第204話:勝てる価格設定とは

(パンパン!)俺は自分の両頬を叩いて気合を入れた。


 ここは、『朝市』の会議室。さやかさんと領家くん、エルフと光ちゃんという、今日のテーマから考えると少し心もとないメンバーだ。


 それというのも、例の肉まんの価格を決める必要がある。


 他のメンバーは、新フレーバーの開発をしてくれているので、餅は餅屋、料理は料理人にお任せしているところだった。


 俺たちも決めることが山積みだ。


「せんむー、肉まんはおいしかったから、もうあれでいいっしょー? なんか決めることあるんスかー?」


 緊張感を削ぐ喋りは光ちゃん。


「『朝市』で売るつもりだったものだから、たくさん売るには売り方とか、価格とか考える必要があるんです」


「じゃあ、1円にしたらいっぱい売れるんじゃないっスかー?」


「確かにね。光ちゃんの言うのもごもっとも。『販売数勝負』だったらそれもアリかもしれないけど、今回は『経営勝負』なんだよ。儲けないといけないんだ」


「じゃあ、1個を高くしてお金持ちに買ってもらう作戦っスねー」


 その発想はなかった……。光ちゃん天才か。


「まあ、ルール違反じゃないけど、相手は数を売る作戦に出てきているし、俺のほうもそんな大金を出してくれる人が思いつかない」


 厳密に言えば、高鳥家の誰かならお金を出してくれるかもしれない。でも、相手は信一郎さんだ。血のつながらない俺よりも、肉親である信一郎さんのほうが大事に違いない。


「『朝市』では、あの肉まんいくらで売ってたっけ? できるだけ安くするの?」


 エルフは相変わらずのんきだ。


「肉まんは200円だ。原価は40%近い。でも、良い材料を使ってるし、利益率35%は維持したい。肉まんに関してはこのままでいきたい」


 食品は、材料費などのことを「原価」という。低下に対して、原価率は30%程度が適正と言われている。


 例えばこんな感じ。


 原材料費:30%

 人件費・光熱費:40%

 利益:30%


 本当はロスのことなど考える必要があるが、簡単に言うとこんな感じだ。


 ところが、『朝市』の商品は良い材料を使っているのでどうしても原価率が高くなってしまう。


 原材料費:40%

 人件費・光熱費:25%

 利益:35%


 ここで仕掛けとして挙げられるのが、利益率を35%と高めにしていること。『朝市』のメンバーには、上がった利益から分配することを伝えているので、できるだけ人件費・光熱費を抑えた設定にしていたのだ。


 本当はもっと抑えたいところだけど、現場の労働に対するリスペクトや削ることのできない光熱費として25%以下にはできなかった。


「ふーん、1個売れたらいくら儲かるの?」


「販売価格が200円だから、利益は70円ってとこだ」


「え⁉ 相手が何十億も売ろうって言ってるのに、こっちは1個70円の世界⁉」


 エルフが驚いていた。


「いや、待て。利益と売り上げがごっちゃになってるぞ? 相手は1個100円の饅頭を1,000万個売る気だ。多分実現できるんだろう。それだけで売り上げは10億円になる」


「ひえー」


 エルフが両手を上げて驚いて見せた。


「パないっスねー」


 光ちゃんもその額の大きさに驚いたらしい。


「それでも、利益ベースで考えたら、利益率30%としたら1個売れ30円だ。1,000万個売ったら3億円」


「ひーえー、3億円事件っスねー」


 光ちゃん、きみは年齢いくつなんだ。


「ボクたちが、3億円売るためには……?」


「3億円÷70円だから、429万個売る必要があるな」


「えーーーー!? もう、ダメじゃん!」


 エルフが机の上に突っ伏した。


「しかも、お兄ちゃんは『饅頭』を売るので1箱10個入りとか、20個入りとか、30個入りとか……。まとめて売れることが予想されます」


「せんむー、2号さんのことは諦めて。ウチが慰めてあげるから……」


 光ちゃんが不吉なことを言った。


「エルフ、肉まんを買うときに10個も20個も買うか?」


「まあ、10個くらいなら買うかもしれないけど、20個はねぇ」


「いや、10個買うのかよ。普通、そんなに買わないよ」


 あの食べっぷりなら、ホントに10個くらいいけるのか⁉


「店頭で肉まんを買うとしたら、普通1個だろう。だから、おみやげ物として冷凍して全国発送する必要がある」


「あー」


「しかも、肉まんばかりだと10個セットは多すぎるから、色々なフレーバーを作ってセット品を作る必要があるんだ」


「ああ! それでカレーまんとか!」


「そういうことだ。それぞれの価格は同じである必要はないけど、利益だけは確保したい。その上で、売れる価格にする必要があるんだ」


「高いと売れないし、安いと利益が取れない……商売って難しいね」


 エルフは他人事のように言った。まあ、半分他人事だからしょうがないか。


「でも、430万個だっけ? 絶対そんなに売れないから、何か手を考えないといけないんじゃない?」


「エルフが言うのももっともだ。でも、俺たちは東ヶ崎さんから情報をリークしてもらっている」


「この間の電話!」


「そう、そこに大きな秘密があったんだ」


 俺はさっき書いた利益率の話のところを書き直していった。



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無名新人作家ですから……。

出版社様としては、すぐに在庫を補充したそうなのでこの在庫切れも一両日中に解消される見込みです。


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書籍情報

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