第142話:登録者数爆発とは


「うわーーーー! 何だこれ!?」



 夕飯の後、リビングのローテーブルの方でノートPCを触っていたエルフが叫んだ。



「どうした?」



 俺とさやかさんは、食後のコーヒーを上のテーブルの方で飲んていた。



「登録者数が2万人超えてる!」



 2万人が多いのか少ないのかは分からないけど、数だけ聞いたらすごく多い。それがどうしたというのだろうか。



「何で!? 何で!? 何で!? ボク何かやった!?」



 エルフがすごく慌てていた。



「大丈夫か?」



 気になってローテーブルのエルフの方に移動してみた。



「ボクの登録者さんはいいとこ4000人くらいだったんだ。それが今見たら……2万人を超えてて……」


「悪い事なのか?」


「いや、良い事だけど……半年かけて200人行かなかったのに、2万人って……」



 エルフがポチポチやって何かを調べている。調べて分かるものなのか?



「あっ!」



 今度はどうした!?



「切り抜きが!」


「切り抜き?」


「えーっと、切り抜きってのは、ボクの配信の面白いところだけを編集した動画の事……」



 知らない言葉が次々出てくるな。


 その内容を見ると、エルフが一時的に福岡に身を寄せている事がエルフの声によって告白されていた。


 しかも、例の黒髪のアバターが動きながら喋っていた。



「これって、この間、お前の部屋で話してくれた内容じゃ……」


「ダメだったみたい……」


「ん?」


「あの時、間違えて配信ボタンを押しちゃってたみたいで」



 どこかから情報が漏れていたんじゃなくて、自ら漏らしていたとは……



「あ、まとめサイトまでできてる……」



 まとめサイトは、分かる。まとめたサイトだろ?



『毒舌JKのVtuber出現

 半年で毒舌キャラ崩壊リスナーに悩みを告白

 配信切り忘れで実はいいとこの子と判明

 姉の事を「お姉様」と呼んでいる

 何かのイベントに出てる

 バックにプロデューサーがいる

 福岡の野菜直売所のイベントと判明

 金髪ロリで見た目がエルフと判明

 リアルJKと判明

 お前ら100人がイベントに押し寄せ軽くパニック←イマココ』



「「……」」


 俺達は言葉を失った。



「ちよいちょい違うけど、大筋バレてるな」


「……ごめんなさい」


「いや、俺はいいけどお前だろ、困るのは。『朝市』のイベントはしばらく控えとくか」


「いや、ボクの『役目』だから……」



「ちょっと部屋に行って配信してくる……」



 エルフがふらふらしながら部屋に戻って行った。大丈夫か、あれ。



 ***



 ボク、九重エルフは今まさに手が震えている。いつも大体、夜の9時頃配信をスタートする。


 今が、8時45分。概ねいつも通り。


 予約配信の設定をしたら、待機所に人がどんどん集まってきた。


 オープニング動画なんて作る知識もないので、画像だけの待機所。そこに1000人、2000人とどんどん人が集まってくる。



「ちょ! ちょっと! どんだけ集まってくんだよ!」



 待機所に4000人以上集まったところで予定の時間になった。



「あわわわわ……」


『エルフたんがバグった!』

『ビビってる!?』

『ガンバレー!』

『ファイトー!』


「何だよ、お前ら! ……どんだけいるんだよ!?」


『声が震えてる!? ヤバい可愛い!』

『おまいら、やめて差し上げろ』

『エルフたんエルフたん』


「えーと……」


『ここは始まりの挨拶とかないのか!?』

『待機所の挨拶もない』

『いつもグダクダwww』


「挨拶? こんばんわとか?」


『普通すぎて草』

『素人で草』

『ちなみに終わりの挨拶もない模様w』

『何となく始まって何となく終わるスタイルwww』


「何だよ、終わりの時は『今日は終わり』って言ってるだろ」


『挨拶とは!?』

『ちなみにファンネームも無い模様』


「ファンネーム? ファンネームって何?」



 メッセージがいつもよりどんどん流れて行って、目で追うだけでも大変になってきた。



『俺らの総称』

『ファンの呼び方』

『ファンネームも知らなくて草』

『まさに異世界から来たエルフ!』


「『お前ら』じゃダメなの? 他の人はどんなのがあるの?」


『始まった! 相談スタイル!』

『毒舌キャラはどこに行った!?』

『○○とも』

『○○さー』

『○○部』

『野うさぎ』

『騎士団』

『一味』


「ちょっ! ちょっ! そんなに色々あるの!? えー? 何がいいのかな?」


『すいませーん! こいつ今決めようとしてますよー!』

『今考えるスタイルwww』

『エルフのとこだからエルフの森の住人では!?』

『あ、いいかも』


「住人? ボクが居候なんだけど……」


『個人情報漏れまくりで草』

『ヤバイよヤバイよヤバイよ』


「しまった! じゅ、住人で! これからはお前らを住人って呼ぶから!」


『ワイ先住民! 尚、エルフたんの弁当は食べた模様』

『何弁当?』

『エルフたん弁当作ってんの?』


 えー? 何言ってんのこの人!?

 変な人かな? 思い込みが激しいみたいな。



『野菜直売所のイベント行った!』

『ワイも! 生エルフたん見た!』

『妖精!』



 わわわっ! 『朝市』の事か!



『それがボクかは分からないだろ! 別の人かもしれないだろ!』


『声が同じ!』

『喋りも同じ!』

『1人称「ボク」』


「そんな人いくらでも、い、いるだろ! 第一、あのお弁当は農家さんが作ったもんでボクは作ってないし!」


『あの弁当? もう白状したってこと!?』

『ちょっろ!』



「違うから! 絶対違うから! 今日の配信終わり―っ!」



 ボクは慌てて配信を終えたのだけど、これは正解だったのか⁉


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