第136話:身バレしそうとは


『登録者数4621人』



「何故だ……」



 ボクはボクが理解できない……登録者数が150人になるまでに半年以上かかったというのに、ここ数日で2000人を超えた。


 その後、何もしていないのに、今度は4600人を超えている……


 もう訳が分からない。配信を始めたけど、どうしたらいいのか。何をしゃべったらいいのか……



「何故だ!? なんか登録者数が増えてるんだけど!」


『逆切れ!? 登録者数増えてキレたwww』

『動画から来た』

『リアルエルフたんはここですか?』



 ちょっと意味が分からない。同時接続視聴者数が2000人を超えてる!



「ちょ、何で人数増えてんだよ!」


『あ、この声! マジだった!』

『可愛い声で毒を吐く。最高です。もっと毒くれ』

『いつの間にかワイ異世界にいた!』



 なんか、会話が成り立ってない。不安が増して行った。



『何でアバターはちんちくりん?』

『逆で草』

『リアルとネット逆www』



 ちょっと意味が分からない。少し怖いから早めに切り上げようと思っていたとき、気になる書き込みを見つけた。



『イベント動画のエルフと声が一緒!』


「イベント動画ってなに?」


『今www』

『そこから!?』

『本人不在でお送りしてます』



 やっぱなんの話か分からない。



『野菜直売所のイベントで見かけたエルフの声聞いてピーンときた』


 そう言ったのは、ダムダムさん。


 ダムダムさんは、割と早くからリスナーになってくれた人。まさか、「朝市」でのイベントの事がバレて!?


 いやいやいや! それはないだろ! ほとんど喋ってないし! ほとんど立ってただけだし!


 いや、最後の方はポップコーン食べながら光さんと感想を言ったりした!


 それだけで!?



「へ、へぇそんな野良エルフがいるんだぁ……」



『野良エルフwww』

『トボけた?』

『動画アップしといた。あとここへのリンクも』



 ボクのアバターは黒髪で地味め。ボクの理想の姿。誰にも注目されないし、騒がれない。これが理想。


 名前は思いつかなくて「エルフ」のままスタートしてそのままだ。


「朝市」のボクとは共通点なんか無い! ここはしらばっくれる! 知らぬ存ぜぬで押し通す!



「そんなのとボクを一緒にしないでくれる!?」


『1人称ボクで草』

『声紋で本人と特定!』

『特定班出た!』


「あー、あー、そんなの知らない! ボク東京在住だから、福岡のイベントに行ってるわけないだろ!」


『誰が福岡のイベントと言った?』

『探偵が出た!』

『ボロが出たっポイ?』

『そういえば、この間の切り忘れのときイベントに行くって言ってた!』


「あわわ……ほら、それはそれ。他のエルフかもしんないじゃないか!」


『他のエルフwww』

『いつからエルフが溢れる世界になった!?』



 ヤバい! 身バレしたらなんかヤバい!



「ボクジャナイヨ?」


『急にカタコトwww』

『次のイベントはいつ? ワイ行くわ! 生エルフたん見たい!』


「ないないない! そんなのないから! 今日の配信終わり! 終わりだから!」



 何とか逃げ切った! これで大丈夫! ……のはず。怖いからモニターの電源も切った。話題はどんどん新しくなるから、明日にはみんな忘れてるよね!?



(コンコン)


 ドアがノックされた。誰?



(ガチャ)「はい……」


「あ、夜にすまん。明日だけど……」 



 狭間さんだった。



「なに?」


「明日、福岡の芸能事務所に行くんだけど、お前も来てほしいんだ」


「芸能事務所!? 何でボクが!?」


「明日は、お前の大好きなさやか様もお姉様も行くぞ?」


「行く! ボクも行く!」


「じゃあ、可愛いかっこして来いよ? スカートかズボンな。半ズボンじゃないヤツ。あと、帽子なし」


「……分かった」



 ちょっと不満はあるけど、初めて会う人の前で帽子被ってるのは失礼って分かったし……



「お前の金髪はキレイだから誇っていいから! 隠すなよ」


「でも……分かった」


「よし、じゃあな」


「……」



 はーーーーー。また同行だ。でも、今度はさやか様も、お姉様も一緒!



「よーし、動画ってヤツを確認するか」



 モニターの電源を入れた。



「あっ!」



『あ、気づいたっぽ!』

『待ってたで』

『また切り忘れとるで』



(ガチャガチャ)「わわわ!」


 ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 今何話した!? 今何話した!? 今何話した!?



 今度こそちゃんと配信を切ったので、間違いなく切れてるはず!


 ヤバい! 同じ失敗を2度も! ちょっと本格的にヤバイかも!? いや、無名なVチューバーだし? 大丈夫だよね!?


 ボクは、何だか怖かったのでそのまま寝ることにした。

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