第208話:僕のスパイスカレーの味とは
「朝市」のキッチンスタジオを借りて、僕は辛いのが苦手な光さんでも食べられるスパイスカレーを考えていた。
光さんは、辛いのが苦手な上に、香りが強いスパイスもダメだった。スパイスなんて辛いか、香り付けか、臭い消しなので、その特徴を殺して行くような作業……。
それでも、僕は光さんに「おいしい」と言わせて交際を勝ち取りたいところだ。
「次がターメリックです。日本では『ウコン』って呼ばれています。ショウガの根の部分ですが、主に色付けと香り付けに使われます」
「ショウガもあんまり得意じゃない、にゃん。ミョウガは全然ダメにゃん」
なんと! カレーの黄色成分ともいえるターメリックもダメっぽい。益々ハードルが上がって来たぞ。
「カルダモンは実の部分を使うんですが、清涼感があって『スパイスの女王』なんて呼ばれています。少しほろ苦くて、香りが強いので我が強い女王かも知れません」
「んー、色々入ってる、にゃん」
「クローブは、インドネシア原産の植物の開花直前のつぼみです。一番香りが強いんじゃないかな。肉の臭みを抑えてくれるので、肉料理にもよく使われますね」
「独特のにおい、にゃん。色々入ってて、実は、スパイスカレーは作るのがめんどくさい、にゃん?」
「そんなことないですよ? たしかに、1個1個スパイスを集めていたら大変かもしれませんが、日本ではスパイスを調合して売られていることがほとんどです。たとえば、8種類の中の1つに挙げようと思っていた、オールスパイスは、実の部分を使うんですけど、シナモン・ナツメグ・クローブの3つの香りを合わせ持つからこの名前になってます」
「1種類で3つの香り……。じゃあ、重複したヤツは要らない、にゃん?」
そうもいかないのがスパイスの奥が深いところなんですよ……。
「最後に紹介するのが、ガラムマサラなんですけど、こいつは混合スパイスです。クミン、コリアンダー、カルダモン、シナモン、クローブ、ナツメグなんかを混ぜて作るんですけど、家庭ごとに調合が違うので奥が深いところです」
「そんなに入ってるなら、それだけでもう十分だろ、にゃん」
「そうなんですけど、ガラムマサラはあくまで混合スパイスであって、カレーではないんです」
「難しい、にゃん」
猫耳メイドの光さんは少し首を傾げた。その仕草にまた惚れた自分に気付いた。
僕のアイデアはこうだ。
光さんが苦手な辛味の元であるレッドペッパーは使わない。
香りが強いクミンやコリアンダーなどはガラムマサラに含まれるもので賄う。肉に合うからオールスパイスは使うけれど、苦み成分を含むカルダモンは控える。
スパイスの方針が決まったら、後は簡単だ。
材料とスパイスを入れて炒める。炒まったタイミングで水を入れて煮込む。調理工程はいたってシンプルだ。
本当はテンパリングなど細かな工程があるのだけど、光さんへの説明は省いてできるだけ簡単に伝えた。
最後に、光さんの好きな豚肉を多めに入れて、仕上げにヨーグルトも入れたら完成だ。
小さな器に入れて……。
「できました!」
僕は席についている光さんの前にスパイスカレーの器を差し出した。
光さんはスプーンですくって、ふーふーしている。
緊張の一瞬なのに、金髪猫耳メイドの光さんの可愛さばかりが気になって、どうしていいのか分からない。
「んっ、んっ、んっ……」
光さんはゆっくりと咀嚼している。表情からは善し悪しが判断付かない……。
「ど、どうですか? 僕のスパイスカレー……」
「んー……。マズい、にゃん」
「ノーーーーーーっ!」
僕はその場で、膝から崩れ落ちたのだった。
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