第152話:松田茉優からの情報とは
松田
松田茉優さんとは、福岡の芸能事務所、株式会社スタープロモーションに所属間際のアイドルのたまごだ。話を聞いた限り、アイドルとタレントの中間みたいなところを狙っている子らしい。
彼女としては、福岡の料理番組に出たいらしいので、テレビ局、スポンサーとなる企業の重役とのコネクションを欲しているようだった。
そして、そんな夢や希望に付け入る様に近寄ってきているのが、長谷川氏だ。
長谷川氏は、俺が営業として勤めていた会社の先輩だった。
彼は、社員にある事ない事言って俺を他の社員から孤立させた。彼がやっていたことは横領。会社のお金を着服していた。
そして、その罪を被せる人間が必要だった。俺がそれに選ばれたらしい。実に迷惑な話だった。
俺は見事にその策略にハマり、何年も辛い仕事をすることになったし、他の社員からの当たりも強かった。
その状況を救ってくれたのが、さやかさんだった。
そういった意味では、長谷川氏は俺にとって因縁の相手だと言える。その長谷川氏は、横領の事実を突きつけると夜逃げしてしまったのだ。
姿を完全に眩ませていると思ったら、アイドルやタレントのたまごにコンタクトを取ってきているらしい。しかも、オンライン経由。
よく考えられている。直接会う訳じゃないので目撃されにくい。
しかも、アイドルのたまごが長谷川氏と会うときはクラブなど秘匿性の高い室内。これを見つけるのは大変だ。
この事が分かったのは、アイドルのたまごである松田茉優さんのところにも連絡してきていたからだ。
本当に偶然。たまたまと言っていいのか、因縁と言っていいのか。
そして、彼女は熊本で活動しているので福岡の会合に呼ばれても行けなかった。長谷川氏は、「また連絡する」とだけ伝えていたらしい。
俺達は、福岡の芸能事務所、株式会社スタープロモーション内にも情報をリークして長谷川氏情報を募った。ところが、全く情報が出てこなかった。
コンタクトを取っていないのか、それとも、連絡はあるのだけど俺達には連絡しないだけなのか……
俺は、早速、熊本に移動して直接松田茉優さんに会った。
場所は、彼女の家の近くのファミレス。
「長谷川氏から連絡があったってホント?」
「はい、これ……」
そういうと、LINEのメッセージを見せてくれた。
『今度、熊本でセミナーを開くから来ませんか? その後、VIPな人達と会うので、松田さんも招待するよ。普通は中々会えない人と会えるからすごくチャンスだと思います』
うーん、怪しさが満点だ。
「私も、狭間さんの話を聞いてなかったら、喜んで行っていたと思うんです。でも……」
「そもそも、セミナーって何だろう?」
「私も聞いてないです。午後6時にビジネスビルの貸し会議室であるみたいです」
怪しさ満点だけど、入り込まないと内情が分からない。危険と判断したら逃げればいい。
「そのセミナーに俺も参加できないかな?」
「多分、大丈夫と思います。友達も連れておいでって言われてたし」
松田さんが危険に晒されるような事は避ける。少しでも危ないと思ったら逃げる。そんな事を始めにお互い確認しあって、俺達はそのセミナーに参加する事にした。
*
後日、セミナー会場。外からは普通のオフィスビルに見える。熊本市内の普通のビル。
熊本は、少し特徴的な街だ。東京で言えば東京駅、大阪で言えば大阪駅と言えば、一番の栄えたところにある駅だ。
熊本の場合、一番栄えているのはお城の周辺。熊本駅とは川を挟んで離れた位置にある。
地元の人間は熊本駅より、城に近いバスセンターの方が馴染みがある。
今回のセミナーもそのバスセンター付近のオフィスビル。人が集まるところを把握しているようだ。
俺は松田さんと事前にバスセンターで落ち合い、ビルに向かっていた。
松田さんは髪を後ろで結んでメガネにマスク。オフの日の芸能人の様だ。彼女は所作が美しいので、顔をマスクで隠しても彼女だと分かる。
ただ、曲がり角を90度で曲がるみたいな、少し行き過ぎた正しさ。少し気にかかる感じの……同じ所作の美しさという意味では、東ヶ崎さんが素晴らしい。
全然鼻につかないし、自然と動きが美しいのだ。つい、目で追ってしまう時があるけど、さやかさんに見つかるとやきもちを妬かれるので抑えるのが大変なのだ。
さやかさんも所作が美しいので、彼女の動きもつい見てしまう。そんな「上位互換」二人を日頃から見ているので、俺には響かないけれど、日常に松田さんがいたら男性は気になるだろう。
何より、美人だし。
俺は、髪をジェルでカチカチに固め、丸メガネ(伊達めがね)にマスクをした。服はスーツなので普段の俺を知っていても、まずバレないだろう。
ビジネスビルに入ると、入り口のモニターに表示があった。
『5階 501号室 株式会社ハッピーネクストライフ 勉強会』
「あれです」
彼女が指を差した。
何となく、独特の雰囲気を持った感じ。
5階に上がると、入口前の受付では男性二人が長机にパイプ椅子で座っている。
松田さんが、受付で名前を言うと彼女の名前は「紹介者」の欄にあり、その横の「被紹介者」の欄は空欄になっていた。
「お名前とケータイの番号をお願いします」
受付男性に言われ、しょうがなく「田中」と、偽名を書いた。ケータイ番号は下2桁を俺のとは違う番号にして書いた。
「どうぞ」
と言われて会場に入る。
受付の長机には、四角い缶が置いてあり、入場料を徴収しているようだった。
俺は「被紹介者」だから無料なのか? それとも、松田さんが事前に二人分払ってくれていたのか?
会場には、約100人くらいの人が長机の席に付いていた。1つの長テーブルに2人か、3人ずつ。俺は、当然松田さんと同じテーブルの席に付いた。
「何が始まるんですか?」
横の松田さんに小声で聞いてみたけど、彼女もオロオロしていた。
「すいません、私も分からないんです」
予定時刻になると、出入り口が閉められ、音楽とともに1人の男が入室した。
長谷川氏だ。
高そうなスーツを着て、何だかこざっぱりしている。
「それでは、最速でキングになられた長谷川さんからレクチャーしていただきます」
司会の男性が言った。さっきの受付の男性2人のうちの1人だ。
嫌な予感はしつつ、俺は彼が何をレクチャーするのか、見ることにした。
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