第132話:エルフの悩み

 この日は、「朝市」において平日なのにちょっとしたイベントをやってみようという試みだった。エルフを車に乗せて「朝市」に向かった。


 内容としてはいたって簡単だ。昼のご飯時に、「屋台」やお店のメニューを紹介するだけ。フードコートになっているところにはステージがある。そこで、音楽をかけながら食べ物を紹介して、それをステージ上の大画面に表示させる試みだ。


 買い物に来たお客さんは中々1つ1つ店を見て回らないので、人気店ばかり行列ができて新規店は客入りが良くない傾向が出てきたのだ。


 音楽と声は建物中に放送するので、ご飯を食べることが目的ではないお客さんにも興味を持ってもらえる可能性がある。


 MCとして光ちゃんを起用した。彼女は、「朝市」のアイドル的存在で本人も楽しんでいるので適任だった。



「なぁ、エルフ」


「なんですか? 狭間さん」



 移動の車中では、エルフがシートを倒して、だらーーーんと座っている。修二郎さんとか清花さんの前では絶対に見せないだらけ具合……


 だらけるのはいいけど、俺が気になっているのは……



「その帽子、好きなのか?」


「んーーー、別に好きって訳じゃないけど……」



 あの「ゆったりハンチング帽」みたいなのを被っているのだ。



「お前もしかして、髪隠してる?」


「なっ、そんな訳ないだろ!」



 服装も例の白いブラウスに紺の半ズボン……



「今日は、結構フリフリの衣装を準備したんだけど大丈夫か?」


「うん……多分」


「帽子も脱いでほしいんだけど」


「後ろの方で立ってるだけだよね?」


「たまに商品を渡すこともある」


「んー……そんくらいなら」



 しばらく無言で車は進んだ。



「お前、もしかして学校でその髪のこと言われたりしてんの?」


「!」



 何も言わなかったけれど、リアクションで大体察した。



「目立ちたくないなら金髪とかにしなきゃいいのに」


「これは染めてないんだよ!」


「……だと思った。きれいだし、自然な感じで染めたとは思えなかった」


「なっ……! わざと言わせたな」



 運転中の俺の方を向いて文句を言い始めるエルフ。



「背がちっこいこととか、金髪のこととか、ドジっ子なこととか……クラスで浮いてるんだろ」


「何だよ。誰かから聞いたのかよ」


「うんにゃ、予想」


「ふんっ」



 そっぽ向いてしまった。


 小・中・高ってなんだかんだ言って他人との違いは「悪」みたいなところがあるからな。人間なんだから、違って当たり前なのに。


 そのくせ、社会に出たら他人よりも優れている点が尊ばれる。学生時代は枷になって伸ばしてこなかった部分が、社会になって武器になる。


 俺から見たらエルフの髪とか容姿は十分武器なのに、こいつのいる世界の中では忌むべきものになってるんじゃないだろうか……



「分かってやりたいけど、お前何にも言わないから。東ヶ崎さんでも神様じゃないんだよ。お前が言わないと全部を分かってやることなんて誰にもできないぞ?」


「……」


「人間にHDMI端子が実装されるのは、まだまだ先の話だ」


「ばっかじゃねーの!?」



 会話の糸口がない。



「俺、小学校の時、背の順で並んだら列で一番前だったんだぞ?」


「嘘!?」


「中学の時に1年で身長が15センチ伸びたんだ」


「……」


「だから、小学校の時はケンカケンカでさ」


「ボクはそんなの……できないよ」(ボソッ)



 俺が勝手に思ってるだけだけど、やっぱりエルフは容姿と言動からクラスで浮いてるんじゃないかな。友達もできなくて……



「学校つまんないんじゃないか?」


「どうだっていいだろ。狭間さんには関係ないし」


「そんなこと言うなよ。一緒に飯食った仲だろ? 俺も一緒に考えてやるから」


「……」


「お前が一人でどうしようもないことだったんだろ? 俺も役に立たないかもしれんけど」


「最初からダメ宣言かよ……」


「東ヶ崎さんもいるし、さやかさんだっているんだ。一緒に考えて、それでもどうしようもない時は、逃げよう! みんなで」


「そんなのダメだよ! ボクは頑張って役に立たないといけないから……」


「それは、チルドレンだから?」


「……うん」


「お前がどんな分野で頑張ろうとしてるのか知らないけどさ、それは他に人に任せて良いんじゃないか?」


「……」


「お前は、お前が得意なところで頑張ったらいいだろ」


「ボク……得意なことない」


「じゃあ、それを一緒に探そう」


「そんなこと言っても、簡単に見つかる訳ないし……」


「だろうな。だから、色々試してみて良いんじゃないか? そんで見つからなくて当たり前なんだから、気軽にトライしたらいいだろう」


「そんなのいい訳ないよ!」


「誰がダメって言うんだよ」


「……」


「まあ、今日はアシスタントにトライだ」


「そんなの体よくボクを使ってるだけじゃないか……」


「お! よく分かってる! 賢い!」


「……」



 「朝市」に着くまで、エルフは不満そうにしていた。

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