第133話:「朝市」の新イベントとは


「お昼時にお耳をハイシャクでーす♪」



 店内に軽快な音楽が流れ、「朝市」のイベントスペースの舞台上で光ちゃんの声がスピーカーから響く。「朝市」ではこれまでそんな放送をしたことがないので、なんだなんだと集まってきている。



「今日はこの『朝市』の『屋台』のニューカマー、新しいメニューを紹介するデスー!」



 「朝市」には光ちゃんのファンが一定数いるので、ステージ前には数人の人が集まっている。そして、大画面にも映っているので、イートインコーナーに入れば光ちゃんが見れる。


 それでも、おじいちゃん、おばあちゃんがステージ前で拍手してる。



「光さん! 可愛い―!」



 山口さん、あなたは応援してないで自分の屋台でカレーを売ってください……


 光ちゃんは緑がかったワンピースを着ている。会社で準備した衣装だ。普段の「朝市」では上だけ作業服だから、それだけで割と印象が違う。



「最初は、あるようでこれまで無かった『コーンスープ』デス!」



 紹介と共にテーブルの上に大きめの紙コップみたいな容器のコーンスープが置かれた。そして、置いたのがエルフ。


 登場と共に会場が湧いた。



『わーーーーー!』



 金髪で色白、緑っぽいワンピースを着た彼女は誰が見てもエルフだった。


 みんな写真撮ってる。


 テーブルに置かれたコーンスープは、専用のカメラで大画面に映っている。しかし、みんなが撮影しているのはエルフ。



「あー、踊り子さんを露骨に撮影しないでくださいネー」



 光ちゃんが雰囲気を壊さない様に窘める。



『エルフだ! エルフ!』

『コスプレっちゅーんか? ああいうの』

『髪、金髪じゃ! ありゃカツラか?』



「あーーー、ワタシを撮れっつってんダロ!」



 あ、光ちゃんがステージでキレた。


 会場は大爆笑。



「エルフちん、エルフちん。コーンスープ持ってもらっていースか? 顔の近くにー」



 光ちゃんに言われるまま、コーンスープを持ち、恐る恐る顔の近くに持っていくエルフ。


 エルフの顔が大画面に映りみんな注目した。



『おおーーーーーっ!』



 ひとり状況が分からず、言われた通りコーンスープを持っているエルフ。周囲が騒いでも画面は見ず自分の仕事を全うしている。



「はいーーー。こちらが、うちのエルフちんに話題を掻っ攫われたコーンスープちゃんデーース。完全にくわれてます。粒が多いだけにーーー」


『ワハハハーーーーー』



 光ちゃんはこの手の才能があるな。



「この『エルフちんにくわれたコーンスープ』は屋台6番で買えまーす。これ食べて、どんくらいエルフちんが可愛いか味わっちゃってください」


『ワハハハーーーーー』


「次の商品っスけどー……」



 一部の人は、早速6番の屋台に移動していた。


 今日デビューの屋台オーナーさんだったけど、準備していたコーンスープが完売するほどの売れ行きだった。


 大体初日は量を考えずに多めに作ってくるオーナーが多い。コーンスープもそうだった。それなのに完売。


 商品紹介の力凄いな。これは引き続きやった方がいい。それには、光ちゃんと……エルフも要るな。



 *



「お疲れっスー」

「お疲れ様でした……」



 イベントが終わって光ちゃんとエルフが控室に戻ってきた。



「せんむー、この子なんスかー?」



 気の抜けるような喋りは光ちゃんの特徴。彼女は控室のパイプ椅子にドカリと座り、脚を組んだ。彼女は元々田舎のヤンキーではないだろうか。こういう仕草が良く似合う。



「んーーー、俺の親せきみたいなもんだ」


「突然、追加とか言われたからビックリしたんスけど、注目度がパないっすねー」


「それは良い意味で?」


「もちろんっスー」



 答えた後、ペットボトルのお茶をラッパ飲みする光ちゃん。



「だってよ」


「……なんだよ。ボクは立ってただけじゃないか」


「それだけで注目されるなら、それはもう才能だろう」


「……」



 エルフは、納得いかないみたいだった。



「光ちゃんはどうだった?」


「んーーーーー、レジ打ちより好きな仕事っスね」


「あ、そうなんだ」


「レジ打ちって並ばれるとプレッシャーでハラハラするんスけど、ステージだと並ばれると嬉しいっスね」



 そんな理由かよ。



「商品の売れ行きもよかったから、またやろうかと思うけど、どうだろう?」


「ワタシは、いーっスよ。楽しいし」


「エルフ、お前は?」


「ボクは……」


「エルフたん、またやろうよー」


「だって、ボクは……」



 予定していたイベントは、予想外に大成功だった。新しく始めた人は数回出店しないとそれほど多く売れない状態だったので、起爆剤として有効だと分かった。


 続けていって効果が高いときは広告費をもらって宣伝しても面白いな。何しろ休みの日には1日で一万人はお客さんが来るんだ。



「狭間さん楽しそうですね」



 帰りの車でエルフが少し不機嫌に聞いてきた。



「そりゃ、うまく行った時は喜んどかないと! いつでもうまく行くとは限んないんだし」


「はーーーー。能天気ですね」


「かもな」


「羨ましいです。ボクもそんな風に生きられたら……」


「いいんじゃないか? そんな風に生きて」


「何言ってるんですか! ボクは皮肉で言ってるだけで!」


「あ、そうなの?」



 皮肉に聞こえなかったわ。すまん、あんまその辺よく分かんなくて。



「お前はその見た目とそのキャラがウリでいいんじゃないか?」


「……」


「金髪きれいだし、不貞腐れてなきゃもう少し可愛いと思うし」


「なっ! 誰にでもそんな事言ってるんだろ! ボクはそんなのじゃ騙されないからな!」


「服も可愛かったけどなぁ」


「それは、狭間さんの趣味だろ。ボクはスカートなんか履かないよ」


「制服は?」


「制服はしょうがないから……」



 制服はスカートなんだ。



「思ったより早く終わったから、ちょい寄り道していい?」


「ご自由に。ボクは付いて行くだけだから」



 帰りに服屋に寄って、エルフにスカートとか服買ってやるか。どうせ、こっちでの着替えとかあんまないだろうし。


 エルフの見た目とキャラは面白そうだけどなぁ。可愛くてドジっ子とかアイドルになれそうだな……


 アイドル!?


 俺の頭の中で、点と点が繋がり線になったのを感じた。

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