第130話:さやかパパ・ママとエルフとは
「あっはっはっ! 狭間くんは相変わらず面白いなぁ!」
今日は、さやかパパこと修二郎さんとさやかママこと清花さんが帰ってくる日だったみたい。
「笑い事じゃないですよ、修二郎さん。俺は毎日絡まれてるんですから!」
「くっくっくっ。ホントにきみはいつも飽きさせないねぇ」
珍しく上のテーブルの方で さやかパパと話している。
俺の隣には、もちろん さやかさんが座っている。
そして、下のローテーブルの方では、エルフと東ヶ崎さんが清花さんに土下座の様相で謝罪している状態。
「清花様! 申し訳ありません! 寮や学校を抜け出して来てしまいました!」
えー、エルフって寮暮らしなの!?
……そう言えば、俺は彼女の事をまるで知らない。金髪幼女エルフって事くらい。あとは、小学生くらいの身長しかないけど、高校生だということだろうか。
「私が付いていながら、まだ送り帰しておりません。申し訳ございません」
東ヶ崎さんも一緒に謝ってる。いいお姉さんだなぁ。こんな時一人だったら、ガクブルで謝罪の言葉も出ないかも。
東ヶ崎さんが横にいる事で心強さは全然違うだろう。
「報告は受けています。この件は、東ヶ崎に預けていますので私から言う事はありません」
「「ありがとうございます」」
あ、なんか雷は落ちなかったみたい。
「それに、狭間くんが対応してくれているんでしょ? じゃあ、大丈夫じゃない」
三人が一斉にこちらを見た。なに、その俺に対する絶対の信頼。やめてもらえますか。
「あの……俺は……」
「じゃあ、大丈夫ですね」
さやかさんが横でニコニコしながら俺の腕を組んできた。
お願いだから乗っからないで……
「一段落したみたいだから、僕らもあっちのテーブルに移ろうか」
「はい」
「はーい」
修二郎さんが促して移動することに。ローテーブルは、修二郎さんのお気に入りだから。
片側に さやかパパ・ママが座り、そのテーブル挟んで向かいに、俺、エルフ、さやかさん、東ヶ崎さんの順番で座った。
本来なら、上座にはさやかさんが座るべきなのだが、既に俺に譲ってくれているし、エルフは話題の中心だから、俺の隣。さやかパパ・ママが話しやすい様に。
「狭間くんは、迷子のエルフを保護してくれたんですって?」
清花さんが話題を振ってきた。
東ヶ崎さんが夕飯の準備をしてくれているので、間を持たせてくれたみたい。
「たまたまですから……」
「またそんな、謙遜してー」
いや、事実なんだけど……
「なぁ、なんで清花様ともフレンドリーに話せてるんだよ!」(こそっ)
エルフが横でこっそり聞いてきた。
「まあ、ちょっとな」
「ちょっとで清花様とこんなにフレンドリーに話せないよ!」
そうか、エルフにとって さやかさんは既に「神」な訳で、その親ともなると神の上……「存在しない概念の何か」なのかもしれない。
実際、彼女が正座を一切崩さない。背筋もピシッとしている。
「や、やっぱり、ボクもお料理を運ぼうかな……」
場の雰囲気に耐えられなくなったのか、エルフが立ち上がろうとした。
「まあ、いいじゃないか。たまには話そうよ」
「はっ、はひっっ!」
さやかパパにブロックされたみたい。せっかくのチャンスなんだから、話ししたらいいのに。
若さゆえか、エルフは落ち着かない様子。多分、さやかパパ・ママはエルフとも話したいんじゃないかな。
「さやか、追加の会社は決めたかい?」
「それが、まだ決めきれてなくて……」
さやかパパは、さやかさんと話すことにしたらしい。
「それじゃあ、芸能事務所を優先してくれないか」
「なにかあるんですか?」
「うーん、同業他社にあんまりよくない噂を聞いてね。どうせなら、うちで面倒をみたい」
以前は、事業は慈善事業じゃない、とか言っていたのに、人の為に動いている。こういう所がカリスマ性と言うか、人徳を生むというか、魅力になっていくんだろうなぁ……
「よくない噂ってどんなのですか?」
「所属してるのが十代の子が中心なんだけど、使い潰しっていうか、枕営業まがいの話もあってね……」
芸能人になろうと思ったら、確実な道なんてなさそうだ。一か八かなところもあるだろう。
そういった「夢」みたいなものをチラつかせて、大人が悪いように利用するのは確かに気持ちよくない。
ただ、俺達に何かできることがあるだろうか……
「分かりました。一両日中に、会社を訪問して話を聞いてみます」
「ああ、頼むよ。社長には連絡しとくから。さやかに都合のいい時間を伝えるように言っとく」
「はい、分かりました」
よりによって、芸能事務所……俺の全く知らない世界。何なら、最新のアイドルの名前すら言えない程度。
大丈夫かな……。
*
料理もテーブルの上に並べられた。
「じゃあ、食べようか。号令をエルフちゃん頼むよ」
「は、はひぃっ!」
さやかパパのオーダーに震え上がるエルフ。なんか可哀想になってきたよ。
「しゅ、修二郎様、き、き、清花さみゃ。いい、いっ、一緒に食事をする機会をありがとうございましゆっ!」
あああ、噛み噛みだよ。
「そんなに緊張しないで。僕ら親子じゃないか」
「はっ、はっ、はいーーーっっ」
修二郎さんの言葉に真っ赤になって、挙動が不審なエルフ。実に新鮮。
「で、ではっ、いただきましゅっ!」
「「「「いただきます」」」」
今日のメニューは、肉じゃがだった。他にも小鉢が付いていて、ご飯と味噌汁。典型的な和食って感じ。
「あれ? ご飯がおいしい!?」
何となくだけどそんな気が……
「すごいですね、狭間さん! 今日は、修二郎様が送って下さったお米に替えました」
東ヶ崎さんが答えた。
「あ、もう届いたんだ。地元で新米だってもらったんだよ」
「たくさん頂いたので、しばらくは狭間さんの好きなお米ですよ」
東ヶ崎さんがニマニマしながら言った。
「ちょっと待ってください! 俺が食いしんぼキャラになってないですか!?」
「「「ははははは」」」
笑っての食卓。両親とも亡くしている俺には過ぎた幸せの場だった。この場に居られる幸せを噛み締めた。
そうなると、横で表情「無」でご飯ばかり食べているこの金髪幼女エルフが気になる訳で……
「エルフ、ご飯がおいしいからってそればっか食べてたら、肉じゃがだけになっちゃうぞ?」
「うっ、うるさいな! いま食べようと思ってたんだよ!」
「大好きなお姉様が作ってくれたんだから、味わってな」
「味わってるよ!」
エルフが、肉じゃがのじゃがいもを大きいまま一個口に頬張りもぐもぐしてる。
なんか、リスが口にエサをためている光景が思い浮かぶ。
「お姉様! 今日もおいしいでふっ!」
エルフがさやかさんを挟んで隣の東ヶ崎さんにお礼を言った。
「エルフちゃん、よく噛んで食べてね」
「はい! よく噛んで食べます!」
背筋がピシッとした正座で食べ続けるエルフ。
「なあ」
「なっ、何ですか!? 狭間さん!」
「お前、正座得意なの?」
「……」
返事がない。
「足、痺れてない?」
正座したエルフの足の指をツンと突く。
「ひあぁぁあーーー!」
変な悲鳴と共に膝立ちになるエルフ。
「足くずさせてもらえよ」
「あっ、いっいえっ!」
慌てふためくエルフ。
「ごめんごめん、エルフちゃん。足崩してよ。せっかくのご飯なんだしさぁ」
「そうよ。子供が遠慮するなんて」
さやかパパ・ママも別に不快には思ってない様子。
「ほら、大好きなお父様とお母様もそう言ってくれてるぞ?」
「うっ、あっ、うっ……」
どうするのが正解か分からなくなったみたい。
「それとも、俺の膝の上に座るか?」
「座るわけないだろ!」
そう言うと、足を崩そうとするのだけど、痺れてない動けないエルフだった。
また笑いが起きていて楽しかったが、エルフだけは真っ赤になっていた。きっと、後で文句言われるな、ありゃ。
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