第156話:さやかさん登場とは

 木曜日の夜、久々に時間ができたので、高鳥家の2階のリビングでくつろいでいた。仕事はもっぱら背の高い方のテーブルで椅子に座ってやっていたので、「オフモード」の今は、ローテーブルの方だ。


 そう! 「オフモード」なのだ。明日は金曜日だけど、休みにした。最近休んでなかったので、働き過ぎだから。


 相変わらずこの屋久杉のテーブルは高そうだ。荒々しい一方で表面がツルツルに仕上げてあってかなり好きになってる。木目の感じもかなり好きだ。


 そんな事を考えつつ、ハイボールを楽しんでいた。(一応言っておくと、マッカランでは断じてない!)


 東ヶ崎さんはエルフと何か話をしているみたいで、リビングにいない。きっと彼女の自身の部屋かエルフの部屋だろう。



「私参上!」



 さやかさんが、腰に手を当てて仁王立ちで立っていた。



「どうしたんですか? テンション高いですね」


「今日でやっとテスト終わりました!」



 そういえば、最近テストだと言っていた。最近、会社にも店にも行ってなかったのは、テストがあったから。


 仕事は代わりが利くけど、授業やテストはさやかさんが受けないと意味がない。


 改めて学生をしながら、社長をしているのってすごいなぁ。



「じゃあ、週末は休みですか?」


「テストが終わった大学生は最強なのです。これから1か月くらいはずっと休みです」



 それは本当だろうか。


 俺が座っている背中に背中を合わせるようにして、背中合わせに彼女が座った。



「最近、ちょっと寂しかったです」



 顔は見えないけど、ちょっと頬を膨らせて言っていると思う。



「テストじゃ、しょうがなかったですよ。でも、夜は家で顔を合わせてたじゃないですか」


「でも……先週まで誰と一緒に外回りしてましたっけ?」


「エルフ? ……かな?」


「『朝市』では、イベントで誰と一緒でしたか?」


「光ちゃんとエルフ?」


「今週は熊本まで誰に会いに行きましたっけ?」


「松田さん……かな?」


「私、全然出て来てないじゃないですか!」



 ここでさやかさんが座っている俺の背中を抱きしめるような形でぴったりと身体を付けてきた。色んな所が接触していて、色々柔らかい。



「狭間さんの周りって女の子が多すぎません!?」


「たまたま仕事で、ですよ。それに、『朝市』には領家くんだっているし、ベテランスタッフのゲンさんだっていますし……」


「その領家先輩だって、最近益々狭間さんの事好き過ぎませんか⁉」



 ついに、やきもちが領家くんにまで!



「明日休みなんだったら、久々にデートに行きましょうか」



 首に回っている さやかさんの腕に触れながら言った。



「デート……」



 あ、ピクリと反応した。これは良い感じ!?



「金曜日デート?」


「そうです。金曜日デートです。ほら、指輪もサイズ直しが終わって後は取りに行くだけだし! 世の中は平日だから人も少ないですよ?」


「指輪……」



 よし! もう一息だ! 何がもう一息なのか分からないけど、もう少しだ!



「金曜日、一日デート?」


「あ、すいません。夜はちょっと出張の前入りがあって……」


「しゅっちょー⁉ どこですか⁉ 熊本ですか⁉ 松田さんがいる熊本ですか⁉」



 何故ここで松田さんが出てくるのか。



「違いますって、熊本なら日帰りできるじゃないですか。ちょっと関東に……」


「かんとー? JKですか⁉ JKですね⁉ 何かJKの気がします!」



 出たよ、さやかさんの直感。しかも、微妙に当たってるし……



「あー! 何も言わない! やっぱりJKなんですね!」


「うーんと、まだ会えるかどうか、分からなかったので言ってませんでしたけど、これです」



 最近さやかさんが忙しそうだったのもあって、言いそびれていた。俺はスマホを取り出して、操作していた。



「これは……?」


「エルフの学校の友だちみたいです」 



 いつぞや、「朝市」に届いたメールを見せた。



「エルフに聞いてもはぐらかすだけだったので、この天王寺香織さんって方に会ってこようと思います。アポも取ってます」


「……1対1ですか?」



 あ、後ろにいるから顔は見えないけど、また頬が膨れてる。



「三人くらい来るって言ってました」


「JK三人に狭間さん一人……三人もいたら一人くらい連れて来ちゃうんじゃないですか⁉」


「さやかさん、俺を何だと……」


「私も行きます!」



 さやかさんが俺の脇の下から顔を出して横からから抱きついてきた。なんか、さやかさんが液体の様にぬるんと脇から入ってきた。ああ、接触面積が広い!



「行くのは構わないんですけど、今度は3連休じゃないですか。近所の遊園地の関係でホテルがほとんど満室なんですよ。普段1泊5000円のビジネスホテルも2万円とかになってたし……」


「全然ないんですか?」


「一泊5万円のスイートみたいなところは空いてましたけど、家族用って感じで……」


「そこにします! 狭間さんも今のホテルをキャンセルして、そのスイートに泊まりましょう!」


「ええ!?」


「でも、その部屋を見たのってもう、先週だったし、今もあるかどうか……」


「東ヶ崎さん!」


「はい、1部屋74平米のリゾートホテルのお部屋を押さえました!」


「うおっ! 東ヶ崎さん、いつの間に⁉ そして、仕事が早い!」



 さやかさんが呼んだら、ちょっと食い気味に東ヶ崎さんが登場した。しかも、登場したときにはホテルを予約した結果を持って来た。


 何!? 時間をさかのぼってきたの⁉ それとも時間を止めたの⁉ なんか東ヶ崎さんだったら、どちらもできそうな気がする俺だった。


 そして、明日はさやかさんと指輪を取りに行った後、その足で関東に飛ぶことになった。


 あんまりびっくりして、酔いが一気にさめちゃったんだけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る