第207話:辛くないスパイシーカレーとは

 テーブルの上についた手は指が震えていた。そう言えば、僕が女性に告白するなんて初めての経験だ。


 でも、自分の気持ちに気付いてしまったし、この気持ちを抑えることなんて出来そうなにない。


 言うしかない! でも、勇気もでない……。


 そうだ! これだ!


「ひ、光さん!」


「どうした? にゃん」


「僕が辛くないスパイシーカレーを作ります。それがおいしかったら……ぼ、僕とっ! つ、付き合ってくださいっ!」


「つつきあう?」


「……そうでなくて」


「僕と付き合ってください!」


 言った! 言ってやった! どうだ! 光さん!


 人差し指であごを少し触って考えているしぐさの光さん。僕は彼女の答えを待った。


「んー、ダメ、にゃん」


「だー! 振られたー!」


 僕は人生初の告白で玉砕した。


「せんむーの愛人になれば一生安泰、にゃん。金髪はかいしょーない、にゃん?」


「だーっ! やっぱり光さんも狭間さん狙いかー!」


 僕は頭をぐしゃぐしゃにしながら仰け反った。


 いや、違う! 僕のことが嫌いって言う意味じゃない! 光さんは、僕に甲斐性がないって言っている。それは間違いない。でも、それはずっとそうじゃない!


「光さん! 僕はこれでも一流ホテルの料理人です! そして、将来はスパイシーカレーで自分の店を持ってみせます! 光さんにふさわしい男になります! だから!」


「せんむーは、二枚目にゃん。背は高いにゃん、一戸建て持ってるにゃん。ババ抜きにゃん、お勤め先にゃ一流商社にゃん」


「一流商社じゃなくて、コンサル会社って言ってたと思うんですけど……。んー、何となく90年代のアニソンを思い出すのは気のせいでしょうか……。いや、僕も一戸建て建てます! そして、一流ホテル勤めです!」


「んー、じゃあ、カレー食べてから考える、にゃん」


「はいっ! よろしくお願いします!」


 全否定から、「考える」に変わった! この調子でおいしくて辛くないスパイシーカレーを作れば、もっと変わるかもしれない!


 ***


 僕は、光さんにスパイスについて少しだけ教えることにした。知ってもらった方が興味を持ってもらえると思うし、その方がおいしく感じると思ったからだ。


「スパイシーカレーのスパイスは主に8つからなるんです」


 テーブルの上にその8種類を並べて行く。光さんも興味を持ってくれているみたいだ。


「クミン、コリアンダー、ターメリック、レッドペッパー、ガラムマサラ、カルダモン、オールスパイス、クローブです。この中で辛いのはレッドペッパーだけなんです。光さんはどれくらいの辛さまでは大丈夫ですか?」


「カレーの王子様かポケモンカレーなら、にゃん」


「1歳から食べられるやつ!」


 光さんは、思ったより辛いのがダメらしい。でも、それくらいじゃないと、狭間さんから僕に目を向けさせることはできないだろう……。


「頑張ります。クミンはインド料理を代表するスパイスの一つです。エジプト原産でせり科の植物の種の部分です。最初のほうに油で炒めて香りを出すのに使われます」


「なんか、そこらに生えてる草みたい、にゃん」


 見た目そんな感じなのでしょうがない。


「次がコリアンダーですけど、葉の部分は『パクチー』って呼ばれている植物の種の部分です。葉の部分と違って柑橘系の爽やかな甘い香りがします」


「パクチーもダメなんスけど、それならいいかも、にゃん」


 危ない危ない。パクチーもダメだったか。たしかに、香りが強いからなぁ。辛味もダメ、強すぎる風味もダメ……。


 スパイスカレーの特徴を殺していく感じだろうか。


 それでも光さんに「おいしい」って言わせるスパイスの組み合わせを僕は考えていた。


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