第224話:勝利のあととは
「それにしても、勝負は俺たちの勝ちで本当に良かったんでしょうか?」
「はい、それはもちろんです」
東ヶ崎さんが運転席で答えてくれた。
「でも、相手は売上10億円ですよ?」
「売上げ勝負ならば、負けていたかもしれません。でも、今回は『経営』勝負でした。多く利益を出した方が勝利で間違いありません」
そうは言っても、売上げこそ上がっているけど、まだ商品を発送できていないのだ。クレジット決済なので、お金だけもらって商品を納めていないような状態で落ち着かない。
「信一郎様のビジネスは勝利だけに向けられたものですので、勝負が終われば新しく作ったブランドは本家に譲渡する約束でした。つまり、今後は利益を生みません」
「……たしかに」
「その上、無理に本家の製造ラインを使わせてもらったので、お金以外の部分でも色々と無理をしました」
そりゃあ、そうだろうなぁ……。本家と全く同じ材料で本家の製造ラインで偽物を作って、本家の販売ルートで偽物を売るんだから。
「一方、狭間さんのビジネスは現在でも肉まんが売れ続けています」
たしかに、勝負は終わったけど、肉まんの人気は衰えてない。品薄なこともあってプレミア感が出て余計に注文が増えているくらいだし。
「『朝市』はすごい可能性を秘めています。そこでヒット商品が無かったのは、逆に不思議だったのです。今回、代表するヒット商品ができたので、第二、第三のヒット商品も期待できます」
それは俺も思った事だ。
良い材料を準備できて、調理もできて、販売促進ができる媒体を抱えた人がたくさん関わっている。良い商品を作り出せて、多くの人に紹介できるポテンシャルを秘めているんだ。
「ただ、製造が追いつかなくてお客さんに迷惑かけてるのが、手放しに喜べない所かなぁ……」
「それならば、信一郎様の指示で既にチルドレンたちが動き始めています。製造に応援として参加させていただきます」
「え⁉ そうなんですか⁉」
「そのほか、以前から動いていた『朝市』周囲の土地の地権者様が見つかったので、買収と工場建設の計画が動いています。肉まんの生産ラインを立ち上げる予定です」
「え⁉ そうなの⁉ そんなお金どこから出てきたんですか⁉」
「信一郎様がポケットマネーでご準備されました」
どんだけお金が入ったポケットなんだよ。
「最初は比較的小さな規模で工場を建てる予定ですので、建設期間は超短期です。売れ行きを見ながら製造ラインと共に工場建屋も増築していく予定です。そして、その工場が建つまでのつなぎとして、人員の応援を予定しています」
至れり尽くせりだな……。信一郎さん、会って話した感じとちょっと印象が違うんだけど……。いくらかはチルドレンが信一郎さんに助言したりしてくれているんだろうか。
「狭間さんならばお気づきかもしれませんが、今回の勝負ではブライテストが大きくかかわりました」
「たしかに。西ノ宮さんがブライテストのトップでしたっけ?」
「そうですね。ブライテストはそれぞれに優秀なので、各分野においてのトップがそれぞれいる形ですが、この場合はそう捉えて差し支えないです」
俺からしたら東ヶ崎さん以上に優秀な人っているのかな。想像がつかない。
「実は、ブライテストたちは狭間さんを応援していました」
「え⁉ そうなの⁉ なんでまた⁉」
ブライテストと言えば、チルドレンのトップみたいな人たちだ。高鳥家の人に友好的で、それに敵対する俺なんか敵中の敵だろうに。
「ブライテストたちは当然今だけではなく、未来も見据えて考えます。お嬢様と狭間さんのご関係を考慮した上で、将来の高鳥家のことを考えるとどういった形が最適か考えたのだと思います」
優秀なチルドレンと聞くとコンピュータのような緻密さと正確さを想像していたけど、意外と人間臭いというか……。それ混みで優秀なんだろうなぁ。
「もう良くないですか?」
ふいに、さやかさんが俺の横で腕を組んできた。
「ん?」
「東ヶ崎さんとばっかり話して。狭間さんは私のことも構わないといけないんですよ?」
また片頬を膨らせている。
今回の勝負の裏側が見えてきて興味がわいていただけなんだけど。
「さあ、そろそろ『朝市』に着きます。応援もすでに来ていると思いますので、勝利をみなさんと一緒に喜ばれてください」
「朝市」が見えてきた頃、東ヶ崎さんが教えてくれた。そこにはみんながいるのだ。その顔は会わなくても想像ができるほどだった。
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