第192話:東ヶ崎さんの料理とは
「うまい! トリニダードトバゴ料理にも飽きてきたところだった。やっぱり和食がうまい! しかも、東ヶ崎の料理だ!」
「恐れ入ります」
信一郎さんはすごく喜んでいた。
トリニダードトバゴ料理ってどんなのだよ……。トリニダードトバゴにいたのだろうか。信一郎さんは海外にいたと聞いていたので、勝手にアメリカやヨーロッパを想像していた。どこだよ、「トリニダードトバゴ」って。
俺たち五人は再びテーブルを囲んでいる。
いつもの2階のリビングのローテーブル。いつもと少し違うのは、東ヶ崎さんがテーブルについてない。正確に言うと、東ヶ崎さんと西ノ宮さん。
二人は配膳の後、飲み物を準備してくれたり、おかわりをついでくれたり……。東ヶ崎さんはこれまでも色々と甲斐甲斐しく準備してくれていたりはしていた。
それでも、俺とさやかさんと東ヶ崎さんはいつも同じ食卓を並べて食事をしていた。
考えてみれば、さやかさんと東ヶ崎さんは、主人とお世話係なのかもしれない。でも、ここに俺は確実に姉妹の関係を見ていた。
だから、この今の食卓が嫌だった。
東ヶ崎さんの分と西ノ宮さんの分の食事がテーブルの上にないのだ。
さやかパパは寛大な人だ。東ヶ崎さんに一緒にお酒を飲もう、と言っていた。だから、あれが普通だと思っていた。
東ヶ崎さんがすごく感激して、その後で俺にお礼を言いに来た理由が今になって分かった。
「東ヶ崎さんと西ノ宮さんは一緒に食事をしないんですか?」
俺は彼女達ではなく、信一郎さんに訊いた。
「世話係と一緒に食事? バカげている。人間にはそれぞれの役割がある。それを壊した時、それまでの秩序はなくなるのだ」
信一郎さんは目を閉じて持論を述べた。
「俺は、一緒の方が安心します。色々世話されるのは、悪い気こそしないけどなんだか落ち着かなくて……」
「ふんっ、それは環境の問題だろう。僕は生まれた時からこうだった。お前が世話係の誰かを特別視したら、その他の者の忠誠は無視したことになるじゃないか」
そんな考え方もあるのか。
俺にとって東ヶ崎さんはオンリーワンだ。他に替えが効くような人じゃない。これは、さやかさんにとっても同じだろう。
でも、他のチルドレンからしたら面白くないかもしれない。日々一緒にいて、一緒に食事をして、一緒に生活をする……。まるで本当の姉妹の様に。
チルドレンたちは、高鳥家の人たちが大好きだ。
だからこそ、誰かを特別視したら、役割上そこにいられない人は東ヶ崎さんや西ノ宮さんに嫉妬の感情を抱くのではないか、ということだろう。
それでも、近くで面倒を見てくれている。しかも、東ヶ崎さんはそれだけの努力をしてこの場にいる。
さやかさんの近くに居れることを誉れと言った彼女だ。頑張りに対してそれ相応のご褒美があっていいのではないだろうか。
少なくとも、俺は東ヶ崎さんのことをさやかさんの姉だと思っている。そして、俺にとっても姉の様な存在だと思っている。さやかさんのお姉さんだから、義理の姉かもしれないけど。
ついでに言うと、年下だから姉とか言うと、東ヶ崎さんに怒られてしまいそうだけど……。
今の食卓が本来なのかもしれない。
でも、俺の知っているさやかさんと東ヶ崎さんの笑顔も本物だ。あの笑顔をまもりたい。そう思った。
食後には、デザートが運ばれてきた。
回転饅頭とコーヒーだった。
小判状の焼き菓子……全国的には「今川焼」と呼んだ方が通りやすいのだろうか。「回転焼き」とか「太鼓饅頭」とか「大判焼き」とかもあったはず。「御座候」も同じ物を指すはずだ。
デザートは、日ごろのチョイスと違うことから、これは信一郎さんの好みかもしれない。
「
信一郎さんはご満悦のようだった。
蜂楽饅頭は、福岡の回転饅頭のお店の名前だ。たしか発祥は熊本だと聞いたことがあるけど、昔から福岡にあるので俺は福岡のお店だと思っていた。
「よし! 『経営対決』にしよう!」
唐突に信一郎さんが言った。口元に回転饅頭のあんこが付いている状態だった。
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