第151話:イベントの効果とは


「狭間さん、もう、ボクは訳が分からないよ」


「どうしたエルフ?」


「イベント終わって翌日だけど、登録者数が72万人になってるんだけど……」



 リビングでエルフが嘆いていた。



「いいことだろ」


「そうだけど、ボク、半年も続けて200人行かなかったのに、ここ最近の増え率みたら……」


「まあ、人生そんなもんだ。一様に良くなっていったりしないんだ。ある時まで成果はゼロに見えるかもしれないけど、ある時を境にぐっと結果が出たりな」


「正直、ボクちゃんとしたから登録者が増えたんじゃなくて、登録者が増えて来たからちゃんと挨拶考えたり、設定考えたりしてるんだけど……」


「そういう幸運なヤツはそうそういないから。その幸運に気づいたときに、そこに胡坐をかくのか、頑張るのかでその後が決まるんだよ」



 エルフは難しい顔をしていた。彼女の人生経験では腑に落ちるほどには至らなかったのかもしれない。


 俺としては、彼女は苦しみながらも頑張っている様に見えるから、そのままでいいと思うけどな。



「今日もまた『朝市』に行くの?」


「そうだな。昨日の反省会をしないとだから」


「反省会? 成功って言ってくれたじゃない」


「お前の配信は大成功だと思う。あれ以上はなかっただろ」


「じゃあ……」


「店としては、1000人如きのお客さんを捌ききれなかったんだ。次回以降のことを考えると、2000とか3000でも対応できるように話しておかないとな」


「次回……」



 エルフの顔は少しワクワクしていた。



「でも、よくあんな企画をすぐ即席で思いついたね」



 公開配信や、競りの企画は実は俺が考えた。


 海外ではVtuberはラジオの配信者と同じような扱いなのだとか。「聞く」ものらしい。


 海外が何でも正しいとは思わないし、Vtuberは日本の物だと思うので、日本の解釈があっていいと思う。


 ただ、ラジオと捉えている人がいるということ。じゃあ、ラジオのイベントみたいに公開放送があっても面白いんじゃないかと思ったのだ。


 あとは、エルフはVtuberらしからぬ事で、歌もゲームもしない。だから、間が持たないと思ったのだ。


 どうせなら、「朝市」の宣伝も兼ねて競りをしたり、メニュー紹介をしたらお客さんも楽しんでくれるだろう、と。


 エルフ一人じゃなくて、みんなで楽しんでもらうことでエルフは活き活きできると思ったのだ。



「へー、ラジオの……」



 俺が考えていることを伝えるとエルフは感心していた。


 それでも、日ごろから「朝市」のメンバーと仲良くしていたから実現したこと。周囲の力は借りたけれど、彼女の力も大きいのだ。そして、みんなそれを認めている。



「歴史とか、昔のことを勉強するのって無駄と思ってたけど、役に立つこともあるんだね」


「人間はぶっつけ本番だとよく失敗するから、過去の成功と失敗を見ることは大事だよ」


「そっか……」



 ちょっと何か考えこんだエルフの顔が印象的だった。



 ***



「朝市」では、例によってイベントを開催中だ。


 昨日と違って1000人もお客さんが押し寄せている訳じゃないけど、どういう訳か200人くらいがステージ前にいた。


 昨日きたから、今日も来てみた人か、それとも昨日の配信を見て新たに来てくれた人か……


 昨日1000人を何とか捌いたメンバーなので、200人くらいは何とでもできた。大がかりなイベントもないし。


 俺は控室で、領家くんと昨日の反省会をしていた。



「反省点は以上です。反省すべき点はありましたけど、エルフちゃんの活躍で『朝市』は更に上のステージが見えて来たし、目指せることも分かってきました」



 確かに、休みの日には1万人もお客さんが来ているんだ。野菜直売所としては、全国的に見ても成功している方だと言える。


 それでも、イートインスペースが溢れてしまう程、人が集まるなんて。「屋台」の食事は手に持って食べられたり、軽食なので食事にそんなに時間がかからない。


 イートインコーナーの回転率はかなり高いのだ。


 それに対して、昨日のイベントはステージ前に常に1000人以上のお客さんがいて、その上さらに通常のお客さんが出入りしていたので、すぐにキャパをオーバーしてしまった。


 対策としては、イートインコーナーのスペースを広げることと、ステージを大きくして大画面を設置すること。ちょっとしたアイドルのライブくらいができるようにするとか……


 そうなると、また増築が必要だし、表の駐車場を潰すわけにはいかないので、裏のキャンピングカーエリアを狭めて増築……いずれにしても大掛かりになるので、さやかさんに相談が必要そうだ。



「あと、話しは変わるんですけど、『朝市』のWEBサイトの方にこんなメールが届いていて……」



 クレームかな? すごく混雑していたし……



『今日のイベント見ました。配信者の方は、九重エルフさんじゃないでしょうか?私は、クラスメイトの天王寺てんのうじ香織かおりといいます。彼女と連絡が取れなくなって心配しています。ぜひ彼女に伝えてください』


「これは……」



 エルフとクラスメイトとの関係が分からないので、何とも言えない文章だ。


 帰ってから、それとなく「天王寺香織」さんの名前を出してみたけど、エルフの微妙な顔からは、ほとんど読み取れることはなかった。


 分かったことと言えば、あまり積極的に会いたい訳じゃないことくらいだろうか。

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