第4章:さやかのお兄ちゃんとは

第185話:クーデターとは

 元々、俺は単なる野菜の仲卸の営業だった。単なると言うには割りと特殊な仕事ではあるけど。


 それを救ってくれたのが、当時 森羅万象青果株式会社でアルバイト事務員として働いていた さやかさんだった。


 彼女はまだ高校生だった。仕事をクビになった俺を追いかけて来てくれた。


 高卒で働きに出た俺には、友達もあまりいなかったし、家族もみんな他界してしまっていた。会社をクビになった俺は、仕事を失っただけではなく寮扱いになっていて住む場所も同時に失った。


 そんな俺だったから、仕事もなければ、行くところもない。しかも、居るところすらなくなったのだ。


 だから、当時高校生だった さやかさんに「うちに来ませんか」と言われた時には他に選択肢はなかった。


 10歳も年下の彼女の申し出を受け入れざるを得なかった。でも、それが結果的に良かった。


 その後、俺はさやかさんと付き合うことになる。


 そこからはジェットコースターの様な生活だった。


 まずは、株式会社森羅万象青果内でクーデターを起こし、さやかさんが社長の座を手にした。


 これだけ聞いた人がいたら、夢物語と思うだろう。絵空事でもいい。アルバイトの事務員がある日突然、その会社のトップになるなんて……。ところが、俺は全てを目の前で見ていた。信じられないけれど、全部事実だった。


 その後、野菜直売所を作り「朝市」へと進化させ、1日一万人の来客のある日本でも指折りの野菜直売所に成長させた。


 更に、もっと身近に安全で安い野菜を届けるために、スーパーマーケット「スーパーバリュー」を買い取った。数年後には潰れる事が懸念された老朽店だったが、店を改装して見た目をリニューアル。


 偶然雇った外国人が店の意識を変え、見た目も中身も新しい繁盛店に成長したのだ。


 さやかさんの大暴れは止まらない。芸能事務所をさやかパパから引き継ぐと、メイド喫茶「異世界の森」は連日繁盛していて待ち時間が出るほどの人気だし、アイドル志望の女の子が働きたいと押し寄せている。


 キッチンスタジオは、テレビ局の人はもちろんユーチューバーからの申込みも多く、それ単体でビジネスとして軌道に乗りそうだ。


 しかし、ここの本当の目的は、テレビ局とのパイプ役。図らずも、早速第一号として友達の松田さんが料理番組に起用された。


 この先も、さやかさんは結婚式場、産婦人科の病院、幼稚園などなど手広く経営していくと宣言した。


 俺は、それを手伝っていくだけだ。


 *


 さやかさんを助ける人物として東ヶ崎さんは外せない。


 東ヶ崎さんは、さやかさんの姉の様な存在であり、秘書であり、何か色々できるくのいちみたいな人だ。


 誰よりもさやかさんが好きで、彼女の為に生きているのではないだろうかと思うときすらある。


 戸籍上はさやかさんの義理の姉になるらしい。高鳥グループで援助している人達を総称してチルドレンと呼んでいた。


 彼女はそのチルドレンの中でもかなり上のエリート。1000人に一人どころか、5000人に一人の優秀さらしい。格闘技も段持ちらしいので東ヶ崎さんに逆らってはいけない。


 さやかさんと二人が一緒にいると美人姉妹の様で微笑ましい。俺にとっては目の保養。でも、それは秘密だ。


 おっと、エルフも忘れてはいけない。こいつは東ヶ崎さん大好きなJKだ。JKと言いつつも、背が低いし頭ちっこいし、金髪だし、顔は整ってるし、耳こそ普通だけど、まるで異世界から飛び出してきたエルフだった。子供のエルフって感じ。


 色々悩んでたみたいだけど、結局一人であらかた何とかしてしまった。こいつは、それを俺のおかげだと思っているらしい。


 最近はちょっと懐いている様に見えるけど、いつもそうではない。猫みたいな性格なのかもしれない。


 自分の都合のいい時だけ甘えてきて、気が向かないと威嚇してくる。ホント面白いやつだ。


 さやかパパもさやかママも本当にいい人。さやかパパは、軽い感じなんだけど、時々眼光が鋭く、明らかにただもんじゃない。


 すごく沢山の会社を経営していて、コンサルも引き受けているのだけど、少しずつさやかさんに引き継がせ始めた。


 俺達は、今関わっている全ての会社を見て回って問題がない事を確認したばかりだったのに、ある日突然 さやかさんのお兄さんが海外から帰国。


 チルドレンを引き連れてクーデターを起こしたとのこと。全く俺達の周りにはトラブルがなくなる日はないのか……。

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