第163話:マルチのグループとは
「はい、狭間さん、コーヒーです」
「ありがとうございます」
忙しい週末を終えて月曜日。巷では休みなのだけど、俺達にはやることがあった。ただ、せっかくの朝だ。コーヒーくらいはゆっくり飲みたい。
さやかさんからコーヒーを渡されると、何となくあの東京での朝を思い出してしまう。
少し照れ笑いも出てしまった。
「狭間さん、どうしたの?」
エルフが無邪気に聞く。
「いや、何にも」
「そうです。何でもありません」
さやかさんも一緒に誤魔化してくれた。東京から帰って来て以来、4階に部屋を作ろうとしていた。ただ、内装屋さんなどが入る必要があるので、暫定的にいつもの生活をしていた。
「じゃあ、まず報告から聞きますね」
食後に さやかさんが言うと、東ヶ崎さんもテーブルの席についた。なんとなくエルフも空いた席に座った。
「先日見つけたマルチレベルマーケティング、通称マルチですが、株式会社ハッピーネクストライフは、会社とは別に「代理店」が大きく分けて3つありました」
東ヶ崎さんが、資料をテーブルの上に広げながら説明していく。この辺は熊本に行った時に軽く教えてもらっていた。
「長谷川氏のチームは、人脈を手繰っていくチームで、主にセミナーに人を呼び込んで勧誘しています。『セミナーチーム』と呼びます」
「それが特徴ということは、勧誘にも他の方法があるんですね」
東ヶ崎さんの説明だと他があるように聞こえたのだ。
「はい、他に2チームあります。1チーム目が主にインターネットで人を探しているいわゆる『ネットチーム』。もう一つが、大学生を中心に勧誘を進めている『学生会』というのがあります」
「学生会……」
「はい、大学生はまだ社会に出ていないので、部活やサークルのノリで気軽に参加してしまうみたいです」
「それでも、未成年はこういったビジネスに参加できないんじゃ……」
「保護者の承諾があれば参加できますし、そもそも法律改正で18歳が成人となりました」
「あー、そう言うこと! こんなところにも影響が出るんだ!」
今まで、マルチは大学生の間でも始める人がいたけど、割と一部だった。ところが、18歳成人となれば、1年の時から勧誘対象者になる。
世間知らずの子をマルチが勧誘して、組織に取り込んでいっているということか。
「『ネットチーム』は、文字通りネット上に情報がたくさんあるので情報はほぼ集めました。潜入したメンバーが資料や秘密情報なんかも収集済みです」
「それって合法ですか?」
念のため俺が聞いてみた。
「いえ、非合法です」
東ヶ崎さんがきっぱり答えた。
「狭間さん、いつから私たちは正義の味方になったんですか?」
さやかさんが口を挟んだ。
「ん? そう言えば……」
「なんとか頑張れば長谷川さんからお金をある程度回収することはできると思います。それでも全額は返ってきません。まあ、私のお金じゃありませんし。あと、マルチで集めたお金をもらうのは気分がよくないです」
実にさばさばした考えだ。確かに、さやかさんは会社を引き継いだ側だし、横領は先代の時の事件だ。
ドライな考えだけど、実際そうなんだ。
「それよりも、狭間さんをクビに追い込んだ長谷川さんの仕返しないと私の気がすみません」
少し邪悪な微笑を浮かべるさやかさん。さやかパパが自称した様に彼女もまた、聖人君子ではないと言っているのだろうか。
自分のためではなく、俺のために動いてくれているというのに。
「それで、どんなことを考えているんですか?」
「その前に、『学生会』の規模とか方向性などを見極めないとできることとできないことが出てきます」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言ったのは孫子だったか。
「彼らは活動の場が分かりません。確実に存在しているのに、学校内という閉鎖空間だけが活動の場なので、実態がつかめないのです」
東ヶ崎さんでもキャッチしにくい情報はあるらしい。まあ、闇雲に色々なところに学生を潜入させる訳には行かないだろうし、そうなるのか。
「今日は、みなさんのお知恵をお借りしたいのと、芸能事務所では先日の松田様の契約に立ち会う用事もあります。午後からは『朝市』でのメイド喫茶の企画会議があります」
今日も色々と忙しそうだ。
「俺達は、マルチ商法に疎いと思いますけど、学生会はどんなところにいると考えられるんでしょうか? 対象の人がどんな人か、とか」
「主に大学生の集まりなので、大学内にいると思うのですが、お金が必要で、でも、時間が無くて、安易にマルチ商法に参入して、結局余計にお金が必要だけど、アルバイトなんかで何とか破綻しないような人です」
「プロファイルだけ考えたら変な人ですね。そんなんじゃバイトは続かないでしょう。モチベーションの維持ができないというか……」
そう口では言ったものの、最近そんな人に会ったような……
「「芸能事務所!」」
俺と さやかさんの声がハモった。どうやら同じようなことを考えたらしい。松田さんはアルバイトを続けながら芸能活動をしていた。
「でも、この間は、長谷川さんのことを聞いたら全く情報が出てきませんでしたね」
「知ってても言わない時ってどんな時ですかね」
「長谷川さんの仲間の時……でしょうか」
そうだ。会話の中から段々見えてきた。もちろん、空振りの可能性もあるけど、さやかさんの会社にそんなものが入り込んでいたら、内側から崩れ落ちる可能性もある。
どうせ今日、行くことになっているのだから、ついでに調査だ!
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