第126話:さやかさんのヤキモチとは


「今日はエルフちゃんと一緒でしたよね?」


「あ、はい。一緒でした」



 リビングのソファでテレビを見ていたら、横にさやかさんが来て座った。部屋にもテレビはあるのだけど、どうせ見るなら大画面がいいよね。


 東ヶ崎さんはエルフの話を聞いているらしく彼女の部屋に引っ込んでいる。いつもならコーヒーを出してくれるタイミングじゃないだろうか。


 さやかさんが、俺の横でソファに座ったまま腕を組んできた。あ、可愛い感じ。



「どこに行ったんですか?」



 一瞬、やきもちかと思ったけど、さやかさんはニコニコしている。普通に聞きたかっただけみたいだな。



「あぁ、予定通り領家くんのところに行ってきました。『朝市』にキッチンが欲しいらしいです。『屋台』の試食を持ち込む人の仕上げとかに使うらしくて」


「あー、なるほど」


「業務用の厨房機器を旧『入口』の2階に設けようと思うんですけどどう思います?事務所はやめにして」


「んー、私もキッチンの方がいいと思います。事務所は農家さんも来られますので、やっぱり1階の方が便利そうですね。でも、キッチンは、業務用じゃなくて家庭用のシステムキッチンにしたいです」


「何か意味があるんですか?」


「最新のアイランドキッチンで広々した場所……ピーンときました」


「……直感……ですか」


「うーん、直感です。根拠はありません」


「でも、費用的には家庭用の方が安いので、アイランドキッチンで最新をそろえましょう」


「お願いします」



 このリビングでラブラブムードで仕事の話。毎日こんなだったら、世の中の「仕事」は概念が変わってしまうだろう。



「他は、どこに行ったんですか?」


「『朝市』が午前中で片付いたので、午後から『森羅』に連絡して山本専務に頼まれていたホテル周りと、ついでの農家さん周りを何件か行ってきました」


「お昼は? 何食べたんですか?」


「お昼は『朝市』でローストビーフサンドを……ってどうしたんですか? めちゃくちゃ質問攻めじゃないですか」


「だーって、ずーっとエルフちゃんと一緒だったんでしょ?」


「それも直感ですか? 浮気はしませんよ?」


「うーーーーー、単なるやきもちです」



 さやかさんが大きなクッションを抱きしめて悔しそうに言った。俺はグイっと抱き寄せて優しくキスをした。



「さやかさん」


「……分かってるんです。狭間さんは浮気とかしません。でも、私が狭間さんと会った時は、私も高校生だったし……」



 どうも俺はさやかさんに「JK好き」と思われているようだ。



「俺と さやかさんの年齢差は10歳で俺の中では、軽く犯罪ですよ」


「ぷっ……そんな風に思ってたんですか?」


「だって、んーーーー、大切にしてたんです。さやかさん未成年だったし。高校生だったし」


「……じゃあ、高校生じゃない今は?」


「こんな豪華な据え膳はありがたくいただきます」


「ひえー」



 真っ赤になるさやかさん。相変わらず防御力ゼロだ。


 少し身体を寄せると、さやかさんが身体の後ろの方で手を突いた。それでも、更に迫っていくと さやかさんはソファに仰向けて寝転がる形になった。



「狭間さんは私をそういう対象としてみている、ということでしょうか?」


「めちゃくちゃ対象として見てますよ」


「あわわわわ……ちなみに、エルフちゃんのことは……」


「さやかさんと東ヶ崎さんの妹くらいに思ってますけど、歳が一回り違いますからね?」


「だ、大丈夫ですよ? 分かってましたから」



 そんなことを言いながら、あからさまに笑顔になるさやかさん。俺は彼女の腰のあたりに手を回して軽くキスをした。



「ん……ちょっ、狭間さん。ちょっと待って」


「待ちません」



 手を繋いでキスをして……もう少し……



(パタパタパタ)「失礼しました、エルフちゃんの報告を聞いていました。今コーヒーお入れしますね」



 スリッパの音を鳴らして、東ヶ崎さんがリビングに降りて来てしまった……


 俺もさやかさんも身体を起こし、並んでソファに座りなおした。もちろん、背筋はピーンと伸びてる。



「テレビ面白いですね、さやかさん」


「はい、狭間さん」


「? ニュースですよ? 何か面白いのやってましたか?」



 頭の上にいっぱい「?」が見える東ヶ崎さん。いいんです。何でもないんです。


 ……リビングはダメだな。次こそは! 次こそはーーーーーっ! 

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