第198話:東ヶ崎さんからの電話とは
「はい」
俺は自分のスマホの通話ボタンを押して電話に出た。東ヶ崎さんのスマホからの着信だったからだ。
「狭間さん……?」
着信と同時に立ち上がって電話に出た俺の隣にさやかさんがいる。周囲も電話に気付き静かになっている。
俺は違和感を感じて、人差し指を唇に当てて、「しー」のポーズをして見せた。横にいるさやかさんもすぐに察してくれたようで静かに見守ってくれている。
俺は静かにスピーカーにしてスマホを机の上に置いた。
『なぁ、西ノ宮。日本で一番売れている饅頭は何だ?』
電話のスピーカーから聞こえてくる声は、信一郎さんみたいだ。言っていることから話している相手は西ノ宮さんだろう。
じゃあ、東ヶ崎さんはその場にいてスマホの通話ボタンを押してしまったとか……。いや、彼女のことだ。そんなミスは絶対にしない。
意図的にこちらに信一郎さんの戦略をリークしてくれたということか。やはり、相手側についても東ヶ崎さんは東ヶ崎さんということだろうか。
『「福岡通っちゃうもん」ですね。20年連続でモンドセレクション金賞を受賞し続けています。過去に1年で一番売れた饅頭ということでギネスにも登録されています』
「じゃあ、それに似たやつを作ろう!」
斬新! いきなりパクるとか。信一郎さんは、客の満足度を上げようとかそんなことは考えてないみたいだ。売れている物があれば、それを真似する、と。
食べ物について特許は取れない。商品名は商標登録できるので、そのまま丸パクリとか、似ている商品名などは使えないけど、商品自体は真似し放題。それが食品業界なのだ。
『西ノ宮、今回の勝負、何個売れば勝てる?』
『そうですね、先のギネスでは1年間に75億円売り上げて世界一なので、1個100円として7500万個……。月当たりにして、新規参入であることを考えれば3か月で1000万個も売れば勝てるでしょう』
『よし! 俺はこの3か月でこの饅頭を1000万個売るぞ! そして確実に勝つ! さやかを取り戻すんだ!』
『信一郎様、それですとそれなりの生産ラインがないと、いきなり1000万個となると……、1日10万個以上作る必要が出て来ますし……』
『さっきの本家はどうやって作ってるんだ?』
『今、お調べしたところ専用の工場で生産ラインを作って、オートメーション化して24時間体制で生産している様です』
検索スピードが半端じゃない! これは東ヶ崎さんにも通じるものだ。やっぱりチルドレンすごい。
『そのラインの一部を3か月使わせてもらおう!』
斬新! 本家の生産ラインを使って偽物を生産するなんて……世界中の誰がそんな発想をできるのか……。
『材料の確保もその会社に依頼しろ。ついでに、販売ルートも使わせてもらおう』
むちゃくちゃだ! 誰もそんなこと考え付かない。いや、考えても口に出さないだろう。
『それですと、会社自体の買収……と言うことでよろしいでしょうか?』
『そこは任せる。俺は勝負に勝ちたいだけだ』
『かしこまりました。結果はご報告いたします』
ホントにめちゃくちゃだ。計画も何もあったもんじゃない。今のやり取り程度だけで世界で一番饅頭を売っている会社を買収してくるのだとしたら、チルドレンは優秀過ぎる。
『信一郎様、本家の饅頭と違ったものにしないと自社の物とは言えず勝負に勝てませんが、どの程度変える必要がありますか?』
『まず、名前だ。本家を連想させる似た名前にしろ。そして、材料や製法は同じで、値段を2割ほど下げろ』
『かしこまりました』
『ここまでで予想される問題は何だ?』
『はい、消費者が本家と似た商品を偽物だと疑い躊躇することです』
『それならいい考えがある』
電話の先だが、信一郎さんがニヤリとするのが見えた気がした。
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