第131話:狭間の魅力とは


「狭間くんは、エルフにも好かれているのね」



 食後、引き続き下のテーブルでコーヒーを飲んでいたら、さやかママに言われた。ちなみに、エルフは自分の部屋に引っ込んでしまった。


 東ヶ崎さんは、みんなにコーヒーを出してくれている。



「俺、あいつに好かれてるんですか?」



 とてもそうは思えないんだけど……



「私からしたら、あの子は『はい』とか『はぁ』とかしか言わない、少し引っ込み思案な印象の子だったのだけど、食事の時はあなたにだけ遠慮がないというか、本音で接してるみたいだったわ」


「そうなんですかねぇ」



 そうだとしたら、親に対して恐縮しすぎているのか……チルドレンだし、髪の色から見ても彼女は養女だろう。そういった意味で、さやかパパ・ママに必要以上に恐縮しているのかもしれない。


 社会人だったら「飲みニケーション」という昭和の秘策もあるけれど、令和の世の中では逆効果とも言われているし、何よりエルフは二十歳未満だからお酒が飲めない。



「あいつ、何が嫌で逃げて来たんでしょうね? 東ヶ崎さんに相談に来たって言ってたけど、ちゃんと話せたのか……」


「東ヶ崎はかなり優秀だから、この場合エルフの相談に乗るのには適していないかもしれないわね」


「恐縮です」



 東ヶ崎さんはいつもこういう時出しゃばらない。人間ができている。



「優秀過ぎて、何に困っているのか分からないみたいな感じですか?」


「そうね」



 コーヒーを一口飲んだ。



「狭間さん、何でもいいですけど、いつの間にかママとも仲良しですね」


「え? いや、元々嫌っている訳でもないですし……」



 さやかさんの質問に素で答えた。


 以前俺が話した「味噌汁の話」で、さやかママが受け止めてくれるって言ってくれて以来、勝手に親しみを持ってる。



「狭間くんは、いいわね。自然体でいつも人に好かれていく」


「そうなんですかねぇ。ありがとうございます」


「狭間くん、ハニーはあげないからね!」



 修二郎さん……そんなことは全然考えてませんから……



「ところで、東ヶ崎さん。俺がエルフを連れて回ってるのってどんな意味があるんですか? そろそろ教えてくださいよ」


「失礼しました。そうですね」



 東ヶ崎さんがテーブルに来て席についた。



「エルフちゃんには狭間さんの真似をしてもらおうかと」


「どういうことですか?」


「あの子、どっちかって言うと人見知りで、あまり周囲と関わらない感じなんです」


「そうなんですか……」



 めちゃくちゃ絡んで来るんだけど……



「どうしたら人と仲良くなれて、人に好かれるのか勉強になればって思ってました」


「すいません。何の仕込みもしてないので何も見れてないと思います……」


「いえ、狭間さんの場合、そのままが一番だと思いますし」



 ヤバいな。今日とか、ホテルの厨房に行ったときとか、厨房に残して行っちゃったし。なんか、プリン食べてたみたいだし。


 俺、何も伝えてないわ……


 説明会から帰ってきたら、何かお菓子いっぱい持ってたけど、あれは何だったのか……


 まあ、エルフもこのままでいいとは思ってないから、ちょっと話でも聞きにいくか。



 ■エルフ@自室



 ボク、九重エルフは、今日もVチューバーの配信をしていた。


 そして、目の前の驚愕な事実にどう対応していいのか困惑していた。



『チャンネル登録者数2067人』



 昨日まで142人以下だったはず! 何があった!?


 訳が分からずオロオロしてしまった。訳が分からずブラウザを立ち上げたり、ニュースサイトを見たりしていたら、動画配信ページのコメント欄に気になる書き込みを見つけた。



『毒舌キャラがツンデレに変わる瞬間www 切り抜いたわwww』

『炎上キャラじゃないの!? 特に炎上してないけど』

『それは単に口が悪い子ではwww』

『ただただ可愛いエルフたん』



「切り抜き……?」



 慌てて検索してみる。



『毒舌エルフたんがデレた瞬間』



 これ……なのか!? デレてないけど!


 先日、初めてリスナーさんの名前を読み上げた日。ついうっかり、リスナーさんに相談事をしてしまった。


 その時の配信が切り抜かれていた。



「なにこれ!? 登録者が1000人超えてる!」


『おめでと!』

『おめw』

『うお!ほんとだ!』

『収益化可能』



 すごい……登録者が1000人超えた! 1000人超えることを目標にしてたのに、一気に2000人超えた!



「でも、ありがと。みんなのお陰でちょっとだけいい事あった」


『おい、毒舌キャラ崩壊しとるがな』

『俺はこっちの方がすこ』



 なにこれ。狭間さんのやってる事を見て、たった一つ真似しただけでこんなに登録者が増えた!


 全く何なの!? あの人! さやか様をたらしこんでヘラヘラしてるし! お姉様もそれを止められないみたいだし! あろう事か、修二郎様や清花様ともフレンドリーに話すなんて!


 ちくしょう!


 ボクがなりたいのは、あの立ち位置だ。何でボクにはできないんだ!?


 そ、そうだ! 真似! もっと真似したらいいんだ! あと、「役割」だ。ボクには役割がない。



(コンコン)ドアがノックされた。お姉様かな?



「ごめん、お姉様来たみたいだから、今日の配信は終わります」


『でた!お姉様!』

『エルフたんの口からお姉様!』

『おつーw』

『また明日w』



 ボクは玄関の扉を開けた。確かに配信終了のボタンは押した……はずだった。思い込みとは恐ろしいもの。切ったと思ったら、それ以上は確かめない。



「はーい! 今開けます!」


『あれ?』

『まだ、続いてね?』

『エルフたん、切り忘れとるぞ』

『アバターから魂が抜けたみたいなのスキwww』



(ガチャ)「あれ? 狭間さん?」


「悪い。エルフ、明日『朝市』で仕事手伝ってくんないかな?」



『あれ? リアルでも「エルフ」って呼ばれてる?』

『ネタ? これはネタ? よくある切り忘れ詐欺?』



「別にいいけど……何すんの?」


「『朝市』でイベントやるから、そのアシスタント。ステージでニコニコしてたらいいから」



『え!? エルフたんどっかのイベントでアシスタントやるの!?』

『芸能活動!? アイドル!?』



「アシスタント……」


「そ。だから、衣装はこっちで準備するからそれ着てステージに立って」



『なんか衣装も準備されるらしい。エキストラとかじゃない!』

『マジか!? ちょ! 特定班いないのか!?』

『登録者2000人じゃそうそういないか! 残念!』



「……ボク人がいっぱいいるとこ苦手なんだけど……」


「大丈夫、大丈夫。ちゃんとメインのMCがいるから、お前はホントに立ってるだけでいい。たまに料理を渡してくれたらそれでいい」



『MCいるらしいぞ!』

『どこどこどこどこ?』

『なんか、おらワクワクしてきたぞ!』



「うーん、よくわかんないけど、分かった……」


「ごめんな。頼むよ。じゃ、おやすみ」


「うん……」



 戻ってきて、画面を見て驚いた!



「なんっ! ……まだ!? 切り忘れ!?」



 コメントがどんどん流れてる!



『リアクションがリアル!www』

『まだ配信されとるでwww』

『リアルでもエルフたんなんかwww』



「ちょっ! ボク、何 言った!?  ごめん! 切るね!」



 ヤバいヤバいヤバい! ボク何言った!? 大丈夫だよね!? 大丈夫だよね!? ボクの心臓の鼓動はカンストしていた。

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