第216話:キャッチコピーの作り方とは
俺たちは肉まんの販売ページを作ろうとしていて、マルチで商品をバンバン売っている銀髪ボブのワカメちゃんにノウハウを習っていた。
ここまでに、決済ができる「販売ページ」の他に、商品が欲しくなる「ランディングページ」が必要なことが分かった。
ランディングページを見て、欲しくなった人が販売ページに移動して商品を買う流れらしい。
そして、そのランディングページの頭には「キャッチコピー」が必要で、ここが最も重要らしい。
キャッチコピーに使う言葉の考え方は習ったのだけど、「キャッチコピーの作り方」は別にあるという。
普段何気なく見ているキャッチコピーにもノウハウがあり、奥が深いことを初めて知った。どんな世界にも専門はいて、奥は深いものだし、体系立てられている事を知ってしまった。
「キャッチコピーは、一言でまとめがちだけど、それはテレビCM用だよ。今回みたいにWEBで商品を売る場合は、店頭販売のPOPみたいに3つの要素を取り込むと心に響くコピーになるんだ」
「その3つの要素っていうのが、さっき聞いたターゲットとか、危機感とか、そう言うのですか?」
(パチン)「ザッツライト!」
ワカメちゃんがニコリとして指を鳴らして言った。
「例えば『ターゲット』『危機感』『ベネフィット』という3つで考えてみると、『部活前に食べるのに最適と評判!』『売れすぎて品切れ店続出の』『ほっぺたが落ちて笑顔にさせる笑顔マシーン』みたいになるね」
そのまま使うことは難しそうだけど、言わんとすることは分かる。
俺たちの「おいしい肉まん」よりよっぽどどんな肉まんか伝わってくる気がした。
「あとは、商品のコンセプトと照らし合わせて『要素』をたくさん紙に書きだして、それを短冊みたいにするんだよ。その組み合わせでキャッチコピーを作れば、労せず無数に魅力的なキャッチコピーの出来上がりって訳さ」
「「「おお!」」」
ワカメちゃんの言葉には説得力があり俺たちは思わず声が漏れ、ついつい拍手してしまった。
ワカメちゃんも少し照れ笑いしている。彼女が見せる数少ない年相応の反応だったのではないだろうか。彼女も20代前半の女性。
いつも涼しく余裕のある態度をとっているけど、それは営業上のパフォーマンスなのかもしれない。
「ランディングページのトップはこれで良いと思うから、次はボディの部分に行こうかな」
そう。ランディングページは、「トップ」「ボディ」「クロージング」の3つの要素からなるんだった。
キャッチコピーは「トップ」部分。次がボディの部分か。
「ボディは、これまたいくつかの要素があるんだけど、見た感じ今回は「材料」「製法」「どうしてこの商品を作ったか」「どんな人が作っているか」を書くのが良いだろうね。誠実な人柄をアピールすると良いと思うよ」
それは得意分野ではないだろうか。真面目に作っているのだから。
「困った時は、いわゆる『5W1H』を思い出したらいいよ」
「5W1H」は、いつ、どこで、誰が、何を、どのように、なぜ、のことを言う。例えば「いつ」を考えると、「今朝」とか「今日」とかではなく、「安全な食材を扱う『朝市』が完成したいま」などタイミングなどの広い意味で捉えることで、たくさんの要素にすることもできる。
この辺りは、俺も自分でサイトを作っていたのである程度理解できた。農家さんを周って話を聞いたり、どんなこだわりがあるかを聞いて回ったりしていたからだ。
「その顔はピンと来たって顔だね。サイトでも作っていたのかな?」
またも見透かしたようにワカメちゃんが言った。ホントに怖い、この人。
「じゃあ、最後の『クロージング』も一気にいっちゃおうかな」
「お願いします」
「クロージングは見ている人に具体的に何をしてほしいのかを伝える場所だね。この場合『買ってください』で良いと思うよ」
「それだけ……?」
「特典とか値引きとか買いたくなる仕掛けを通常は付けるんだけど、多分ダメなんだろ? 店によっては売り切れだけど、このページは優先的に販売しています、みたいなのでもいいと思うよ」
なるほど、「ボディ」までで興味を持たせて、欲しいと思わせたところで、買ってねと伝えるのか。人の心理が分かるワカメちゃんが言うんだ。「買ってね」の部分がないと購入率が下がるなどがあるのかもしれない。
この情報まででキャッチコピーも、ランディングページも完成することになる。
それにしても、最初に興味を引いて、そのあと中身を紹介。知ればその商品が好きになり、欲しくなる。最後に買ってください……か。人を好きになることに似てやがる。
見た目だったり、話だったり、趣味だったり……。最初に興味を引かれて、その人のことを好きになって行く。最後に付き合ってください……みたいな。
考えてみれば、俺がさやかさんをちゃんと意識したのは、スーパーのお総菜コーナーだったな。スーパーのお総菜コーナーとJK、インパクトは十分だった。
その後、彼女のことを段々と知って行って……。いつしか好きになって。告白は悔しいけれど、彼女のほうが先だった。人が人を好きになる工程をWEBサイト上で商品が欲しくなるからくりに使うなんて商魂たくましいというか……。ただ、マルチの親玉に人のことを教えてもらうなんて、なんか負けた気がする。
結局、俺たちみんなでアイデアを出し合い、俺とエルフで文章を考えサイトに仕上げたのは数日後だった。その頃に他にも完成したものがあるのだった。
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