第169話:学生会トップとの直接対決とは
マルチの勧誘にわざと飛び込み、そのトップへの道を作った さやかさん。
多分、同じHNLでも他のチームだったらこうはうまくいかなかった。
「学生会」が大学生を中心に会員数を伸ばしているチームということから、勧誘する人間も大学生なのだ。少し甘い部分がある。
そして、さやかさんも大学生。しかし、彼女は会社を10社以上経営する若き経営者。
そこらの大学生と経験値が違う。格が違った。
彼女の言葉だけでいきなりトップへの道が開いたのだ。
その日の夕方、指定された場所は意外というか、らしいと言うべきか、某有名国立大学のすぐ近くの喫茶店だった。
広い店内で、最低限の内装といった感じだけど、それが逆におしゃれに感じるような、いかにも若者向けのカフェだった。
各テーブルは小さいけれど、大きめの丸テーブルもあり、色々な客層に対応した……いや、色々な使い方ができるように考えられたレイアウトだった。
普段は、大学生のたむろするような場所なのかもしれない。いまは、昼と夜のちょうど中間という中途半端な時間。
客はほとんどおらず、一人客がちらほらとコーヒーを飲みながら、ノートパソコンでパチパチと何かを書いているようだった。
こちらは、さやかさん、東ヶ崎さん、俺の三人が臨んだが、相手は一人だった。
大きめの丸テーブルに一人ちょこんと座っているのは女の子。
店内に入ると、彼女が軽く手を上げたので、彼女がそれだと分かった。
「あなたが学生会のトップ、『ワカメ』さんですか?」
「はい、そうだけど、ちょーっと違うのよ。『ワカメちゃん』って呼んでね」
彼女は、短めのボブというか、ショートカットだった。さすがに刈り上げはしていないけど。髪の色が銀色っぽい。これこそ銀髪なのか!?
「座ってよ」と気さくに言われたので、俺達三人はテーブルの席に付いた。
組織のトップという事で、それなりの人物でそれなりの場所を想像していたけど、少し肩透かしだった。
「私みたいなのがトップで肩透かし喰らったかな?」
確かに普通の大学生といった印象。この子が学生会の方のキングだとしたら、ダウンを一万人以上抱えているということか。
意外と普通すぎて、確かに肩透かしだけど、普段もっとすごい さやかさんを見ているから彼女が普通に見える可能性もある。
「単刀直入に聞くけど、キングになりたいのって嘘だよね? 何考えてるの? 面白い事? 聞きたいなぁ、私」
どこまで見透かしているのか、このおかっぱ頭は。
「頭の良い方で助かります。それが分かっていて何故私達をここへ呼ばれたんですか?」
「質問に質問で返すなんて無粋だなぁ。まあ、初対面だしお互い腹の探り合いって感じ?」
さやかさんもワカメちゃんもお互い頭が切れるらしい。何一つ重要な単語が出ないのに、相手の意図を知ろうとしている。
「私はね、学生用のクリーンなマルチを作りたいんだよ」
先に折れたっぽいのは、ワカメちゃん。
「クリーンなマルチなんてあるんですか?」
「そりゃあ、もちろん。マルチレベルマーケティングは国からも認められた販売方法だよ? ちゃんとやればちゃんと儲かるさ」
「でも、一般流通品よりだいぶ高いですよね?」
「そりゃあ、たっぷりマージンが乗ってるからね。販売価格の6割はマージンかな」
いいのか? そんな内部事情を話してしまって。相手の意図が分からない。
「あ、そっちのお兄さんは、私の意図が分からないぞって思ってる? これでもギリギリの情報を出して少しでも信用を買おうとしてるんだよ?」
何も言ってないのに表情から読み取られてしまった。
「色々と察しがいいんですね」
さやかさんが皮肉を込めて言った。
「それは、こんな仕事だからね。人の考えている事はよく分かるよ。あなたは何を考えてるの? HMLの転覆でも狙ってるのかな?」
「だとしたらどうしますか?」
「マルチでもっとも大事なのは何か知ってる?」
「組織ですか?」
「その通り! いやぁ、お姉さんは見込みがあるなぁ。度胸もある。あと、美人。ホントにキングになっちゃうかもね」
「その気がないのはもうご存知ですよね?」
「私の下で仕事しない? ダウン関係なく毎月100万円払うよ?」
「あいにく、1桁間違えていないですか?」
「そうか、そうなのか。お姉さんはお金に興味がある訳じゃないんだ。なになに? お友達でもマルチにハマったの? その意趣返しみたいな?」
「そんなのマルチ側のあなたにお話しする訳がないじゃないですか」
「だよねぇ。私としてもHNLを壊されると収入源がなくなって困るけど、私には一万人の組織がある。HNLが潰れても組織ごと次に行くだけだけどね」
「それはそれで大変なんでしょ?」
「まあね。でも、マルチの会社は毎年200以上立ち上がって、翌年まで残ってるのは2パーセントだってよ? 私はずっとあちこち彷徨うジプシーなのよ」
「……そんな話、普段会員にはされないんでしょ?」
「そうだね。さっきも言った通り、信用を買おうとしてるんだよ。お姉さんからはお金のにおいがぷんぷんするからね」
「私は、ただ人を探しているだけです」
「んーーーー、長谷川さんだ!」
何も言ってないのに言い当てた。このワカメちゃん、なかなか食えない人だ。
「……」
思った以上に情報を与えてしまい、しまったと思ったのか さやかさんが黙った。
「いいよ、私のお願いを聞いてくれたら、長谷川さんの情報を出してもいいけど?」
「勘違いされてますね。長谷川さんの居場所は分かってます。あと、これも持ってます」
そうさやかさんが言うと、東ヶ崎さんがすっとノートパソコンを立ち上げ、ドキュメントを見せた。
「なになに? 何が出てくるの? ……え? これってもしかして……」
「はい、セミナーチームの会員リストです。連絡先もバッチリありますね」
「なんでこんなもの!? 私達でも他のチームのリストは持ってないのに!」
「『ネットチーム』のもありますけど、確かめますか?」
「……」
今度は、ワカメちゃんが黙った。さやかさんが思った以上に大きな相手だと気づいたのだろう。
「ごめん、言い直すよ。お姉さんの作戦を聞かせてよ。私にその作戦を手伝わせて」
どういう訳だか、ワカメちゃんが掌を返したように下手に出てきた。さやかさんが見せたあのリストにどんな意味があったのか!?
俺には分からなかったけど、訳知り顔で少し笑みを浮かべて見ることにした。
「私がこれを持っているという事は、長谷川さんの側近であることはご理解いただけますか?」
「……うーん、私、分かっちゃった! お姉さんの作戦! 長谷川さんの側近を装って私に近づいて何か嘘情報を流して仲違いさせるつもりだ!」
「っつ!」
さやかさんの表情が一瞬固まった。どうやらそうだったらしい。
「いいよいいよ。私、騙されてあげるから私と取り引きしよう?」
ワカメちゃんはニヤリと笑った。彼女は既にこちらの目的にある程度気づいたのかもしれない。
どこまで信じていいのか分からないけれど、相手はこちらと共闘したいらしい。
俺は目の前で何が起きていたのか、帰りの車ででも教えてもらおうと思っていた。
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