第220話:目を見張る忙しさとは

「狭間さん、包餡ほうあんの人が足りません!」

「スパイスカレーまんも具がもう切れそうです。150kg追加お願いします!」

「あんまんのあんも150kgお願いします!」


 ここは「朝市」の肉まん製造場所。店舗の裏側の追加で建設したプレハブのような安普請の建物内だ。


 それぞれの具について150kgとは、1000個分程度の量。1日に1万個以上作っているので、具を作り足すのは10回以上だった。


 そう、全ては突然だった。


 俺たちは肉まん量産のための準備と、宣伝を頑張った。頑張っていた。


 出来る限りの宣伝をしたと思っていながら、肉まんの売れ行きは伸び悩んでいた。


 そして、転機は突然訪れた。


 1日に3000個売れたと思ったら、翌日は6000個売れた。そして、その翌日は1万2000個売れた。その売れ行きはまだ伸びている。


 不思議なもので売れ始めたら、何個売れたとか確認できなくなるものだ。数が数だけにとにかく作り続けるだけ。


 丁寧に整形して、蒸して、急速冷凍。包装して、発送。1日その繰り返しだ。


 手が空いている俺も、さやかさんもひたすら肉まんを作っている。パート・アルバイトのおじいちゃんやおばあちゃん、手が空いた光ちゃんも猫耳メイドのまま手を消毒して製造を手伝っていくれている状態。


 ***


「せんむー、誰なんスか⁉ こんなに戦争状態に追い込んだヤツはー?」


 光ちゃんが休憩時間にプンスカ怒っている。戦争状態というか、嬉しい悲鳴なのだけど、数が数だけに忙しすぎて目が回りそうなのだ。


 1日中 肉まんを作り続けているけど、2時間おきに休憩は入れている。今は、ちょっとした休憩室の長テーブルの席についてお菓子を食べつつ談笑中だ。


「あ! ネットニュースで取り上げられてる!」


 スマホで該当記事を発見した。それは、Vtuberが酷い食レポでリスナーに肉まんを見せびらかして食べた結果、その商品が爆売れしていると言うものだった。


 ステマというよりも、製造元についてろくにリンクも貼られておらず、会話の内容から製造元、販売元が特定され注文が殺到しているようだった。


 動画の切り抜きや、肉まんについてのまとめサイトまで出現して一気に大人気になっていた。


「ひどい……。ひどすぎる宣伝だ……」


 俺は思わず苦笑いが出てしまった。


「それでも、この人気です。エルフちゃん頑張ってくれたんですね」


「さやかさんは良い様に取り過ぎでは⁉ 切り抜き動画を見た限り、あいつ単に持って帰った肉まんを放送中に食べてるだけだよ⁉」


「無理に宣伝しない方が効果が高いなんて意外でしたね」


「あいつには驚かされてばっかりです。あ、配信の2日後にはリアルのテレビニュースでも取り上げられてる!」


「それでまた一気に売り上げが伸びたんでしょうね」


「これはしばらく忙しいぞ……」


 俺は長テーブルに突っ伏した。


「でも、考えてみれば全てはここにつながっていたのかもしれませんね」


 さやかさんが湯呑のお茶を飲みながら言った。


「どういうことですか?」


「最初はお野菜の卸だけでした。そのうち、野菜の直売所をやり始めて、さらにスーパーをやり始めました。この時、お肉屋さんも魚屋さんも手に入れて、肉まんを作る下地はできていたと思うんです」


「ホテルの人たちとのつながりも強化できましたしね」


「それに、突拍子もないと思ったけど、芸能事務所を引き継いで……。キッチンスタジオやメイド喫茶を始めたりして……。宣伝するためのメディアも少しずつ手に入れていたんだと思います」


「そうか。逆に大々的に売る出す商品が無かった方がおかしかったのか。それにしても、エルフの存在が意外なほど大きいですよね」


「そうですね。自慢の妹ですから♪」


 さやかさんが少しどや顔で言った。


「自慢の姉を取り返しに行かないといけませんね!」


「はい」


 キリリとしてさやかさんの顔は少しすがすがしい表情をしていた。まるで、今回の勝負の勝利を既に確信しているかのような……。


 相手は、ギネスに載っている様な世界企業。昨日今日通販を始めた俺たちの商品が勝てるのか、俺は一抹の不安を抱えたまま3か月目の朝を迎えることになるのだった。


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