第202話:最高の肉まんの盲点とは
広い会議室でたくさんの人が集まってくれている。みんな「朝市」の肉まんを食べてくれているが、誰もその完成度に異を唱えない。
料理のプロである鏑木総料理長ですら褒めてくれているこの肉まんに、弱点などあるのだろうか。
「狭間さん、それです!」
さやかさんの言う「それです」は、山口さんが「肉まんにカレーをかけたい」と言った時のもの。さすがのさやかさんでも、肉まんにカレーをかけるというアイデアには賛同しかねるんだけど……。
さやかさんが、肉まんを1つ持って彼女の目線に持ち上げた。
「この肉まんは、言わば『朝市』のみんなの努力の結晶です……」
「はい……」
たしかにそうだ。
「でも、今日ここに来てくださっているかたは、もっとたくさんの人たち、もっと大きな輪の人たちです」
「はい……」
東ヶ崎さんを取られてしまって、半ばパニックになって呼べるだけ呼んじゃった感はあるしなぁ……。
「じゃあ、『朝市』の肉まんと、山口さんのカレーがコラボしたカレーまんがあってもいいはずですよね!」
「!」
目から鱗だった。
たしかにそうだ。俺は肉まんにこだわっていた。こだわり過ぎて、それ以上が無かった。1種類である必要はないんだ。肉まん、カレーまん、あんまん……色々あっていいはず。
しかも、たくさんの種類があって、その一つがおいしい場合、他も全部試したくなるので、余計に売れる……。
「さやかさん! 天才かっ!」
「狭間さん!」
俺たちはホワイトボードの前で抱き合って喜んだ。
スペースは十分あったので、さやかさんを抱き上げて、その場でぐるぐる回ってみた。
「はははははは」
「ふふふふふふ」
ひらめいたことでちょっとテンションが高くなっていたかもしれない。
「あのー……」
山口さんがおずおずと手を少し上げて発言しようとしている。俺はさやかさんを降ろして指名した。
「はい、山口さん」
「とても微笑ましいのですが、めちゃくちゃ見せつけられてて……」
おっと……。
「「コホン、失礼しました」」
あ、さやかさんと言動がシンクロした。
「また!」
あわあわとする俺たち。
「せんむー、独り者に対する当てつけっスねー」
光ちゃんが半眼ジト目で責めている。
「いや、そんなつもりはないからっ!」
「若いっていいですなぁ」
「ゲンさんまで!」
「ああ……尊い……」
領家くんは今にも泣きだしそうなんだけど……。これはこれでどういう感情なんだよ⁉
***
ひらめきで少し取り乱した俺たちは、少し落ち着いてみんなに説明するようにした。
「すいません、少し取り乱しました」
「はは……。ボクにとってはいつも通りだけどね」
「こら、エルフ変なこと言うな!」
「つーん」
肉まんを食べながら、茶々だけ入れて拗ねるエルフ。段々言動が可愛くなってきやがって……。
「えーっと、車で言えばトヨタとか日産とか、ホンダとか色々あると思います」
俺はホワイトボードに車のへたくそなイラストを描きながら言った。
「俺たちの肉まんは、やっぱり最高だと思ったんです。でも、それは『朝市』のメンバーで作った最高だと思うんです」
みんな俺の言わんとすることが伝わらずにきょろきょろしている。
「車に色んなメーカーがあるみたいに、車種にも色々あるみたいに、肉まんもカレーまん、あんまん、色々種類があって良いと思うんです」
うんうん、とみんなここまで付いてきてくれているようだ。
「この中には材料となる食材を作っている方もいます。そして、料理に長けているかたもいます。その人たちと第2、第3の種類を作り出していきたいんです!」
「「「ああ……」」」
やっと伝わったっぽい!
「あと、この中には、インターネットやテレビなんかの表舞台で活躍している人もいます。チャンスがあればぜひ、宣伝してほしいんです!」
「それなら……んぐ、んぐ……ボクにもできる!」
エルフ、それ何個目だ⁉ 食いしん坊キャラへ転向なのか⁉
「私でよければ……」
松田茉優さんは、控えめというか、礼儀正しいというか。ただ、彼女の場合、
あとは、芸能事務所のアイドルのたまご達にもお願いできそうだ。彼女たちも、ツイッター、インスタ、Youtubeなどなんらかのメディアを持っているはず。
ひとまず、商品開発と広告について青写真ができたところで今日は解散となった。
そのあと、みんなで肉まんを試食したのだけど、どんどん肉まんがなくなって行った……。
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■お知らせ
明日の2023年6月7日(水)、「ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ」1巻が日本橋出版様より発売になります。
いよいよ明日です。
特典……と言えば、本以外を考えがちですが、実はこの本ほとんど全部書き直しています。
そして、書籍描きおろしのお話も当然入れています。
当初160ページの予定だった本はいつの間にか、176ページになるという太っ腹ぶり。出版社さんも気を使ってくれているに違いない!
ぜひ手に取っていただければと思います。
こちらに作品紹介を掲載しています。
http://sugowaza.xyz/catcurry/?p=357
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