第189話:高鳥家への訪問者とは

「東ヶ崎さん、食料は何日分くらいありますか⁉」


 俺は、ソファに座ったまま、少し真剣なトーンで聞いた。


「そうですね、いつも1週間分くらいはあると思います。でも……」


 なにか、マイナス要因があるということだろうか。


「仮に外に出られないとしても、食材がなくなったら宅配を頼めば良いんじゃないでしょうか?」


「……」


 ……その手があった。豊臣秀吉もびっくりだ。


 配達を依頼したとしたら、持ってくるのは一般の人だろう。それなら、危害を加えられる訳がない。信一郎さんと言えど、高鳥家の人間だからそんなことはしないだろう。


「狭間さん?」


 さやかさんが覗き込んできた。


「大丈夫ですか? 顔が赤いですよ?」


 そりゃぁ、そうだろう。これが兵糧攻めと思っていたのだから。俺如きの予想は完全に的外れだった。いやはや恥ずかしい。


「すいません、私がミスリードを誘ってしまいました」


 東ヶ崎さんに謝られてしまった。余計に恥ずかしい。


「すいません、俺は外でスナイパーが待ち構えていると思っていました」


「念のため家に帰っていただきましたが、実際にSATが狙っているというのは現実的ではありませんし……」


「そうなの⁉」


 もう、命が危ないと思っていたのに!


「何が起こるか分からないので、用心に越したことはありません。では……。こんな時ほどおいしいものを食べましょう!」


 突然、東ヶ崎さんが言った。


「東ヶ崎さん……」


「追い詰められた状態では人間いい考えが出て来ません。こんな時ほど、何か食べ物を入れないと」


「そうですね」


「お願いします」


 俺は照れ隠しもあって、東ヶ崎さんにお願いした。


「腕によりをかけておいしいものを作りますよ!」


 むん、と東ヶ崎さんが力こぶを作ってみせる。


「私も手伝います!」


 さやかさんも同調した。


「はい、お願いします」


 ほんとこの二人仲良しだなぁ……。義理の姉妹だけど、多分本当の姉妹以上に仲がいいだろう。


(ブロローーーン)さやかさんと東ヶ崎さんが料理を始めた時、1階で高級車独特の高い周波数のエグゾーストノートが聞こえてきた。


 どうも修二郎さん……さやかパパとさやかママが心配して帰って来てくれたようだ。いや、グッドタイミングじゃないだろうか⁉


 お父さんとお母さんなら信一郎さんを説得してくれるかもしれない。


(ガーーーーー)エレベーターの扉が開く音がした。


「修二郎さん、お願いがあるん……です……が……」


 そこで姿が見えた二人に驚いたのは俺ではなく、さやかさんと東ヶ崎さんのほうだった。

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