第139話:エルフの悩みの告白とは


「うーん……よく分からない」


「どうしたどうした。悩んでんだろう?」


「うん……でも、何から言ったらいいのか……」


「カッコよく言わなくていいんだよ。いま、一番恐れてることは何だ?」


「一番……お姉様にがっかりされること……そうなったら多分ボク……ボク……」



 既に泣きそうになってる。



「ばか。東ヶ崎さんはそんなに薄情じゃないよ。めちゃくちゃ情に厚いよ。分かんないけど、俺よりお前の方が知ってるだろ?」


「でも……」



 ダメだ。何かが欠落してる。


 俺は東ヶ崎さんの腕を掴んでエルフの所まで連れてきた。



「え? え? 何ですか? 狭間さん、何ですか!?」



 東ヶ崎さんはとても不安そうだった。それでも、エルフの所まで連れてきたら、何も言わなくても理解してくれたみたいだ。


 東ヶ崎さんは、エルフを優しく抱きしめてくれた。



「いーなぁ、エルフ。それでもまだ東ヶ崎さんが信じられないか?」


(ふるふるふる)



 言葉は既に出ないみたいだけど、首を全力で左右に降って否定しているようだ。


 ただ、その顔は東ヶ崎さんの胸に埋まっていて表情は見えない。



「足りないなら、さやかさんもいるか!?」



 同じように、さやかさんも腕を掴んで連れてきていた。



「あのっ…狭間さん!? 何ですか!? 何ですか!?」


(ふるふるふる)



 エルフは、東ヶ崎さんの胸の中で全力で否定しているようだ。もう十分ってことでしょ!?


 せっかく、さやかさんも導入しようとハトと遊んでいるのを連れてきたのに。これでは、ハトにも、さやかさんも申し訳ない。


 俺は無言でさやかさんを抱きしめた。



「はざっ……」



 さやかさんが静かになった。そして固まった。相変わらず、防御力ゼロだった。


 抱きしめられたさやかさんは、ハトの餌の袋を上下逆さまにしてしまい、手に持った袋からエサがこぼれ落ちている。


 ハトはすかさずそのエサを食べに集まっている。さやかさんは、真っ赤になって固まったままで、手に持った袋からはエサがこぼれ続け、ハトは次々集まってきている。



(くるっぽくるっぽ)



「あは……はは……あははははは」



 珍しくエルフが笑う声だった。何だか、全てを忘れて本当に楽しんでいる笑い声。



「エルフもこっち来い」


「……」



 何にも言わないけど、少しずつこちらに向かってきた。俺の射程距離に入ったら、抱き寄せて、さやかさんと一緒に抱きしめた。


 その小さな身体は抵抗せず、俺に抱きしめられていた。


 右手にさやかさん。左手にエルフ。両手に花とはまさにこの事。なんだか、やわらかいし、いい匂いもする。


 ふと見ると、東ヶ崎さんが少し寂しそうな表情でこちらを見ている。


 きっと仲間に入りたいのだろう。


 俺は、右手と左手の隙間、つまり、真正面を少し空けた。


 控え目に東ヶ崎さんが近寄ってきたので、真ん中に仲間に入れて、4人抱き合うような形になった。



「エルフ、みんなお前の味方だから。何やったとしてもお前の味方だから、話してみ」


「うん…うん…」



 話し始めたエルフは既に泣いていた。



「なんだ、お前、泣いてんのか」


「ばか! そんなわけ無いだろ!」(ぐずっ、うっく)


「お前は抱き心地がいいから、もう少し抱きしめられとけ」



 もうしばらく、神社の境内で4人で抱き合っていた。周囲の人か見たら異常な光景だったかもしれない。


 でも、いいんだ。俺達には必要な時間だったんだと思う。



「狭間さん、そろそろお嬢様が限界です」


「うきゅぅ~~~」



 さやかさんが目を回していた。やっぱり、可愛いなぁ。


 とりあえず、彼女の頭を撫でておいた。



 *



「学校で友達が全然できない……ボクからも話しかけてみたけど、逃げられちゃって……ボク……こんなだし、誰とも仲良くやっていけないと思う」



 エルフが少し落ち着いて、ベンチに座って話してくれた。


 エルフが「こんな」と表現したのは、金髪の事だろうか。確かに、高校なんかでは先生たちからも良い印象は持たれないかもしれない。


 でも、彼女の金髪は地毛なのだ。


 中学、高校では、制服に始まり、髪型や上靴など個性を殺してみんな同じであることが正義であるかのように教育される。


 従来黒髪がデフォルトだったかもしれないが、国際化が進む中、赤毛や金髪などは許容されるべきなんだ。


 肌の色だって、色々あっていいはず。


 学生時代はそうやって殺し続けて来た個性は、社会に出たら武器になるのに。


 社会に出たら、みんな何とか個性を出したがって頑張る。芸能関係ならその最たるもの。


 エルフは、まだ高校生。社会人経験がない。バイトもしたことがないってことなので、尚更その間違った価値観から抜け出せないでいるのではないだろうか。


 もしかしたら、それを伝えたくて東ヶ崎さんは俺にエルフを預けて……



「エルフ、やっぱり、さっきの芸能関係やってみないか?」


「でも、ボク見られるの苦手だし……」


「それだよ。お前は可愛いし、勿体無いと思うんだ」


「そんな事言うのは狭間さんだけだよ……」



 待て。俺が口説いてるみたいになってないか!?



「さっきの、Vチューバーは?」


「あれは、ボクの見た目を気にしないし……」



 俺はその動画を見てないからなんともなぁ。



「じゃあ、その動画を見せてくれよ」


「ええっ!?」


「配信じゃなくてもいいから、絵が動くだろう?」


「アバター……」


「そう、それ! アバター見せてくれよ」


「……分かった。帰ったら」


「よし! じゃあすぐ帰ろう!」



 糸口でも掴めたら、と思って配信しているシステムとアバターを見せてもらう事になった。

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