第125話:エルフの報告とは

 ボク、九重エルフは家に帰ると、あいつのことをお姉様に全て報告した。ざまあみろ。


 あと、初めてお姉様のお部屋に入れてもらっちゃった……きれいに片付けられていて、いい匂い……



「……という訳で、あいつはボクのことを『これ』とか呼んだんですよ!」


「狭間さんが……」


「そう! 酷いでしょ!? お姉様分かりましたか!?」


「狭間さんがそんなにフランクに……」



 ショックを受けているみたい。ここはダメ押しで! あいつの裏の顔をお姉様に暴露するチャンス!



「お姉様が見てない裏ではそんな感じで普通に酷いんですよ!」


「羨ましい……」


「え!? お姉様?」


「狭間さんは、いつも丁寧な言葉を話されます。その点、お嬢様に似ている点があります。でも、その分、一定以上踏み込んで来られない方です。『ここだけの話』とか『ぶっちゃけトーク』などは一切されません。陰口を言わないので、とても好ましいことなのですが、心の距離を詰めてくださらないので、ちょっと寂しくも思うことろです。それなのに、エルフちゃんに対して、そんなフランクな感じで……よほど気に入ったと言うことかしら。そう言えば、エルフちゃんだけ『エルフ』と呼び捨てだし! 私のことは『東ヶ崎さん』が固定だし、以前揶揄われた時も『愛ちゃん』とちゃん付けだった!」(ペラペラ)


「お、お姉様……?」


「おっと、失礼しました。エルフちゃんは狭間さんに好かれているみたいですね……」



 お姉様が後ろを向いてしまった。何故か頭を抱えている……お姉様の背中が寂しそう……何故? あいつ……酷いんですよ?



「コホン。失礼しました。エルフちゃん、そこに座って」


「はい、もう座ってます」


「そうね、それならいいわ」



 お姉様らしくない感じ? 優秀なお姉様がポンコツ化した?



「狭間さんは、『朝市』では、スタッフの方を名前で呼んでなかったかしら?」


「……呼んでました」


「あそこにスタッフさんが何人くらいおられるか見てきましたか?」


「……いえ、見てないです」


「30人以上おられます。狭間さんは常駐じゃないけれど、全ての方の名前を覚えておられます」


「え!?」



 そんなの暗記が得意なだけだ。



「狭間さんは、どちらかというと暗記は得意な方じゃありません。でも、それぞれの方とコミュニケーションを取られているから名前を憶えておられます」



 お姉様がボクの心を読んだ!?



「あと、あれだけ忙しいのにスタッフさんに無理をさせません。そういった気遣いに気づきましたか?」


「そんなの買いかぶりです! きっとそんなこと考えて……」



 ここで、領家さんに学校を優先するように言っていたことを思い出した。いや、わざわざボクがいる前で言ったんだ。単なるポーズに違いない!



「そうだ。気遣いと言えば、お昼はありがとうございました」


「? 何の話?」


「ほら、お姉様が気を使ってくれて、あいつに昼食代を渡していてくれたことです」


「……私は何もしていないです。もしかしたら、それも狭間さんの気遣いかもしれませんね」


「!」



 ち、ちくしょう! ボクが後になって恥をかくようにしかけていたな……あのやろう!



 *



 夕飯の時、全然味がしなかった……せっかく、お姉様が作ってくれた夕飯なのに。あいつがいいヤツなはずがない! さやか様をたぶらかして! お姉様も誑かして!


 ボクがあいつの化けの皮を剥がさないと大変なことになってしまう!


 食事の後、僕はボク用に貸し与えられた部屋に引きこもった。そして、ノートパソコンを開いて起動させた。


 いくつかのアプリを立ち上げて、配信を開始した。


 ボクはVチューバー。登録者数が136人しかいないけど、Vチューバーの端くれ。今日の配信は5人しか見てくれてないみたいだけど……


 ボクは炎上キャラ。悩みを言ったりするんじゃなくて、リスナーさんを見つけたら罵倒するのがボクの役目だった。キャラ付けしないと……



「平日のこの時間まで起きていられるのって暇なの? ニートなの?」



 ボクのアバターは、黒髪の女の子。ボクの理想の女の子。お姉様みたいにきれいな黒髪の……こんな金髪じゃなくて……あぁ最近、なにもうまくいかない。


 ボクはドジが多いから、将来仕事なんて出来るのか……並以下のボクが高校卒業したらちゃんとお嬢様やお姉様のお役に立てるのか……考えただけでも気が重い。



「お前くらいだと何やっても上手くいかないんじゃない? 目に浮かぶようだわ」



 そんなことから逃げ出すために始めたVtuber。これで一発大当たりさせてこれを本業にしようと思っていたのに、始めて半年は経つのに登録者は136人。収益化もできていない。


 見ている人が途中で5人から4人になったけど、残っている4人を揶揄ったりして何とか盛り上げた。


 ボクがこんなに色々考えて頑張ってるのに、何もしてないあいつが評価されるのって……世の中の不合理さを感じずにはいられなかった。

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