第128話:エルフの報告とは その2


「お姉様! あいつ元カノに会ってましたよ!」


「あぁ、山本部長のことですか?」


「ご存じなんですか!?」


「はい」



 今日も、ボク、九重エルフがお姉様にあいつの実態を報告しているところ。あの後車の中で聞いたのだ。実はあの部長と昔付き合っていたことがあることを!



「あいつ、あの会社クビになったのに許してへらへらしてさぁ……意気地がないって言うか……」


「エルフちゃんなら同じ立場で、会社の人たちを許すことができますか?」


「無理です! そんなことされたら訴えます!」


「訴えるのは可能でしょうけど、それでどうなるんでしょう? 人が改心してみんなニコニコハッピーエンドになりますか?」


「……」


「当時の営業の方が約10名として、全員クビにしたとして、ご本人、そのご家族を含めて30人から40人が幸せになれたでしょうか?」


「……それは自業自得で……」


「営業がみんないなくなったら会社は大丈夫でしょうか? 会社全体だとその倍は不幸になる人が出てきませんか?」


「……それは……」


「我々チルドレンのトップは修二郎様ですよね。修二郎様がミスをした人間や修二郎様を良く思っていない人間を次々切っていったとしたら……あなたはどう思いますか?」


「……」



 ボクは、落ちこぼれだ。何をしてもうまくいかない。ドジで失敗も多い。そんな人間が組織にいたら、ボクは切られる方……



「それは……クビになるのが怖いから……」


「あなたは、クビになるのが怖いから、お嬢様に媚びているのですか?」


「ちがっ! ボクはさやか様のことを尊敬していて……お姉様にも憧れていて……」


「それはありがとうございます。私は、エルフちゃんをクビにする権限はありませんよ? 慕ってくれているのは、それは恐れからですか?」


「……違います」 


「狭間さんは私たちを信用してくれます。そして、具体的で実現可能なアドバイスをくださいますよね。狭間さんに相談した人は喜んでいませんでしたか?」



 そう言えば、あの中野って人も喜んで部屋を出て行った……そう言えば、その前の部長も、この間の領家さんも……



「あなたが、狭間さんに失礼な態度を続けていても、狭間さんはキツイことを言ったりしていますか?」


「……いいえ」


「それは、懐が深いと思いませんか?」


「……お姉様は……」


「?」


「いえ……なんでもありません」




 ― お姉様はあの人が好きなんですか?



 そう聞きたかったけど、聞いてはいけないような気がしてやめてしまった。



 *



 今日もお姉様は行ってしまった。後は一人で考えなさいてことだろうか。



 何でもない顔をして何でも上手くいかせてしまうあいつと、何をやっても上手くいかないボク。世の中的にはどちらの方が価値があるんだろう……そんなの考えなくても分かってる。


 ……だから、ボクはあいつが許せないのか。


 あいつはみんなに好かれている。そして、ボクは好かれてない。


 あいつはみんなから必要とされていて、ボクは必要とされてない。


 あいつはみんなの役に立っていて、ボクはみんなに迷惑をかけている。


 だから、ボクはあいつが嫌いなのか……その根っこは……



 ― 嫉妬



 ボクは……あの人になりたいんだ。あの人みたいになりたいんだ。


 ちくしょう! 何一つ勝てない……くやしい!



 正座して膝の上にある拳に力が入る。そして、その拳の甲の上に雫が落ちてきた。ボクは何がこんなに悔しいんだ! どんな努力をしたって言うんだ! まだボクは努力すらできてないじゃないか!



 *



 今日もVチューバーとしての配信をした。


 登録者は142人。ちょっと増えた? いや、誤差の範囲か……


 ボクにできること……あいつの真似でできること……今日はコメントをくれた人の名前を呼んでみよう。あいつが野菜直売所でスタッフの人の名前を呼んでいた真似……ボクの貴重な登録者様……貴重なリスナー様。


 今日は雑談枠。素人Vチューバーに枠も何もあったもんじゃないけど……



「ハンドルネームの『安全なのは自室だけ』ってお前は引きこもりか!」


『うわ! エルフちゃんに名前いじられた!』

『裏山』

『わいもわいも!』


「お前のこと見てっかんな!」


『怖い怖い怖いwww』

『睨まれたwww 睨まれた映像が見えたwww』

『ぞく×2っとしたわ!』


「今日は徹底的にリスナーをいじるから!」


『まさか俺も!?』

『わいもキボンヌ』


「あーん!? 『はぐれメタル純情派』だぁ!? 純情なヤツがボクの番組なんか見る訳ないだろ!」


『わいもいじられた!』

『自虐!? まさかの自虐ネタ!?』

『ヤバい! 次俺の予感!』


「うっさいなぁ。お前は絶対不登校だろ! ボクと同じ匂いがする!」


『エルフちゃん不登校www』

『どったの? いじめ!?』

『わいと一緒』


「うるさいなぁ! いいだろ! 不登校でも。ちょっと休んでるだけだよ!」


『マジだったwww』

『わいが話聞いたろ』

『なんか面白いことになってきた!』

『盛り上がってるのはここでーす!』


「いいよ別に。ボクはお姉様に相談にするから……」


『お姉様!? エルフたんの口からお姉様!?』

『実はいいとこの子説』


「でも、ボクどうしよう……」


『言動が不安定』

『情緒不安定エルフたん』

『大丈夫か!? エルフたん』

『どったん? お兄さんが聞いちゃろ』


「力になってくれてる人にボク酷い態度をとっちゃって……」


『エルフたんのデフォでしょ』

『ツンデレなの!? エルフたんツンデレ!?』


「ちがっ! あいつなんか嫌いだし!」


『何かしてもらって嬉しかったらそれを真似しらいいんじゃね?』

『目には目をハニワにはハニワを!』


「真似……真似か。分かった! やってみる!」


『報告よろ』

『俺明日も来るわ』

『エルフたんガンバ!』



 今日の配信を終えた。なんか初めてリスナーさんと絡んだ気がする。たった142人のリスナーさんだけど……

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