第161話:エルフの悩みの種


「さやかさん……俺に手を貸してもらえないですか?」


「……あれはしょうがないですね。承知しました」



 俺達は東京隣県の某ファミレスに着いた。約束のファミレスに。


 土曜日の朝のファミレスなんて客はほとんどいない予定だった。ところが、いざ対象のファミレスに入ったら……



(ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ)



 何故だ。店に入ったら、なんと男女合わせて20人くらいいるのだ。しかも、色々なテーブルに。もしかしたら、学校が近いのでその生徒でたまたま混んでいるのかもしれない。


 テーブルを見ても、6卓くらいにいる。どれが俺達と待ち合わせをしている天王寺香織さんだ⁉



「そ、そうだ! 狭間さん。電話です! 連絡をくださった方に電話をすれば分かります」


「そ、そうか!」



 俺は慌てケータイを取り出し、登録していた天王寺香織さんの名前をタップした。



(RRRRRRRRR)


 オーソドックスな着信音が店内から聞こえる。どこだ⁉ ただ、俺たちはわざわざ探す必要はなかった。



「来た―――――!」



 大きな声と共に集団の一人が立ち上がったのだ。その少女は、店内を見渡して、俺と目が合った。



「狭間さん……ですか?」


「天王寺さん!」



 俺達は目の前の人物が、約束している人物だと理解した。



「「初めまして!」」



 よかった。さやかさんに一緒に来てもらって。そうでなければ、ファミレスで見知らぬ女子高校生とこんなあいさつをしたのでは、周囲からはアレだと思われてしまう。そう、アレ。


 援助的な、交際的な、アレ。



 まあ、相手が男女20人もいたらそうは思われないか。



「あの……これは……」



 集団を指さして聞いてみた。



「はい、みんな九重さんのことが心配で!」


「エルフのクラスメイト?」


「はい! そうです!」



 そう言えば、エルフって「九重」って苗字だったな。ずっと、エルフエルフって呼んでたから若干忘れてた。



「それで、俺は誰と話をしたら……」


「私が代表です! 私と話してください!」


「はい、了解しました」


「それで、こちらは……」


「エルフの姉で、俺の婚約者の高鳥さやかです」


「「婚約者!」」



 天王寺さんと共に さやかさんまで驚いていた。声なんかハモってたし! そして、さやかさんが少し顔を赤くしてテレてるし。



「あの……すいません。立ったままじゃ何ですから、こちらで」



 俺達は案内されて席についた。



 俺の横には さやかさん。俺の真向かいには天王寺香織さん、その横には、瀬本せもと あやさんという女の子が座った。



 天王寺香織さんは、少し髪の色が明るくてロングの女の子。背は、さやかさんよりもちょっと高くて背筋はピシッとしている感じ。クラス委員というよりは生徒会長という感じだろうか。


 隣の瀬本さんは、とても小柄でショートカットの女の子。目がキラキラしているのは……これは好奇心かな?



「改めて初めまして、狭間新太です」


「高鳥さやかです」


「天王寺香織です」


「瀬本彩です」



 とりあえず、それぞれの自己紹介は終わった。……終わったのだけど、周囲のテーブル全てが同じ制服の生徒で、すごくたくさんの人からこちらをチラチラ見られている。



「あの……これは……?」


「はい! みんな九重さんのことが心配で!」


「……と、言うと?」


「私達……九重さんとの付き合い方を間違えてしまったんです……」



 急に天王寺さんの表情が曇った。俺は、さやかさんと顔を見合わせた。変な芝居をしているようには見えない。話によっては、エルフがあんなに恐れていた彼女達とは、誤解や行き違いもあり得ると思ったのだ。



「詳しく聞かせてもらおうかな」


「はい」



 ***



 そこからは、天王寺さんが思いつくことを次々話していて、とてもまとまった内容ではなかった。ただ、それだけに彼女達が嘘を言っているのではないとも感じ取れた。


 話をまとめるとこうだ。




 高校に入学して入学式の後、教室に行ったら教室内に突然エルフがいた、と。当然、目を惹く容姿で誰もが見入ってしまった。


 入学式自体にはいなかったので、何事かと思ったらしい。


 あれだな。きっと道に迷ったとかで、入学式自体には間に合わなかったんだな。だから、何とかして自分のクラスを見つけ出して教室に先に入っていた、と。


 かなりドジだからなぁ。これだけの話を聞いただけで、手に取るようにエルフの失敗と、オロオロした様子が目に浮かぶ。


 誰もがエルフの容姿に惹かれ、ノリもあって崇めていた、と。それを見た他の生徒も面白がって崇めているうちに、エルフが誰とも話さなくなってしまった。


 その後、天王寺さん達は、エルフに話しかけようとしたけど、ろくに会話もせずにふいといなくなる。最初を間違えたこともあって、みんな申し訳なさからあまり強く出られなかったらしい。


 両者、受動的になっていると益々お互いの間に流れる見えない川の幅が広くなっていき、ついには少々なことでは渡れないようになってしまっていた、と。


 そしてある日、エルフは学校に来なくなった。


 もうどうしようもないと思っていた時に、クラスメイトの一人がエルフが「朝市」でイベントをしている動画を見つけたらしい。



 まあ、正確には動かない立ち絵表示していなかったのだけれど、今の立ち絵は実際のエルフに寄せているからね。しかも、声は普段のまんまだ。しゃべりも。そして、一人称も。



「電話しても出てくれないし、メッセージを送っても既読が付かないんです。私達どうしたらいいか……」


「ごめんごめん、最近俺が色々頼んでしまっていて、ちょっと余裕がないのかもしれない。俺からも伝えておくよ」



 まあ、嘘だけど。なんとかも方便という。



「九重さんと仲良くしたい人はいっぱいいるんです! 教室でも声をかけたらほとんどみんな来ちゃって。来れなかった人も色々用事があったからだし。ぜひ伝えて欲しいんです! そして、みんなで謝ってやり直したいんです!」



 天王寺さんの申し出は確かに本当に感じた。そして、周囲のクラスメイトからも悪い印象はなかった。


 まあ、エルフどっちかって言うとコミュ障だし。プラスとプラスだったというか、マイナスとマイナスだったというか、お互い相性が悪い者同士だったから始まりを間違えてしまったんだろうなぁ。


 ただ、これは意外と難しい。下手にいっちょ噛みしたら、入学式直後の二の舞だ。エルフは徹底的にクラスの子と会いたくなさそうだったし……


 まあ、変ないじめみたいなのじゃないと分かっただけでも大きな収穫だったかもしれない。

 その後も、天王寺さん達の話を聞きながら、作戦を考える俺とさやかさんだった。

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