘とその婚約者ってもっと大事じゃない?」


「……は、はい! 大事です!」


 何を言わんとしているのか、東ヶ崎さんは分かったみたいで声が明るくなった。


「言ってみれば、そこらの国の要人より大事じゃない⁉」


「はい! 大事です!」


「そしたらさ、そんな二人のお世話係はそれなりの人がいるよね? サウザントじゃ1人だし。サウザント数人をまとめてくれて指揮が取れる様な人……ブライテストが必要になるよね?」


「は、はい……」


「あ! たまたま目の前にブライテストがいる! 東ヶ崎ちゃん、さやかと狭間くんの警護とお世話係やる?」


「はい! 謹んで拝命いたします!」


 東ヶ崎さんは、持っていたコップをテーブルに置いて深々と頭を下げて言った。


 絶対これ茶番だよね⁉


「昇進? ……したのかな? よかったですね、東ヶ崎さん」


「はい、ありがとうございます!」


「おめでとうございます!」


 俺とさやかさんが祝い、東ヶ崎さんがお礼を言った。


「あ、でも。東ヶ崎さんには部下的なサウザントがいないですよね? これから派遣される的な?」


「お! さすが狭間くん! 欲しい時に欲しい質問をくれるなぁ!」


 修二郎さんが両手の人差し指だけを立ててこちらに向けて言った。この軽そうな感じ! 本当に数万人というチルドレンのトップの人なのだろうか。


「サウザントなんてさ、そうぽんぽんいないから、見習いを付けることにしたんだよ」


「見習い?」


「そ、家ではエルフちゃん、『朝市』では領家くんを東ヶ崎ちゃんの部下としてつけようと思ってさ」


「ええ⁉ ボ、ボク⁉」


 ここでご飯を頬張っていたエルフが飛び上がるみたいに驚いた。


「やってくれるかな?」


「ボ、ボク……」


「エルフちゃん?」


 清花さんが心配そうな表情でエルフを見た。


「包んでお引き受けします!」


 包むな包むな。そして、その敬礼はなんだ。エルフはまだ高校生。色々間違えても微笑ましいだけだ。


「お祝いって東ヶ崎さんの昇進だったんですね」


「もちろん、それだけじゃないよ?」


 俺がハイボールを飲みながら聞いたら、意外な答えが返ってきた。


「まだあるんですか?」


「そうだね。さっきのシンからの手紙だよ」


 チルドレンを任せた、だっけ? どこかに行くのに言ったセリフ……と言うか、書いたセリフだろう。


「従来、会社やチルドレンは狭間くんとシンで半分ずつ引き継いでもらうことを考えてたんだけど、それが全部狭間くんのところに行くことになっちゃったからさ」


「ん?」


「僕たち夫婦の会社って百社以上になってて、コンサルしてる会社なんてその数倍ある訳だから、引継ぎにも何十年もかかりそうだね」


「んん⁉」


 信一郎さんのメッセージってそんな意味があったのか! チルドレンを引き継ぐってことはその人たちが働いている会社も引き継ぐってことか。たった一言でとんでもなく大きなことを託して行ったのだと今更ながら理解した。


「まあ、さやかと一緒にしっかり頼むよ?」


「あのぉ……」


「どうしたんだい?」


「今更ですけど、俺で大丈夫でしょうか?」


「ほんとに、今更だなぁ。大丈夫だよ、狭間くんとさやかなら」


 会社を引き継ぐということは、そこに勤める社員の人もいる訳で。そして、その家族のことまで考えたらとんでもない人数の人生を背負うことになるのでは……。


「お! 狭間くん、いい顔してるね」


「はあ……」


 ここでハイボールの氷がカランと音をたてた。何も返せないでいる俺の代わりに修二郎さんに答えるみたいに。


「松下幸之助さんがさぁ」


「え?」


「狭間くんは松下幸之助知ってる?」


「はい、一応……」


「パナソニック……旧松下電器を一代で築いた人なんだけどさ」


「はい。本とかは読んだことないですけど」


 すごい人ってことくらいは知ってるけど、俺が生まれた時にはすでに亡くなっていた人だ。


「パナソニックは社員が23万人以上いるんだよ。すごいと思わない⁉」


「はい。俺からしたら神様みたいな人です」


「はは、それは僕からしても同じだよ」


 そう言った後、修二郎さんがマッカランのハイボールを一口、口に含んだ。グラスをテーブルの上に置いたその手を見ながら修二郎さんが続けた。


「著書によるとさ、そんな神様も従業員の人生を背負う重責に押しつぶされそうな夜があったらしいんだよ」


「……そうなんですか」


 修二郎さんがグラスを少しだけ振って、氷がカラカラと笑った。


「そんな神様の言葉に僕なんかが付け加えるのはあれだけどさ、僕くらいじゃさ、食べさせてやる、なんて。おこがましいと思うんだ。もちろん、人の人生を背負う重責を理解した上でだよ?」


「はい」


「その人と一緒に頑張ったらどうかな? 一緒に頑張ろう、僕はそう考えるんだ。そうじゃないと人なんて雇えないし、雇わないとその人も幸せにできないからね?」


「……はい」


 教科書に載っていてもおかしくない神様みたいな人の話より、目の前で偉業を成し遂げている修二郎さんの言葉のほうが俺にとっては身近に感じられ、現実的に感じられた。


「結局、僕くらいじゃ実際に会った身近な人しか幸せにできないんだから」


 それだってすごいことだ。俺なんか身近なさやかさんと東ヶ崎さんくらいまでだって幸せにできるかどうか……。


「僕がいて、ハニーがいて、愛娘がいる。そのくらいが分相応ってもんでしょ?」


「俺も入れてくださいよ」


 少しニヤリとして冗談めかして言ってみた。


「もちろんだよ。さやかを笑顔でいさせるためには、狭間くんは幸せでないと」


「ははは……」


 冗談のつもりだったのに、真面目にその輪の中に入れてもらえて少し照れくさい。


「当然、東ヶ崎ちゃんもエルフちゃんもニコニコしててほしいしさ」


 東ヶ崎さんが下を向いてとても恐縮している。エルフのその顔は……どんな表情なんだよ。


「だからさ……」


 修二郎さんが少し視線を逸らして部屋の何もないところを見た。


「乾杯しようよ。ハニーもさ」


「私、あんまり飲まないんだけど……」


 清花さんが片目をすぼめてウインク気味に答えた。


「いいじゃない。たまには付き合ってよ。狭間くんと飲む貴重なチャンスだよ?」


「そうね、1杯だけいただこうかしら」


マッカランこれのいい飲み方を見つけたんだ」


「好きね……」


 何も指示しなくても、東ヶ崎さんがハイボールを作り始めた。


「あ、2個ね、2個。東ヶ崎ちゃんも飲めるんでしょ? 僕と清花で飲んだら、狭間くんが寂しくなっちゃうよ? さやかはまだお酒飲めないし」


「ぶー……」


 さやかさんが片頬膨らせて不満そうだ。18歳が成人ならお酒も18歳からで良さそうだけどなぁ。残念だけど、20歳からなんだよね。


「それでは、恐縮ですが……」


 東ヶ崎さんが、俺と修二郎さんの少なくなったグラスの分も含めて4個のハイボールを作ってくれた。


「私とエルフちゃんはお茶~?」


 さやかさんは不満そうだ。でも、こればっかりはしょうがない。


 お茶とハイボールがそれぞれの手元にそろった。


「じゃあ、狭間くんの勝利と、東ヶ崎ちゃんの昇格と……まあ、色々を祝って……乾杯!」


「「「「かんぱい!」」」」


 修二郎さんの音頭でみんながそれぞれのグラスを掲げて乾杯する。


「あ、そうだ、さやかと狭間くん。僕と清花さんはこの家から引っ越すから」


「「え⁉」」


 俺とさやかさんが揃って変な声を出してしまった。俺たちが修二郎さんたちの会社を引き継いでいっているのは、修二郎さん達の仕事量を減らして家に帰る時間を増やしているという理由もあった。


 負担が減れば、時間ができて家に帰ってこれる。そしたら、さやかさんとの時間が増やせる……そう思っていたのだ。


「やだなぁ、そんな顔しないでよ。ちゃんと家には遊びに来るから!」


「でも……」


「ここは、もう、さやかと狭間くんの家でいいと思うんだ。4階は二人の部屋になってるわけだし。3階は東ヶ崎ちゃんとの部屋を作ったらどうかな?」


「え⁉」


「これから子供もできるかもしれないし、どれだけ広くても広すぎるってことはないと思うよ?」


「……」


 俺は子供を持ったことがないし、小さい子供がどれほどやんちゃなのか分からない。実の子を二人、チルドレンに至っては数万人育ててきた修二郎さんの言葉は素直に受け入れるしかない。


「名義とかは税金とか色々関係するから、追々やって行くとしてさ、僕らは僕らで福岡に拠点は作るし、ここにも遊びに来るからさ」


「ありがとうございます。ありがたく住ませてもらいます」


「いいんだよ。もう二人の物なんだから。好きにしてさ」


「はい」


 さやかさんのほうをチラリと見たら、少し照れたようなはにかんだような表情。


 子どもか……。考えないではなかったけど、あまり現実味がない話だった。


「あれ? 3階が東ヶ崎さんの部屋⁉」


 さっきは耳には届いていたけど、それはまた広くないか⁉ エルフもいるんだし、東ヶ崎さんとエルフの部屋を作ったら良さそうなもんだけど。


 東ヶ崎さんのほうを見たら、顔を赤くして下を向いていた。あれ? ここのところ東ヶ崎さんの表情が豊かだ。いつもクールな印象だったんだけど……。


「東ヶ崎ちゃんとも子供ができちゃうかもしれないし、準備だけはしておいた方がいいよね」


「え⁉」


 東ヶ崎さんが一段と赤くなった。熟れすぎたトマトみたいだ。


 いつの間にそんな話になってたんだ⁉


 慌てて俺はさやかさんのほうを見た。


 さやかさんは無言で頷いた。


 え⁉ それでいいの⁉


 今度は東ヶ崎さんのほうを見た。


「不束者ですが、よろしくお願い申し上げます」


 彼女はいつの間にかこちらを向いて三つ指ついて頭を下げた。


「え⁉ いや、あの……。よろしくお願いします?」


 いやいやいや、彼女が不束者だったら、俺は一体何なんだよ。


 いや、そんなことはどうでもいいんだ。俺はとにかく慌てているらしい。あれえ? いつからこんな話になっていたんだ⁉ あれえ?


 修二郎さんと清花さんが笑っている。


 さやかさんも笑っている。


 エルフも笑っている。


 そして、東ヶ崎さんも笑っている。


 多分、俺も笑っている。


 また東ヶ崎さんとも一緒に食卓を囲んでいる。


 これが、俺たちの得たもの。俺たちが取り返したもの。俺たちの勝利だと言っていいのではないだろうか。


 それから、俺が国のまつりごとを担っているという御前会議に召集されたのは約1か月後だった。

 そして、同じ日に俺はさやかさんが入院した知らせを受けることとなる。


 第4章 END

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