第186話:ブライテストとは

 東ヶ崎さんの案内で俺たちは車に乗り込んだ。例によって東ヶ崎さんが運転してくれているので、俺とさやかさんは後部座席に座っている。


 俺は、さやかさんに聞いてみることにした。


「信一郎さんってどんな人?」


「お兄ちゃんは、妹の私が言うのも何ですが、とんでもない人です」


 少し深刻な表情で答えるさやかさん。


「優秀なんだ……」


「いえ、一言で言えば『ポンコツ』です」


「ん?」


「もしくは、口だけの人」


「んん?」


 聞き違いかと思ったけれど、言い換えても変な言葉が聞こえてきた。


 それとなく運転席の東ヶ崎さんのほうをチラリと見てみた。彼女がミラー越しに一瞬だけ瞳を閉じて「……」の表情をした。


 あれは、立場的におおっぴらかには言えないけど「お嬢様の言う通りです」という無言の肯定だと俺は捉えた。


 ここでさやかさんが続けた。


「言いたいことだけ言って、実行力は皆無なんです」


 あれ? そんな感じ!? 予想と全く逆の答えだった。


「でも、さやかさんを助けようと海外に会社まで興した人だよね⁉ 男気があるというか……」


「多分、それもパパとママが国内でやっている活動を知って、私のためにって思い付きで言い出しただけって気がします……」


「じゃあ、実際は海外での活動はそれほど実績が上がってないんだ」


「いえ、今では世界16か国で健康診断を受けてもらう体制ができていて、例の因子を持っているか調べさせてもらう仕組みができ上っているって聞きました」


「すごいじゃない!」


 さやかさんの言っていることがちぐはぐだ。


「お兄ちゃんには、思い付きで言い出した妄言をいつも実行して成し遂げてしまう優秀な人がそばにいました。今思えば、あれはチルドレンだったと思います」


「あ……」


「しかも、私よりもたくさんのチルドレンが付いていたと思います」


 なるほど……東ヶ崎さんを見ても分かるけど、チルドレンはすごく優秀だ。そして、高鳥家に対する愛がすごくて、絶対に裏切らない。


 特に東ヶ崎さんはチルドレンの中でもかなり優秀で1000人に1人という「サウザント」だ。しかも、5000人に1人という優秀なサウザント。


 そんな彼女みたいのが何人もいる訳がない。


「でも、チルドレンと言っても、何でもできる訳じゃないんでしょ?」


「信一郎様には、チルドレンの中でも『ブライテスト』と呼ばれる精鋭が付いていました」


 ここで東ヶ崎さんが補足してくれた。


「ブライテスト?」


 また新しい言葉が出てきた!


「チルドレンのサウザントの中でも特別な者を、ザ・ベスト・アンド・ブライテスト(もっとも聡明な人々)と呼んでいて、信一郎様が連れて行ったのは、そのブライテストばかりです」


 何してくれちゃってんの!? お兄さんよ!


「ブライテストは20人ほどいて、それぞれがサウザント数人とグループを成しています。そのグループをG20と呼んでいます」


 G20……金融・世界経済に関する首脳会合だよ! こっちのG20はサウザント数人ってだけでもう絶対優秀なのに、その上にブライテストが付いているのが1グループ。それが20も! 本家のG20と同じくらい影響力がありそうだよ!


「それだけすごいともう国家が関係してきそうですね」


「そうなんです、さすが狭間さん。通常、ブライテストのG20は国を動かす仕事に就いています」


「ええ⁉」


「選挙で選ばれただけの政治家に国を動かす力はありません。日本は卑弥呼の時代から一人の王と元老院でまつりごとを行っています。それは、いわば頭脳。そして、その大決定を嚙み砕いて実行する者たちがいます」


「それがG20?」


「はい」


 とんでもない話を聞いてしまった。これは本当なら、車で移動中に聞いていい様な話ではなかったのではないだろうか。


「そんな話を聞いちゃったら俺、消されないかなぁ。ははは……」


「高鳥家の中では知られている事ですし、狭間さんは既にチルドレンの中では高鳥家の人間としての認識ですのでそこは大丈夫なのですが……」


 普段、東ヶ崎さんが出しゃばって意見を言ったり、説明したりすることはない。これを彼女が説明するということは、さやかさんもあまり詳しくない情報なのだろう。


「大丈夫なのですが……?」


 東ヶ崎さんにしては歯切れの悪い物言い……少し気になった。。


「G20は警察などの組織も管理下に持っています。そこにはSATなども含まれます」


 たしか、特殊急襲部隊とくしゅきゅうしゅうぶたい、英語で言うと Special Assault Teamつまり、SAT《サット》。


 つまり、警察などの合法スナイパーも俺を狙ってくる可能性がある、と。もう数段階気持ちを引き締めないといけないことを理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る