第182話:俺のできることとは
今日は色々見て回った。「朝市」、メイド喫茶、キッチンスタジオ、その後「森羅」や「スーパーバリュー」にも回ってきた。
1日見て回っていたので、もう日差しは傾き夕方になっていた。俺は東ヶ崎さんに言ってあの場所に行ってもらった。
前回来た時は、何の時だったか。俺が何かあった時に来て遠くを眺めるためだかの場所。
―――
悩みごとがある時と気分転換が必要な時しか来ないのだから、神様もたまったもんじゃないだろう。
でも、今日は何でもない日。たまにはそんな日に来ないと、ここに嫌な思い出がたまってしまう。
不思議とここでは福岡市内が一望できる広い景色と、大きな海と境内で さやかさんと東ヶ崎さんがハトと楽しそうに戯れている様子しか覚えていない。
ここに持ち込んだ悩みごとや嫌な思い出は、神社か神様が浄化してくれているのかもしれないな。
「私達で始めた計画は見事に狭間さんが軌道に乗せてしまいましたね」
境内の柵近くに立ち遠くを眺めていたら、横にさやかさんが立って話しかけてきた。
「たしかに、今日一日色々見て回って大きな問題はありませんでしたね。集客が効き過ぎているとか言うぜいたくな悩みはあるみたいですけど」
「ふふふ、今の世の中に」
嬉しそうに笑う彼女。こんな笑顔も持っていたのか。
「パパから引き継いだ会社も全部なんとかしてしまいましたね。特に、スタープロモーションなんて社長も把握してなかったマルチを排除してしまったし」
あれにより事務所内では、タレントとしての上下とは別の上下関係ができてしまっていて芸能活動にも影響がでているみたいだったので、現在急激に正常化しているらしい。
具体的には、特定のタレントのダウンにマネージャーが付いてしまい、そのタレントばかり優遇されていた事象が確認されたらしい。
「エルフちゃんの事も一段落しましたし、次は何をするんですか?」
「いや、もう十分お腹いっぱいですよ。株式会社さやかは、結局15社を抱えているんですから、これから何かトラブルを持ち込まれたら対応しきれないです」
「でも、私はこれから結婚、出産、育児と今後の事を考えたら、結婚式場と、産婦人科と幼稚園の経営ができないかな、と考えてましたけど?」
唇の下に人差し指を当てて目線が少し上を見ながら さやかさんが物凄いことを言った。
「いやいやいや、そういった自分が使いそうなところを全部自社で賄おうという考えは、普通じゃないですからね⁉」
「でも、私の興味って私の今立っている所からの景色が基準です」
そう言えば、そうなのかもしれない。最初に買い取った会社「森羅」はバイト先だった。
そこで取扱商品である野菜に興味を持って、安全で新鮮な野菜を手に入れるために「朝市」を立ち上げ、普段の買い物をする場所として「スーパーバリュー」を。
芸能事務所を引き受けることになったのでタレントの事を知って、そのバイト先ともいえる「メイド喫茶異世界の森」、テレビ関係者を招く「キッチンスタジオ」を次々と立ち上げている。
人気が爆発してしまって登録者が120万人を超えたエルフはそこのおまけみたいなものだろうか。「朝市」や「異世界の森」では既に彼女の人気を受け止め切れなくなりつつある程だ。
意外にも さやかさんの発想はシンプルだった。
じゃあ、絶対やる! この子は絶対やる! 結婚式場と産婦人科と幼稚園を経営してしまいそう! 下手したら、小学校や中学校、高校や大学まで経営するんじゃないだろうか⁉
「ははははは、また少し さやかさんの事が理解できた気がします」
「そんなに難しい事は考えてませんよ? いつだってシンプルです」
彼女は少し澄ました笑顔で答えた。
修二郎さん(さやかパパ)からの会社の引き継ぎ方も割と分かってきたし、彼が引き継ぎやすい優良な企業から引き継がせてくれているのも何となく感じれた。
「何となくコツも分かったし、この調子なら今後 引き継ぐ会社が増えても何とか出来ると思うよ」
「さすが狭間さん、とても優秀です♪」
本来の俺にそんなポテンシャルはない。これは、さやかさんの効果なのか……
それでも、今日一日全体を周ってみて何もないということに若干の物足りなさを感じた自分に気がついた訳で……
境内を散歩していた東ヶ崎さんが電話を受けるのが見えた。とりあえず、気持ちも安心したし、あの電話が終わったら帰ろうかな。
*
電話が終わると東ヶ崎さんが駆け寄ってきた。そんなに急ぐ必要ないのに。別にそんなに待ってないから。
「お嬢様! 狭間さん! 信一郎様が帰国なさいました! そのタイミングで一部チルドレンがクーデターを起こしました! すぐご自宅に!」
「お兄ちゃんが⁉」
え⁉ 信一郎さんって誰!? さやかさんが「お兄ちゃん」って呼ぶからには、俺の5階の部屋に以前住んでいたというお兄さん⁉
一枚岩っぽいチルドレンの一部がクーデター⁉ 一体何が起きているんだ⁉
俺の平穏だと感じていた生活は またかき回されそうな予感の一本の電話だった。
第3章 END
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