第197話:商品開発会議とは
「お菓子かぁ……。僕は作ったことないっすねぇ」
スパイスカレーの山口さんが顎にこぶしを当てて悩みながら言った。山口さんはホテルの厨房に勤めている。彼はスパイスカレーに熱中していて、最近ではネパール出身のライさんの協力の下、色々な種類のスパイスカレーは作っている。
その山口さんに饅頭の話を振ったのが間違いだったか……。
「うちのホテルのパテシェを貸してやってもいいけどよぉ……」
山口さんの横でそう言ったのは、その厨房の総料理長である鏑木さん。歯切れが悪い理由は俺にも分かる。
ホテルのパテシェが考えた饅頭ならそれなりの形にはなるだろう。でも、それだけで信一郎さんに勝てる饅頭になるだろうか。勝てるイメージがまるで沸かないのだ。
「饅頭って和菓子? ボク、食べたことないかも。どんなの?」
エルフが聞いた。
「それならエルフちゃん、私がお兄ちゃんと話していた時に食べていた回転饅頭を持って来ているからそれを食べてみて」
さやかさんは回転饅頭を買って来てくれていた。
「へー、これが饅頭……。あっまっ!」
エルフの口には合わなかったようだ。それにしても異世界から飛び出てきたような容姿のエルフが回転饅頭を食べている様子は……多分、世界中のどのマンガでもラノベでもないだろうなぁ……。
それでも、義理の妹になるかと思うと背の低いエルフの頭を思わずなでてやりたくなる。こいつがたまに俺のことを「お兄ちゃん」とか呼ぶようになってから、無性に可愛く思えることがある。また、撫でやすい高さに頭があるんだ!
そんなバカなことを考えつつ、回転饅頭をみんなに配るさやかさんを見守っている俺。東ヶ崎さんがいたら、一緒にお茶を配ってくれていただろう……。
そんな事を考えても、彼女は信一郎さんに取られてしまった。この事実は変わらない。でも、凹んでばかりはいられないのだ。俺がお茶を準備してみんなに配った。
「マンジュウってこれですか? ヌパーのマンジュウはモモっていいます」
ライさんがスマホの画像を見せてくれながら言った。
「モモって……この小籠包みたいなやつのこと?」
「ショウロンポ? スジ……コムギコを練って薄くのばしたものでニクをつつみます」
画像を見たら正に小籠包だった。ネパールは中国とかの影響も受けているのかもしれない。
「ちょっと待って。狭間さん、お兄ちゃんは饅頭勝負って言ってたけど、包むものなら何でもいいって言ってなかった?」
「たしかに。そんな事を言っていた」
「ちょっと待ってください。お兄ちゃんが直近いたって言うトリニダードトバゴ料理には『饅頭』っぽいのがないかもしれません。たしか『ロティ』とかって小麦粉の薄皮に包む料理がメジャーです。何でも包む文化なのかも」
さやかさんがスマホで調べてくれている。なんだか情報がふわふわしている。東ヶ崎さんならこんな時にパリッとして答えを準備してくれているもんだ。
俺たちはまるでネットにつながらないパソコン……スタンドアローンのパソコンの様にそれぞれの情報を持ち寄っている状態。
対して、信一郎さんはインターネット全開の状態ではないだろうか。ブライテスト20人と無数のサウザント、そして、東ヶ崎さんまで手に入れているのだから。
もはや、こちらはみんなで集まって回転饅頭を食べながらお茶を飲んで、好きなことを言い合うだけのグズグズ会議になりつつあった。
(テトテトテン)ここで電話が入った。
俺のスマホの画面には「東ヶ崎さん」と表示されていたのだった。
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