第180話:「屋台」の最新とは

「朝市」の看板イベントになりつつある「屋台」だけど、ホテルとのコラボ以来、テレビやラジオの取材も増えたし、問い合わせも多い。


 出店希望者が多すぎて待ちになっている状態だ。


 当初「朝市」は来客数を増やすために、集客に色々頭をひねった。今では、それらがそれぞれ効果を出しているので、休みの日は1日の来客者数一万人を楽々超えるまでに成長している。


 そして、それぞれの集客が相乗効果を生み、現場が大変なことになっていた。


「屋台」は領家くんが見てくれていたけど、「朝市」全体が忙しすぎて目が届かなくなってきたので、ベテランスタッフのゲンさんが対応してくれるまでになっている。


 試食なんかのセンスが求められる時に領家くんや俺やさやかさんが参入している感じ。



「ゲンさん、お疲れ様です。忙しそうですね」



 イートインコーナーでゲンさんに話しかけてみた。



「お疲れ様です、専務。こりゃ忙しくてゆっくりできませんよ」



 苦情の様だが、顔は笑っていた。



「私はね、もう定年してのんびり過ごそうと思ってたのに、こんなに忙しくて!」



 ゲンさん、仕事大好きか!



「あ、専務、あのホテルとの企画の第二回の話が来てるでしょ!? あれ絶対受けたらダメですから! 絶対ですよ!」



 ゲンさんがこう言ってくれていると言うことは、「受けろ」って事か。「森羅」の方に大量発注を流してくれているし、鏑木総料理長にも恩返しをしないとな。


 よし、やるか!



「分かりました! 任せておいてください!」


「いや、だからダメですからね! あと、あの金髪の女の子! あのイベントも『屋台』がパンクしますからね!?」


「分かりました! エルフにも言っておきます!」



 ついさっき、メイド喫茶でエルフイベントは、メイド喫茶を飛び出て「朝市」全体イベントにしないとメイドたちが冥土に行ってしまうとか言われたばかり!



「ゲンさん、ありがとうございます!」


「だから専務! もう、お腹いっぱいだから!『屋台』だけに!」



 今日も元気いっぱいのゲンさんだった。


 じゃあ、実際の屋台も見て回るか。俺達は、「屋台」のあるイートインコーナーを見て回る事にした。


 平日だというのに人が多い。大学生はまだ夏休みだというから、平日休みの人種がいるのだろう。



「あ、狭間さんお疲れ様でーす!」



 スパイスカレー屋の山口さんだ。そう言えば、山口さんは光ちゃんがお気に入りだったな。


 メイド喫茶に入ってしまって、中々会えないかも!?



「山口さん、お疲れ様です」


「あ、よかったらカレー食べて行ってください! 狭間さん!」



 山口さんの今日のカレーはひき肉のカレーみたいだ。いわゆるキーマカレー。



「豚肉ごろごろのカレーはやめたんですか?」


「将来、お店を持つときのために、別メニューの開発と思ってキーマカレーに挑戦中です。他にも、この間やった ほうれん草のカレーとか、ちょっと癖があるスターアニスのカレーとかも人気が出ました」



 そう言えば、お店を出すならメニューは1種類じゃ大変だよな。確実に山口さんも進んでいるということか。


 スターアニスは……たしか、中華食材で言えば八角だったか。どんな味のカレーなのか、確かに気になる。



「お店を出すときは、ここで出しますから、その時はよろしくお願いしますね!」


「『朝市』での出店希望なんですね。ありがとうございます。市内にお店があった方が都合が良さそうじゃないですか?」


「下手な場所に出店するより、こっちの方がお客さんが多いので、むしろちょっと遠くてもここが安心です」


「なるほど、ありがとうございます」



 2号店は全く別の場所に……となるとそっちにお客さんが流れなくて、結局それぞれお客さんがいっぱいという可能性も……近所に一部分かれる案の方が来客者を分散する目的としては良いのかもしれないな。



「ところで、光ちゃんとは会えてますか?」


「はい、早めに『屋台みせ』を切り上げてメイド喫茶の方に……」



 目をキラキラさせている山口さん。ああ、光ちゃんってメイド喫茶では、猫耳だしなぁ……



「光さん、みんなにはちゃんとした接客なのに、僕にだけ冷たいんです!」



 それはダメだな……



「なんか、特別って感じで! 愛情の裏返しですよね! 毎日でもメイド喫茶に行きたい!」



 いいんだ……それでいいんだ……光ちゃんの接客技術はすげぇなぁ……


 とりあえず、「屋台」も問題ないみたい。いつも通りだ。エルフが来てイベントでもしたらお客さんが入りきれなくなるから、問題と言えばそれくらいか。


 エルフみたいなのが数人いたらドームとかをいっぱいにできるのかもしれない。東京ドームの収容人数は確か55,000人、福岡PayPayドームは30,000人。いつか福岡ドームくらいならあいつ一人で埋めそうな気がしてきたな……


 さて、次はキッチンスタジオの様子見か、午後から収録って話だったからここは山口さんのカレーをいただいて時間でも調整するか。


「屋台1号」の山口さんへの売上げ貢献にもなるし、美味しいし、お客さんとしてイートインコーナーを利用することで見えてくることもあるかもしれない。一石三鳥だな。



「さやかさん、カレー食べていきますか」


「はい。山口さんのカレー久しぶりです」



 いつの間にか、「見習い料理人のカレー」から「山口さんのカレー」に俺たちの心の中の名称が変わっていることに気がついた。彼も確実に進化していると気づいたのだった。

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