第174話:「朝市」にメイド喫茶オープンとは

 マルチのHNLが業務停止になった。通常、業務停止になっても一定期間が過ぎれば業務再開が可能だ。


 しかし、HNLでは内部的な問題が起きて会社自体が大幅に失速しているらしい。


 そう言えば、喫茶モホロビチッチで会った「先輩」や「サポーターちゃん」はその後、顔を見なくなった。


 どこかで頑張っているのだろうか?


 それとも、ワカメちゃんが新しいマルチに連れて行ってしまったのだろうか


 そんな黒く渦を巻いたような事はまるで関係ないとばかりに、ある日曜日 快晴だった。気持ちいいくらいの晴れ。今日は「朝市」でメイド喫茶がオープンする日だ。



「どうしたんですか? 狭間さん、空なんか見ちゃって」


「いや、天気いいなぁって」



 さやかさんが気にかけてくれたみたいだ。



「今日はお店がオープンなんだから、しっかりしてよね!」


「エルフ、分かってるって。お前もドジするなよ」


「ボクはこういうキャラだから……いいんだよ」



 注意するじゃなくて、キャラだと言い張れるようになったのか。これは成長と言っていいのかもしれない。



「せんむー、やっぱり私もメイド服着ないとだめですかー? 年齢的にきっついんですけどー」


「光ちゃんは十分可愛いからメイド服が似合ってるよ」


「せんむー、3号の座は空いてますかー?」



 だから、3号ってなんだよ!?



「光さん! メイド服可愛いです! 後で一緒に写真撮ってください!」


「山口さん、カレー屋はいいんスかー?」


「今日はホテルの後輩連れて来てるので、ヤツに店番頼んでます!」


「あ、私、呼ばれてるのでー」


「誰に!? 今、どっかから声聞こえました!?」



 光ちゃんが走って逃げて行った。そして、それを山口さんが追いかけていった。この二人は相変わらずらしい。



 メイドのラインナップとして、エルフ、光ちゃん、そして、松田さんも入っていた。


 なんと、松田さんが熊本から福岡に引っ越してきたのだ!


 その後、キッチンスタジオでの収録でレギュラーとして使われるようになり、それだけならば月に2回だけなので、熊本から福岡まで出張対応でも十分なのだけど、これを機に更に芸能活動に力を入れるらしい。



「松田さん、大丈夫だったんですか? 一人暮らしお金かかるでしょ?」


「心配してくださってありがとうございます。最近では動画の広告料もだいぶ上がってきて、ここのバイトと合わせればギリギリだけど一人暮らしできそうです」


「動画は登録者数が増えたとか?」


「はい、今までお料理ばかりだったので、女性の登録者さんが多かったんですけど、エルフちゃんとコラボするようになって男女1対1の割合になってきました」


「エルフとコラボってどうやってるの? あいつ絵でしょ!?」


「エルフちゃんは、Vチューバ―の方とのコラボの場合は、アバター……絵なんですけど、リアルの場合は、顔出しするようになったんですよ? まだ、私だけですけど」


「そうなんだ、知らなかった……」



 エルフも少しずつ周囲と関われるようになってきたってことか。



「登録者数も100万人超えたみたいです。私、追い抜かれちゃって」


「え!? そうなの!? 知らなかった!」



 言えよ、そんな重要な事。


 いや、言わなくても分かっていた。だって、「朝市」の駐車場には例によって行列ができているのだから。


 きょうオープンのメイド喫茶「異世界の森」は、いわゆる異世界がコンセプトなので、エルフがいてもおかしくないし、猫耳がいてもおかしくない。


 来るものは拒まない日常(「朝市」)の中の非日常(「異世界の森」)なのだ。



 行列の人数を見て、今日は急遽イートインコーナーの半分ほどを臨時の「異世界の森」にしていた。


 一応、ロープでパーティーションにしていて、一般のイートインコーナーと分けているけれど、色々準備中のメイドが丸見えだ。一般客もメイド喫茶に興味を持ってどんどん列に参入してきている。


 イートインコーナーの方は、若干料金を下げて対応しているのも客の入りを増加させている要因となっていた。予想外だったが、いい効果が出ている。



「狭間さん、やっぱり私も手伝いましょうか?」



 あまりの人の多さに さやかさんがメイド喫茶を手伝うと申し出てくれた。



「さやかさんが店に出ると益々客が増えると思うのでやめておいてください」


「……逆に、迷惑になりますか?」


「いや、俺が内心面白くない思いをして、やきもちで他のことが見えなくなるだけです」



 さやかさんが ぼっと顔を赤くした。



「じゃ、じゃあ、しょうがないですね。私は遠くから見守るようにします」



 もじもじとしながら引き下がってくれた。



「では、私が!」


「東ヶ崎さんは、本物過ぎていいお手本になります。東ヶ崎さんの真似をするだけで普通の女の子達が『メイド』になっていきます。今日だけじゃなくて時々監修をお願いしたいです」


「承知しました」



 あまり表情には出ていないけれど、どこか得意気だ。


 俺達は、店の入り口に立っていた。そろそろオープンの時間だ。



「じゃあ、オープンしますか」


「そうですね」



 さやかさんはドアを開けるくらいは手伝ってもらうことにした。



「メイド喫茶『異世界の森』ただいまオープンです!」


「「「おおおーーーー!」」」



 怒号のような歓声とともに、大量のお客さんが店とイートインコーナー(臨時店舗)に流入して行った。



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猫カレーฅ ^•ω•^ ฅ

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