第191話:勝負のルールとは

「僕とお前で勝負をして僕が勝ったら、さやかから手を引け!」


 屋久杉スライスのローテーブルに片手をついて、もう片手では信一郎さんがこちらに指を指して宣戦布告と条件を提示してきた。


 とても一方的だ。


「じゃあ、俺が勝ったらどうしますか?」


「狭間さん!」


 さやかさんが慌てて止めにかかった。


 俺は、「信一郎さんがポンコツ」と聞いて、侮っていたのかもしれない。ここで信一郎さんに勝って、俺のことを認めさせたいと思ってしまったのだ。


「お前が勝ったら何でも望みを1つ叶えてやる。それこそ、『国を1つ作る』でもな」


 ブライテストやサウザントを大量に連れている彼が言うと信ぴょう性もあるというもの。よほどの自信なのだろう。


 だけど、男には引けない時があるのだ。


「いいでしょう。詳しい勝負方法を聞きましょうか」


「よし、後で吠えずらかくなよ。勝負方法は……」


(パン)ヒートアップして行く俺たちの雰囲気を一気に霧散させるように柏手が一つ打たれた。


「大事なお話の前に、お食事にしましょう!」


 珍しく話に割って入ったのは東ヶ崎さんだった。


「と、東ヶ崎の料理か……。久しぶりだな。そうだな。先に食事にするか」


「信一郎様! ……いえ、なんでもありません」


 信一郎さんは同意したのに対して、横に付いている西ノ宮さんは反対みたいだ。しかし、力関係は何となく垣間見える。


 東ヶ崎さんがキッチンに消え、それを追いかける様に西ノ宮さんもキッチンに向かった。


「ふんっ、食事ができるまでゆっくりさせてもらう!」


 信一郎さんも席を外した。自室かな? 以前、俺が住んでいた部屋だが、今は俺がこの家に転がり込む前の状態に戻している。


 基本的な家電やベッドなどはそろっているので、不便はないだろう。


 そして、リビングには俺とさやかさんだけが残った。


「お兄ちゃんは、東ヶ崎さんが好きなんですよ?」


 二人きりになると、さやかさんがこっそり教えてくれた。


「そうなんですか」


「元はと言えば、東ヶ崎さんに良いところを見せようと思って海外に乗り出したところがあります」


「それで彼女と離れ離れになってしまったら、本末転倒じゃないですか?」


「そこはお兄ちゃんですから……」


 考え無し……と。


「やっぱり、信一郎さんにあの西ノ宮さんという人が付いていて、さやかさんに東ヶ崎さんが付いているという構図なんですか?」


「そうですね。きっちり分かれている……と言う訳ではなかったのですが、最初に西ノ宮さんがお兄ちゃんのお世話係としていて、その後に私のために東ヶ崎さんが起用された感じです」


 そうか。俺としては出会った順番からさやかさんが最初で、次いで東ヶ崎さんの存在を知った。しかも、東ヶ崎さんは当初全然前に出てこなかったので、普通のお手伝いさんと思っていたところがある。


 俺は、いつもは助けてくれる高鳥家の人たちが今回は勝負の相手となったことに漠然とした不安を感じているのだった。


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