第194話:東ヶ崎さんの忠誠とは
あれ? 耳がバグった? 変なことが聞こえたんだが……。
リビングのローテーブルについていて、俺の向かいに信一郎さん、俺の横にはさやかさんが座っている。
そして、信一郎さんの後ろには西宮さんが立っていて、俺たちの後ろには東ヶ崎さんが立っていた。
今、信一郎さんの呼びかけで東ヶ崎さんが移動して、信一郎さんの後ろについた。西宮さんの横に並び立っている。
「そうだろう、そうだろう! 東ヶ崎、こいつに言ってやれ!」
東ヶ崎さんが静かに口を開いた。
「高取家の次期党首は現状、信一郎様です。狭間様とどちらかを選ぶ必要がある場合は、迷わず信一郎様の側につかせていただきます」
彼女はいつもの表情豊かな様子ではなく、まるでアンドロイドのように無表情で言った。
「東ヶ崎さん……」
「狭間様、申し訳ありません。私もチルドレンの一人ですから」
東ヶ崎さんが深々とお辞儀をして言った。
彼女の言葉に首の下あたりからこみ上げる冷たい感覚にとらわれた。寒気がしたといったほうがいいのか、血の気が引いたと表現した方がいいのか。
「ははははは。じゃあ、勝負は明日からだ。3か月後の結果を楽しみにしているぞ!」
そう言うと、信一郎さんは、西宮さんと東ヶ崎さんを連れて行ってしまった。
リビングには、俺とさやかさんが取り残された。
テーブルの上には食べかけの回転饅頭と冷えたコーヒー。東ヶ崎さんがいたら温かいコーヒーを淹れなおしてくれるタイミングだろう。
「参ったな……」
俺はかなりショックを受けていた。
まさか、東ヶ崎さんが信一郎さん側につくとは……。彼女がさやかさんを裏切るはずがない。日頃の俺のポンコツぶりを見て愛想を尽かされたのだろうか。
「狭間さん、まずは、コーヒーを淹れなおしますね。東ヶ崎さんほど上手じゃないですけど、日ごろから練習していますから」
「……お願いします」
***
「東ヶ崎さんが信一郎さんのほうを選んだのは意外だった。やっぱり、俺がダメだったのかな?」
「もうっ! 何落ち込んでるんですか!」
リビングのローテーブルで、淹れなおしてもらった温かいコーヒーを飲みながらさやかさんと作戦会議をすることになった。
「東ヶ崎さんが好きでお兄ちゃんの側につくわけないじゃないですか! 日ごろから狭間さんを見る目がハートになっているのを気づいてなかったんですか⁉」
「え?」
「私は、小さい時からずっと東ヶ崎さんと一緒でした。同じものを見て同じものを食べて、同じことをして……。そしたら、好みも似てきちゃって。同じ人を好きになるのも自然なことだと思ってます」
「え? 東ヶ崎さんが俺のことを⁉」
「普段、私の嫉妬が止まらない程度には東ヶ崎さんは狭間さんに好き好き光線を出しているし、狭間さんのことは信用していますよ?」
さも当然のように言うさやかさん。
「狭間さんも私と東ヶ崎さんを同じくらい相手してくれたら、私もやきもちを妬かずに済むんですけど?」
あ、拗ねた。なんか拗ねられた。さやかさんには「恋人」とか「婚約者」とか重々しい肩書が付いていったので、少し構えていたというか、ちゃんとしないと、と思っていた。
一方、東ヶ崎さんは姉のように思っていたので、平気でさやかさんについての相談を投げかけていたりしたのだ。それが「仲良くしている」と見られてしまったのかもしれない。
「さやかさん、俺は……」
「いいんです。大丈夫です。分かってますから。狭間さんが私のことを一番に考えてくれているのは。多分、私の一方的な嫉妬だと思います」
「それでも……」
「私は、東ヶ崎さんも大好きです。本当にお姉ちゃんのように思っています。ずっと、狭間さんと三人でいられたら……なんて思ったりもしています」
「さやかさん……」
俺はほとんど何も言えてない。
「私たちは狭間さんを信じています。それなのに……」
そうか。東ヶ崎さんが喜んで信一郎さんのほうに付く訳がない。俺だけならまだしも、さやかさんまで放置して。
彼女の日ごろのイメージだったら、何をおいてもさやかさんのそばにいるだろう。
しかも、俺のことを「狭間様」って呼んだ。そんなこと最近では一度もない。
「東ヶ崎さんが、さやかさんのほうに付かなかったのって、もしかして……」
「主人の私を差し置いて、狭間さんに向こうの情報をリークするために、わざわざお兄ちゃんのほうに付いたんですよ⁉ これがやきもちを妬かずにおられますか⁉」
「……すいません。今やっと理解しました」
「むぅ、いちゃいちゃタイムを要求します!」
そのあと、さやかさんとゆっくりコーヒーを飲みながらいちゃいちゃしたのだった。
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■お知らせ
だいたい10日後の2023年6月7日(水)、「ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ」1巻が日本橋出版様より発売になります。
amazonで購入いただいてレビューを書いていただいたら、全員に「書籍のボツ画像」をプレゼントします! 実は3案もボツがあってイラストというよりは、構成なのですが、(生意気にも)いただいた3案ともボツにして自作した案を清書していただいたのが今回採用した書籍の表紙となっています。
あと数日でサンプル本が出版社さんより届く見込みです。
届き次第、書影として公開させていただきます。
猫カレーฅ ^•ω•^ ฅ
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