第171話:集めたピースとは

 松田さんから電話がかかってきた翌日、熊本に行った。


 長谷川氏からの呼び出しだったらしい。行って分かったことがある。俺も同行したけど、松田さんが再度長谷川氏に会ったのだ。


 今回はセミナーではなく、いきなり単独の面会。しかも、ホテル1階の喫茶店で。


 会った時間がまだ昼だったことから、いきなり部屋に連れ込む作戦だとは思わないけど、変な薬も持っているらしいし、細心の注意で臨んだ。


 結果、松田さんを全力で勧誘してきていた。変装した俺が一緒だったから、あんまり露骨な事は言わなかったけど、ダウンを付ける約束とか、助手にするとか、調子のいいことを言っていた。


 あれだけ積極的に勧誘してくるという事は、マルチ自体がどうにかなるとは思ってないらしい。


 2度目もナンとかカンとか言って帰ってきたけど、3回目会うとしたら、いよいよ危ないかもしれない。


 ただ、ワカメちゃんとは再度会う価値はあるのかもしれない。


 さやかさん曰く「少し心許ないけれど、最後のピースが揃いました」らしい。


 前回、さやかさんがパズルに例えて話をしたあとは、『森羅』内でクーデターを起こす程の大事おおごとだった。


 今回は、そこまでの話はないだろうけど、どんな絵が出来上がるのか……


 さやかさんは、ドミノ倒しのように何か色々なことを組合せて作戦を考えたはずだ。


 では、最初の1個目は慎重に倒す必要があった。スタートで失敗したら、その後に続くドミノはきれいに倒れないし、現実のドミノはやり直しが利かないのだから。



 *



 そして、さやかさんが最初の1個目に選んだのが、ワカメちゃんだった。


 意外すぎるスタート地点。俺たちは、この間の喫茶店に再び来ていた。もちろん、さやかさん、東ヶ崎さん、俺の三人で。


 ワカメちゃんは相変わらず余裕の表情で大きなテーブルの席に付いている。



「きみたちはいつも三人なのかな?」



 座ったまま、右手で「どうぞ」のジェスチャーをしながら、ワカメちゃんが聞いた。



「今日は軽口叩きに来た訳じゃないのはご理解頂いでいるでしょう」



 さやかさんが答えながら席に付いた。俺と東ヶ崎さんも さやかさんの両脇にそれぞれ座った。



「そうだね。私が喉から手が出る程欲しいものをお姉さんは持っているからね」


「これの事でしょう?」



 さやかさんがUSBメモリーを人差し指と中指に挟んでチラリと見せた。



「その小さなメモリーカードに本当にそれだけの価値があるのかな?」


「私がブラフを使わないのは、既にお気づきなのでは?」



 そう言いながらも、東ヶ崎さんがノートパソコンをテーブル上に準備した。



「察しが良いようだね。私には人の考えることが分かるんだよ。でも、確認は大事だよ。社会人の嗜みかな」


「東ヶ崎さん」


「はい」




 さやかさんの合図で、東ヶ崎さんがノートパソコンにUSBメモリーを刺し、その中身を表示させる。



「じっくりお見せできないのが残念ですが、ここにリストのデータが入っています。コピーはありません」



 そう言うと、さやかさんがノートパソコンからUSBメモリーを取り外し、ワカメちゃんの目の前にテーブルの上を滑らせだ。



「いいのかい? 今この瞬間、私がこのUSBメモリーを持って逃げて行くかもしれないんだよ?」


「データは間違いなく本物ですけど、何の準備もなく手渡す訳がありません。目的達成の折にはパスワードをお知らせします」


「なるほどね。そう来たか。確かに、私はこの情報が欲しい。そして、手に入れるためにはお姉さんの言うことを聞くしかないね」


「これで『大義名分』ができましたね。セミナーチームの1万人分のリストとネットチームの1万人分のリスト、合計2万人のリストを手にする代わりに、私の『お願い』を聞いてもらえますね」



 どちらも悪い顔をしている。とても「正義」とは思えない。思わず俺は苦笑いが出てしまった。


 二人の言葉だけ聞いたら、お互い相手を追い詰めているような印象だけど、どこか二人は協力したいけれど、そのきっかけを掴もうとしているようにも思えた。


 片やマルチの大学生チームの親玉、片や昨日今日知り合っただけの大学生。


 お互いを信用するには時間も情報も少なすぎた。


 それでもお互い何かを感じ取ったのか、「共闘」したいとも思っているのかもしれない。だからこそ、お互いそれを埋めるための「口実」が必要だったのだろう。



「じゃあ、お姉さんがどんな絵を描こうとしているのか、私にも教えてよ」


「いいですよ。実行は1週間後です。逃げるなら荷物をまとめておいた方がいいですよ?」


「逃げる? 火事場泥棒は火事になってからが忙しいんだ。ホントは今日にでも実行できるだけの準備があるんでしょ? もらった時間でせいぜい『泥棒』を集めておくわ」


「頭のいい方で助かります」



 俺からしたらどんな話になっているのか いまいち分からないけど、何か話がまとまったらしい。そして、決戦は1週間後だということだけ分かった。



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