第149話:「朝市」イベントのトラブルとは

 今日は「朝市」での3回目のイベントの日。俺達は朝からトラブルに見舞われていた。


 朝からイートインコーナーが満席なのだ。その数、およそ1000人。


 そんな大規模を想定していないので、一度に1000人の人が楽しめる様なキャパではないのだ。


 イートインコーナーで立ち見がいる上に会場に入りきれてない。


 しかも、でかいレンズのカメラの部隊もいていつもの「朝市」の雰囲気とは全く違っていた。


 何、あのレンズ? 月のクレーターでも撮るの!?


 満席だけど、不思議と統率が取れていて、みんなきれいに整列している。整理の人間も必要ない程だ。


 午前9時過ぎ、控室にいるものの、まだ光ちゃんもエルフも着替えすらしていない段階。


 会場は既に温まっていた。逆に「屋台」の準備が追いついてないくらいだ。


 仮に、いまお客さんが屋台に流れ込んだらパニックは回避できないだろう。



「せんむー、宣伝しすぎじゃねー?」


「すいません、多分、ボクです……」



 控室で、パイプ椅子に座っている冷静な光ちゃん。対象的に立ったままウロウロして落ち着かないエルフ。


 実は、今朝見たらチャンネル登録者数が23万人を超えていた。


 その事実に気づいて以来、エルフはずっと落ち着かない様子だった。


 この二人対象的すぎて面白い。


 いや、楽しんでいる場合じゃなかった。



「予定を少し変えよう」


「今から変更っスかー? せんむー、キチクっスねー」



 俺の提案に、キシシと半笑いで対応する光ちゃん。彼女は本当にキモが座っている。



「スタートはできるだけ早めよう。パニックは回避したいし、他の店への影響も考えたい」



 飲食店は別の建屋だけど、お客さんが多すぎても、少なすぎても困る。



「何するんスかー? 今から企画っスかー?」



 確かに、光ちゃんの言う通りだ。今考えて、1000人を楽しませるイベント……しかも、パニックを起こさないような……欲を言えば、各店の売上につながる様な……


 俺はコンサルだった。お客さんのニーズを捉えてサービスを提供するのが俺の仕事。



「よし、準備は俺がやるから、二人は着替えて! ゆっくり慌てなくていいから」



 ◇◇◇



 俺は、控室を出て領家くんに会った。



「狭間専務、すごい人ですね!」


「どうも、エルフの動画登録者さんらしい」


「彼女すごいですね! ここまでとは……」


「前倒しでイベントをしたいんだけど、手伝ってくれるかな?」


「もちろんです! 何したらいいですか!?」



 ◇◇◇



 俺達は、必要なものを「朝市」内で調達して会場には長テーブルをセットした。


 軽快な音楽が流れ出すと、群衆は一気にステージの上を見た。


 そして、音楽に合わせて光ちゃんかステージに上がった。



(わーーーーーー!)



 会場が一気に湧いた。あと一時間以上待つと思っていたのに、ステージに女の子が出てきたのだ。


 何か分からないけど、とりあえず盛り上がっておこうという人だろう。



「こんにちはー! いっぱい人が来てくれたから、予定を早めてイベント開始しちゃうよー!」


(わーーーーー!)


「あ、ちなみに私はエルフちゃんじゃないからー。間違えて撮影したらメモリーが無駄になるよー」


(わはははは)



 さすが光ちゃん。1000人いても安定のMCぶり。



「今日はいっぱいいるから、先に注意事項のお知らせをしとくねー。その後、お待ちかねのエルフちゃんが出てくるからねー」


(うおーーーーー!)


「まずは、プログラムを言っとくねー。最初はエルフちゃんの挨拶とかオープニングねー」


(うおーーー!)



 もう、何でもいいんだろ!



「次が、公開配信ね。Vチューバーの公開配信って私聞いたことないんだけど……」


(あはははは)


「その後、エルフちんとみんなでゲームをするよ!」


(うおーーーーー!)



 その後も、何をやるか事前に告知した。内容は大画面に表示しているのだけど、1000人みんなが見れる程大きな画面じゃないから、光ちゃんの話の分かりやすさが頼りだった。


 その後、注意事項が案内され、ついにエルフがステージ登場する運びになった。



「はい、エルフたん登場ーーーーーっスーーーーー!」


(うおーーーーー!!!)



 会場は既に温まっている。今がステージ登場の最高のタイミングだ。


 ……それなのに。


 音楽は収まったのに、エルフが出てこない。



「あれ? エルフたん出てこないとおねーさん困っちゃうっスよー」



 笑顔だけど割とガチに困り始めている光ちゃんだった。


 どうしたどうした、エルフ。そこらの落とし穴にでも落ちたのか⁉ 俺は急いで控室に走ることになった。

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