第221話:勝負の行方とは

 ここは高鳥家、2階のリビング。


 部屋のローテーブルには信一郎さんが座っている。そして、その後ろには東ヶ崎さんと西ノ宮さんが座っている。


 テーブルをはさんで俺が座っていて、横にはさやかさんが座ってくれている。ちなみに、反対側にはエルフが座っている。


「よく逃げずにこの場に来たな」


 信一郎さんの表情は自信満々だ。どうやら、予定通りに売り上げを伸ばしたらしい。


「……」


 こんな時になんて言ったらいいのか分からず、俺は言葉を失っていた。


「西ノ宮、うちの売り上げを発表しろ」


「はい、かしこまりました」


 信一郎さんの掛け声で西ノ宮さんが手持ちの資料に視線を送る。


「売上個数1000万個、売上げ10億円、粗利1億円でございます」


 ホントに1000万個売上やがった。


 チルドレンってどれだけ優秀なんだよ。あんないい加減な思い付きで、それを実現してしまうなんて……。


 俺は少し眩暈がしたのに気が付いた。俺たちの売り上げは10億円には遠く及ばない。だから、利益だって……。


「狭間、お前たちの売り上げはいくらだ?」


 信一郎さんが冷たい視線で俺を見た。


「う、売上個数……23万個……。売上4,600万円、粗利1,610万円だ……」


「はっ、全然相手にならなかったな!」


 信一郎さんが腕を組んで俺を見下げるように言った。


 相手は粗利1億円、こちらは頑張っても1600万円。文字通りケタ違いだ。


「……おれ……俺たちの……負け……」


 決定的な数字の差を前に、俺は敗北宣言を始めた時だった。


「狭間様、売上個数は本当に23万個だけですか?」


 口をはさんだのは、意外にも西ノ宮さんだった。


「……実は……昨日までに100万個達成したんだけど、製造と出荷が間に合わず、数えたら23万個しか……」


 そうなのだ。俺たちは順調に売り上がって行く肉まんに対して、製造や出荷が追い付かないでいた。俺や領家くんまで製造に付きっきりだった。新たなパートさんやアルバイトさんを雇う動きができなかった。


 仮にできていたとしても、導入研修などをすることができず一定以上の商品を製造し続けるのは難しかっただろう。


 一定以上の品質を考えると現在のような結果になってしまった。勝負ごととはいえ、買ってくれる人がいるのだから、ちゃんとおいしい物、ちゃんとした商品にこだわってしまった。


 結果、負けてしまったのだから、正解だったのかはなんとも言えない。


「わたくしたちの調査では、昨日には100万個の注文に達したはずです」


 西ノ宮さんが俺に告げた。そんな情報まで、どこから……。本当に恐ろしい人たちだ。


「たしかに、100万個は達したんですが、商品を製造とか、発送できていません」


「ルールでは、売り上がっていれば計算に入れていい、ということでした。狭間様はそれらの注文を破棄されますか?」


「いや、勝敗に関係なく最後の1個までちゃんと発送するつもりです」


「では、問題ないでしょう。販売個数は100万個に修正いたします。よろしいですね? 信一郎様」


 西ノ宮さんはくるりと振り向き信一郎さんに確認を取った。


「ふ、ふんっ。そ、それくらい許してやろう。売り上がっているのだからな」


 たしかに、ルールではクレジットカードなど売り上げが先に上がって、後から商品を送るものもカウントして良いとなっていたのを忘れていた。


 それにしても、西ノ宮さんは敵に塩を送るような真似をして……。何が目的だというのだ。


「それでは、売り上げは4,600万円から2億円に変更ということでよろしいでしょうか?」


「は、はい……」


 相手の言うことだ。俺は、素直に同意していいのか少し躊躇していた。


「じゃ、じゃあ……売り上げは?」


 エルフが聞いた。


「売上げ2億円で、利益率35%なので粗利7,000万円となります」


 西ノ宮さんが静かに答えた。


 これが俺たちの全部だ。出荷していない分の売り上げをつぎ込んでもここまでだった。


 ……それでも届かない。情けをかけてもらっても届かなかった……。


「はっはっはっ、よかったぞ、西ノ宮」


 目の前で座ったまま信一郎さんが笑いながら西ノ宮さんを誉めた。


 同じように座っているのだけど、俺は負けが確定した。動けない。


 ちょっとさやかさんに視線を送ったら表情は暗い……と言うか、固まっている。こんな表情のさやかさんは初めてだ。


 これが敗北。これで全ては終わったのだ……。


「次……」


 ここで追い打ちをかける様に声を出したのは、よく知ったあの声だった。


ーーー

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