第195話:ラブコメ臭とは

 俺とさやかさんは屋上に来ていた。俺には情報が足りなかったのだ。ここでゆっくり話を聞こうという考えだ。家の中だと信一郎さんに聞かれるので、さやかさんとしても答えにくいことがあるかもしれない。


「さやかさんは信一郎さんの目的って分かりますか?」


「うーん、多分、二つあると思うんです」


 顎に指を当てて考える仕草。実に可愛い。


「二つですか?」


「はい、一つは何か誤解していて、私と狭間さんを別れさせようとしていると思います」


「なんかそれ、盛大なネタバレのような……。もう一つは何ですか?」


「お兄ちゃんは、東ヶ崎さんが好きなんです」


 さやかさんが人差し指を立てて説明するように言った。


「つまり、東ヶ崎さんも俺から引き離そうとしている、と。そう言う意味では既に目的の一つは達成している訳ですね」


「そうなりますね」


 顔を見せたと思ったら、すでに半分目的を達成しているとかどれだけチートなんだ。


「当の東ヶ崎さんは信一郎さんのことをどう思っているんですか?」


「本人は気づいてないみたいですね」


「なんか、そこにラブコメ臭がするなぁ……。あ、でも、それだけだったらチルドレンを引き連れてクーデターなんて起こす必要なかったんじゃ……」


「お兄ちゃんは狭間さんを最大警戒しているんだと思います。だから、チルドレンを使えなくしたんです」


「チルドレン……? あ! 東ヶ崎さんがいない!」


「そうです。東ヶ崎さんがいないとチルドレンとの連絡方法がありません」


「え、領家くんやエルフではダメなの?」


「彼らはチルドレン度が東ヶ崎さんほど高くないので、今までのようにはいかないかと」


 うーん、二つの目的のうち、既に一つを達成していて、二つ目にまで手をかけていたとは……。信一郎さん侮れない。


 なんとかかんとか言って、信一郎さんの得意な経営で勝負することになってしまったし。


「そうだ! 西ノ宮さんはどんなかたですか?」


「西ノ宮さんは、ブライテストの一人です」


「は!?」


「ブライテストのG20の一人です。彼女は20人の中でも特殊で通訳というか、パソコンで言えばOSみたいな役割をしていると聞いています」


「どういうことですか?」


「ブライテストクラスになると、言っていることや発想が常人には理解できないことが多いです」


「ああ、こちらにもそれ相応の知識がないと聞いても理解できない、みたいな」


「そうです。そして、突き抜けた才能の人たちは、説明があまり上手ではありません」


 なるほど、天才過ぎて凡人には何が分からないかが分からない……みたいな。


「西ノ宮さんは、単体でも十分優秀なんですけど、ブライテストの通訳みたいな役割も果たしているので、事実上のトップと言っても良いと思います」


 あうー。ただでさえ俺はただの人なのに、優秀なチルドレンたちとの勝負ってだけじゃなくて、その頂点みたいな人たちを相手に勝負……。いまさらどれだけ不利なことを始めてしまったのか理解できて来た。


 信一郎さんがポンコツでも周囲が優秀だから優れた結果を出す……。気づいた時にはその通りになっている。


 例えるならお猿が運転する電車みたいになっているのか。電車はしっかりしているので、お猿が運転しても電車はちゃんと走る。そして、その方向感覚と停車感覚だけは優れたお猿が運転している、と。


「ちなみに、お兄ちゃんが海外に行くって言った時、西ノ宮さんが付いて行きました。昔から彼女はお兄ちゃんのことが好きみたいで……」


 ああ、ここにもラブコメ臭が……。


 それにしても、東ヶ崎さん一人を奪われただけでこっちの戦力はだだ下がりだ。俺は翌日あの人たちに緊急招集をかけたのだった。


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■お知らせ

8日後の2023年6月7日(水)、「ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ」1巻が日本橋出版様より発売になります。


ついに、出版社様のサイトでも紹介が始まりました。

https://nihonbashi-pub.co.jp/news/238


本を注文する際に役に立つ注文カードも作りました!

http://sugowaza.xyz/catcurry/?p=357


重大なことがありまして……。明日お知らせします(汗)

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