第168話:さやかさんも勧誘されるとは

 マルチの勧誘の現場に来ている。


 今日来た さやかさんを含めた4人の女の子が今まさに勧誘されている。


 俺が見ていた女の子なんか、あと「始めます」って言葉を言わせるだけになってるみたい。


 一応、クーリングオフの話とかはするのかもしれないけど、何とかかんとか言ってできないように先に話しておくのが常套句じょうとうくだ。


 さて、さやかさんの方は……



「僕らが勧めるブランドの商品の日用品を買うだけでいいんだ。それが仕事。簡単でしょ?」



 こちらも「先輩」は男性みたい。ちなみに、このテーブルのサポーターちゃんは、喫茶モホロビチッチで「明日来れる?」と聞いたあの子だ。



「それだけだと、物足りないです。もっと積極的に報酬につながる方法はないんですか?」



 多分、引き気味の相手が多い中、さやかさんは更に上を申し出た。



「おっと! すごいな! そうなんだよ! 実はもっと上があるんだよ。極まれにいるんだよね。キミみたいに、最初から成功するって分かってる人が」


「それはありがとうございます。では、その日用品のブランドチェンジの他にどんなのがあるんですか?」


「HNLの会員を募集することができるから、新規の会員さんを獲得したら、直接紹介ボーナスがあるんだよ! ちなみに1件当たりの報酬は……」


「それだと、会員を集めないといけないから、結局労働収入でアルバイトをしてた方が労働時間が短いです。もっと投資性の高いものはありませんか!?」


「オーケー! キミには負けたよ。これは、本当は会員になってからしか知らせてないんだけど、僕達は仮想通貨を持っているんだ……」


「……話を聞いたんですけど、これは、長谷川さんがやってるやつですよね? たまたま先日お話を聞いて……」



 これで「先輩」も「サポーターちゃん」も一気に黙った。目の前に置いていた水を飲み始めたよ。


 マルチにとって、上下関係はかなり大きい。上の人の見込み客を奪うような事があれば、大きなトラブルに発展する。



「で、どうなのかな? は、始めるつもりなのかな?」


「確か、入会金15000円で会員、20件新規を取ったら昇格してルークでしたよね? だから、30万円出して20口をまとめて買って、スタートした方がいいよ、と」


「そ、そうだね。最初はちょっと、大きな買い物に見えるかもしれないけど、すぐに回収できるから……」


「50件でルーク、100件でビショップ、500件でポーン、5000件でクイーン、1万件でキングでしたね」


「そ、そうだけど? それが……?」


「では、私がやるとしたらキングでスタートしたいのですが、どんな特典がありますか?」


「え? え? えっとねぇ……」



 15000円の一万件だったら、一億五千万円だ。宝くじでも当たらない限り普通の学生が出せる額じゃない。


 せいぜい乗せられて20口分払わされるのが普通なのだろう。



「ご存じないんですか? 申し訳ないですが、ちゃんと商品を説明できる方に変わっていただけますか?」



 テーブルでは さやかさんが腕を組んで目の前の「先輩」を見下げるように話している。もちろん、芝居だろうけど意地悪な顔をさせたら彼女の右に出る者はいない。


「先輩」も「サポーターちゃん」も何故か、さやかさんのオーラに押されてペコペコし始めた。


 もはやマルチの勧誘でもなんでもないようだ。



「先輩、学生会のトップにお会いしたいのだけど、連作先ご存じですか?」


「は、はい……」



 これは役者が違った。「先輩」も「サポーターちゃん」も可愛そうに。



「では、申し訳ないですが、他の3人も私が預からせていただきます。さあ、行きましょう!」



 さやかさんと一緒に来た3人の女の子を呼び寄せた。各テーブルの「先輩」も「サポーターちゃん」もポカーンという感じの表情。


 さやかさんのテーブルの「先輩」がここではトップだったらしい。その「先輩」をやり込めて、トップを呼び出そうとしているのだから、三下の出る幕はない。



「キング、お会いになるそうです!」



 さやかさんのテーブルの「先輩」が電話でアポを取り付けたようだ。



「じゃあ、時間と場所を教えてください。さ、行きますよ?」



 さやかさんは、「先輩」からメモを受け取ると、カモの女の子達3人を連れて店を出た。背筋がまっすぐでカッコいい。俺と東ヶ崎さんは万が一の時のために控えていたのに出番なしだった。


 店を出ると さやかさんは、カモの女の子達に「あれは始めてはダメですよ」と伝えて家に帰らせた。


 そのまま颯爽と駐車していた車にのところまでカツカツと歩いて行くので、俺たちは さやかさんの後ろを付いて歩いた。彼女が自らドアを開け後部座席に乗り込んだ。


(バタン)俺も後部座席に乗り込んでドアを閉めた時だった。



 ぎゅーーーーーーーーーーーーーーっ


 さやかさんが俺の首に思いっきり抱き着いてきた。



「こわかったーーーーーーーーっ!!」



 ちょっと泣いてるかも。さっきはあんなに冷たい目で「先輩」をゴミでも見るように見下げていたのに、実は頑張っていたらしい。


 俺は抱きしめたまま、さやかさんの頭を撫でてあげた。



「頑張りましたね」


「うー、うー」



 若干パニック気味だ。頭を撫でたり、背中を撫でたりして落ち着かせた。そうでないと、これからこの足で「学生会」のトップとやり合わないといけないのだから。


 俺が真剣な顔で考えているのに、ルームミラーから見える東ヶ崎さんの顔はニマニマしていた。その顔をやめていただきたい!



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