第146話:「朝市」の新しい店舗候補とは
「1つのお店はこれがいいです!」
さやかさんがリストの中から指を指したのは……
『メイド喫茶』
「……」
正直、なんて言ったらいいのか……東京でも秋葉原で乱立していたメイド喫茶もいくつかの定番店を残して落ち着いた感じだし、福岡に至ってはメイド喫茶自体が数店舗しか残ってない。
今から新しい店舗を構えてしまっていいのだろうか。
割とリスクの方が多そうなんだけど……
「福岡ではメイド喫茶の文化がそれほど根付いていないことは理解しています」
さやかさんが、補足で話し始めた。
「エンターテイメントという部分と歌とダンスの部分はアイドルの活動と共通するものがあります。先日の芸能事務所で松田さんから聞いたアルバイト先の一つになればと思って」
確かに、言っていることは分かる。でも、ニーズがないと店としては成立しない。
「メイド喫茶については、導入期、成長期、を過ぎて現在では成熟期の後半か、衰退期に入っていると思っています」
新しいビジネスには、ライフサイクルがあって「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」の4つのフェーズに分かれている。成熟期の後に「飽和期」が入る場合もある。
「『メイド喫茶』というコンテンツは既に世の中に知れ渡っている上に、サービスの内容もある程度定まっています。それだと、年配の方に好まれるものではないでしょうか」
そうか。「朝市」のお客さんの平均年齢は高い。若者には今更感のあるメイド喫茶も、年配者にとっては新しいコンテンツということも……
「キッチンスタジオでテレビ関係者とコネクションを作っておいて、そのすぐ下でタレントのたまごが働いている……それはいい関係かも知れないですね。ただ……」
「不安ですか?」
「はい」
「失敗したら、他のお店に変えればいいんです。これだけ出店希望があれば何とでもなります」
そうか。新しいことを始める時、常に失敗を考える。いつの間にか「始めない理由」を考えるようになってしまうんだ。
お金の事とか、人のことを考えると、失敗は怖いけど、始めないと成功は絶対にない。
幸いさやかさんの家と会社はお金持ちだ。店一つの失敗くらいならば経済的に傾いたりしない。しかも、「朝市」でならほとんど被害はないんだ。
本来なら、マーケティングなどをしてお客さんからのニーズなどを調査してからのスタートだろうけど、この場合他の店と全く色が違うから調査結果は全く意味をなさない。
挑戦として、やってみる価値はあるかもしれない。
「やってみますか」
「はい!」
さやかさんが嬉しそうに答えた。
「じゃあ、領家くんスタジオの件、お願いしていいですか? 相手方の担当者様には一度ご挨拶に伺いたいので取り次いでもらえると助かります」
「分かりました」
「店舗分の増設はこちらで手配しておきます。工期が決まったらお知らせしますね」
「はい、お願いします」
後は事務的な話で会議は終わったのだけど、何故かエルフがそわそわしていた。
トイレかな?
***
「狭間さん、ボク、今日のお店で働いたらだめかな?」
帰りの車の中でエルフが訊いた。
「今日のお店って、メイド喫茶?」
「うん……」
「それは構わないけど、どうした?」
「うん……ボクも働きたいなって……」
「お前は地元に学校があるだろ? それはどうするんだ?」
「……ボクはどうしたいんだろう…」
「帰ってから話すか」
「うん……」
その後エルフは、窓の外をずっと眺めていた。
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