第140話:エルフがVチューバーだったとは


「これがプログラムで……」


「おお! キャラクターが映った!」

「可愛い!」

「あら、黒髪」



 俺達はエルフの部屋で、彼女が半年以上取り組んでいるというVtuberの配信設備を見せてもらうことにした。


 さやかさんも東ヶ崎さんも興味津々。



「このソフトをこうして……」



 手慣れた感じてセッティングされていった。



「あ! 動いた!」


「すごい!」



 カメラの前でエルフが動くと、画面上のキャラクター、アバターと言うのか、が動き始めた。


 あたかもエルフが動いてしゃべっているかのように動いていた。



「えー、エルフこんな事できんの!?」


「すごいじゃない! エルフちゃん!」


「いや、これはlive2……そういう専用のプログラムがあって……」



 なんか、俺達に分かりやすく噛み砕いて説明してくれてる。色々聞かれてエルフも満更じゃないみたい。



「配信は? 配信はどうやるの?」


「えっと……このボタンを押して……あ、今は押したら配信が始まっちゃうから」


「あ、そうか」



 ボタン一つでスタートするとか便利だな。ただ、便利の反対側に誤動作とかありそうだなぁ。



「このアバターってやつはエルフが描いたのか?」


「いや、色々選んでキャラデザできて、それをコピペしただけ」



 なんか俺の全く知らない世界。



「エルフ色々知っててすごいな!」


「ホント! こんな事できるなんて知らなかった!」


「こんなの、誰でもできるから! ボクもネットの情報みて真似しただけだから!」



 みんなで褒めたら照れたのか、エルフが画面をポチポチ押していく。


 分かりやすいな。



「でも、このアバターって黒髪だし、エルフちゃんには似てないわね」



 東ヶ崎さんが言ってしまった。


 黒髪で肩までのセミロング。生徒手帳に理想の髪型が書かれているとしたら、これだと思うくらい面白くない髪型。


 おかっぱ頭なんだけど、おしゃれなおかっぱではなく、どちらかというと面白くないおかっぱ。


 顔も実際のエルフの方が可愛い。普通、こういうアバターとかって自分の理想が漏れ出て実際の本人より可愛いもんじゃないのか?



「ボクは……この髪がコンプレックスだから……みんなと色が違うし……クラスでもあんまり話しかけられないって言うか、少し離れて観察してる感じで……」


「その金髪はきれいだと思うぞ?」


「はい、私もそう思いましたよ!」


「私もきれいだと思います」



 さやかさんも東ヶ崎さんも同じ意見だった。



「でも……学校では……」



 あまり喜ばれて無いって事か。



「いじめられてるのか? 上靴隠されたり?」


「そんなのされる訳ないだろ。 ただ、誰も寄ってこないだけだよ」


「寄って来ないのか」


「うん、何人かで集まって、こっちをチラチラ見てボクのことを笑ってるんだ……」



 そうなのか。それにしても、「お上品」ないじめだな。俺とは学校の質が違うって事だろうか。


 あんまり暗い話題ばかりじゃ、エルフも気が滅入るだろう。


 さっき喜んでたアバターの話に戻そう。



「ところでさ、このアバターはエルフに似せることはできないのか?」


「え!? なんで!? ボク嫌だよ」


「嫌ならしょうがないけど、本物の方が可愛いってあんまないんじゃないか?」


「へっ、変な事言うなよ! アバター可愛いだろ! 一生懸命作ったんだから!」


「私も、本物のエルフちゃんの方が好きかなぁ」


「さやか様まで!」



 さやかさんもエルフとアバターを見比べながら言った。



「私もエルフちゃんの方が好きですね。特に髪が金髪なのがきれいだと思うのですが……」


「お姉様まで!」



 東ヶ崎さんもそう思うらしい。


 だって、アバターの女の子は、特徴がないというか、特徴という特徴を潰しまくった女の子。



「ボクはこれがいいんです! これでいいんです!」



 まあ、本人が良いって言うなら良いけどさ。



「でも、『朝市』でのイベントはいつものエルフで頼むよ。その方が注目度が高いし、商品も売れてオーナーさん達が喜ぶ」


「……まあ、いいけど」



 金髪にコンプレックスを持っているのに、ここは嫌がらないんだ。



「イベントでは大丈夫な感じ?」


「だって、福岡ではボクのことを知ってる人はさやか様とお姉様と狭間さんとかこの家の人ばかりだから」


「まあな。みんなお前の味方だな」


「……うん」



 エルフが少し俯いて赤くなってる。



「何照れてるんだよ。みんなお前の事好きだから、ここではその金髪を隠したりするな」


「……うん。分かった……」


「じゃあ、明日もイベント行ってみるか!」


「別に良いけど……」


「また明日、同時に新しい屋台が3軒出店するんだよ。できれば応援したい。光ちゃんには準備してもらってるから、エルフも飛び入りで頼むよ」


「ボクは商品を持ったり、手渡したりするだけだよ」


「それで十分だ」


「狭間さん、明日もイベントなんですね。私も行こうかな。最近、『朝市』にあんまり行けてないし」



 さやかさんが嬉しそうに言った。



「東ヶ崎さん、授業の方は大丈夫なんですか?」


「出席率は常にチェックしてます。明日ならば余裕と思います」




 二人とも優秀だから、授業は自主休講にしても大丈夫なんだ。俺の高校時代とはえらい違いだ。



「え? さやか様とお姉様も来てくださるんですか!?」


「はい、行きますよ」

「私も当然伺います」



 エルフの顔が笑顔で輝いた。


 初めて授業参観に親が来る事にななった子供か!


 でも、まあ、本人が喜んでいるからいいか。



「ところで、エルフ……」


「何? 狭間さん」


「この画面に文字がどんどん流れて行ってるのはプログラムか何かか?」


「え!? なに!? どれ!?」



 エルフが慌てて画面を見る。



「わっ! ちょっ! 配信になってる! 」



(ガチャガチャガチャ)



 エルフが慌ててた。



「大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫! ちょっとだけだったし!」



 大丈夫だったらしい。それならよかった。


 人は重要なミスをした時、何故か希望的観測を口にする。そして、俺が現実であって欲しいと自分自身をも何とか騙そうとする。


 俺はなぜ今そんなことを思いついたのか。気のせいだな。気のせい気のせい。



「今日は配信しないのか? みんなで見たいんだけど……」


「きょっ、今日は配信しない日なんだよ! また今度!」



 Vtuberというものと、配信の機器を見たので、何となく安心して俺たちはエルフの部屋を後にした。翌日、何が起こるのか全く予想すらせずに。

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